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金糸雀 ~カナリア~  作者: 蒼崎琴子
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見えないもの

今回は、バズからの視点です。時間も少し戻ります。

カナリアは出ません。


時は少し戻り、カナリアたちが誘拐されるとほぼ同時刻。

バズは走っていた。とにかく必死で。


ばぁ―――――っん! という乱雑な音と共にカラーンというドアの開く音がその場に鳴り響いた。普段から静かなその店では、その音は異常とも言えるくらい響き渡る。

その音に怪訝そうな顔を見せるのは、自分の知る限り最高に顔立ちの整った美青年―――ノイン・K・アークレインド=ハインディックだった。

彼はコーヒーの入ったマグカップを目の前に置き、一人カウンター席に座っていた。


「君は………」

「―――どうかしましたか?」


カウンターに立っていたグレアスがノインの一言を遮った。それは、思慮深いグレアスなら絶対にしないようなことだ。

しかし、バズは気付かない。

ノインは少し驚いたように軽く目を見開いた。

けれど、グレアスの質問に続く言葉にノインはさらに驚かされることだった。


「カナが誘拐された!」



                ○



「カナリアが誘拐された?」

「……カナリア?」

聞きなおしてきたノインの言葉に、バズは不機嫌に顔を見せた。

(なんだよ、カナリアって……)

自分のお得意先の人間なだけに抑えなければいけないのだが、カナのことで心が高ぶって、抑制がいまいち効かない。

(カナを泣かしたのは、こいつか)

実際に見たわけではなかったのだが、バズはそう思った。


「どこだ!」

「知るかよ! そのままどっかに連れて行かれたんだ!」


バズは、勢いよくノインに噛み付く。

でないと、頭でも弁でも負けてしまいそうな気がした。

しかし、ノインのほうもどこか平生とは雰囲気が違う。それは、左程あったことのないバズでもわかるほどの変化だった。

そして、間を察したグレアスが口を開く。


「バズ、これを飲んで詳しい話を聞かしておくれ」

「そんな暇ないって! 早くしないと……」

「―――バズ、今のお前さんは動転しすぎじゃ。少し落ち着かんと、それからでもまだ間に合う」

「………あぁ」


グレアスの強い押しはバズにしてみれば初めての事で、グレアスの気迫に押されて返事をしてしまう。

すると、満足そうにグレアスは首を縦に振った。


「それじゃあ、聞くとしようか。まず、誘拐されたのは誰じゃ?」

「カナ! ……後、パトリシアとコレット」

「! コレットまで……」


カナの誘拐に気を取られすぎていたが、パトリシアとコレットも誘拐されていた。

グレアスは、カナが誘拐されたならそれを追っていったパトリシアにも何かあったことを予想していたようだ。顔を顰めるのは、ノインのみ。

それを言ってから気付く。「あぁ、そうそう……」とポケットに放り込んでいた物体を出す。


「それは、トリシャのボタン!」

「パトリシアが持っていけって……」

「あいつも一緒なら、まだ安心か」


パトリシアがハインディック家のメイドをしていることは、バズも知っている。そして、気転が利くことも。ノインの言葉は、如実彼女を知った上でそのことを表していた。

けれど、バズは安心出来なかった。


「次に、どこで誘拐されたのかな? 後、誘拐犯は見たかな?」


グレアスは、バズに答えやすいようにゆっくりと尋ねていく。


「町外れの共同墓地。日が暮れたから、犯人は見ていないけど……」

「けど、何かな?」

「少なくとも二人はいた。カナとパトリシアが同時に捕まったようだったから」


すると、聞くことはあらかた聞いたのか、二人は黙り込んでしまった。

バズ自身、これ以上言えることはなかった。これがパトリシアなら、あの勘の良さから何かに気づくだろうが、バズには状況報告が限界だ。後は、グレアスの言葉を待つしかなかった。


「場所は特定できるかのう? ノイン」

「二時間待ってくれ。探してみせる。―――悪いが店の裏を借りる」


そのまま、ノインは出て行ってしまった。

その場には、バズとグレアスだけが残された。


「嫌な奴」


一言、ぼそりと心につめていた事を吐き出した。

その言葉を耳にしたグレアスが、カウンター越しにバズを見た。


「バズ、彼もカナのことを心配しているのじゃよ」

「……けど、あんな態度……」

「バズ、そんなことは決してないぞ。そこを見るんじゃ」


グレアスがやんわりとバズを嗜める。そして、ノインの座っていた席を指した。

あるのは、マグカップに入ったコーヒー。口をつけた形跡はない。


「それ、パトリシアがカナを追ってから、もう一度淹れたものです。彼は一口も飲みませんでした。彼女達を待つ、と言って」

「! ………」

「心配しているのは、バズだけではない。間違えてはいかんよ。皆が皆、貴方のように感情を表に出せる人ではないんじゃ」

「…………」

「考えることは必要じゃ。儂は、コレットの家へ行って来る。バズもじっくり考えるんじゃな」


カランカラーン、という音と共にグレアスは出て行ってしまった。

その場には、バズだけが残された。

夜の闇に光る店の灯りが、バズには眩しかった。


グレアスの言葉は、バズの心に突き刺さった。

あの時、パトリシアがバズをカナの下に行かせなかったことが思い出される。

パトリシアは、見抜いていたのだろうか? カナがバズには涙を見せない事を。

(あいつも、そうなんだろうか……)

バズにはわからなかった。


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