襲撃!
日がすっかり暮れてしまった頃、カナは泣き止んだ。
「だ、大丈夫?」
コレットが不安げに見つめてくる。
「うん、大丈夫。ごめんね、服」
「いいよ、そんなこと。それより、どうするの? 戻る、お店に?」
「………う、うん。マスターに何も言っていないし………」
たぶん、彼ももういないだろうから、とカナは心の中だけで呟いた。
「聞いても良い? どうして、そんなに泣いてたの?」
「…………ごめん。まだ言えない」
「そう………なら良いよ。カナ姉の言いたくなった時にでも聞くから」
そのコレットの優しさに甘えてしまう。それではいけないと思いつつも、カナは何も言えなかった。
(いつかは、言わないと………)
それがもう少し先でも良いかな? と思ってしまう。それでも、向き合うとしてもコレットよりも先に向き合うべき人がいると思ったから。
(会いに行こう。ちゃんと言わないと)
でないと、コレットにも言えないから。
―――落ち着いてきた町での日々が、少し壊れる音が聞こえた気がした。
「あれ? そう言えば、トリシャ姉は?」
「ん? トリシャ姉?」
誰だろう。聞いたことのない人の名前だった。
「トリシャ姉―、トリシャ姉―、トリ―――……」
「―――そんなに大きな声を出さなくても聴こえているわよ!」
すると、草むらから一人の少女が現れた。日が暮れた不気味な墓地では彼女の姿はかなり見えにくかったが、そのきちんとしたメイド服姿から誰かわかった。
(彼の側にいたメイドだ!)
店の初日に会った少女だ。
「貴女は………」
「パトリシア・J・インディス。ハインディック伯爵家でメイドをしているわ」
勝気そうな綺麗な弧を描く瞳が鋭く光った気がした。
(たぶん、彼女は私の事を知っている……)
「貴女が、カナリアね」
「えぇ」
「店で彼が待っているわ。戻りましょう」
「…………」
パトリシアはカナに―――否、カナリアに手を差し出してきた。
しかし、カナリアはその手を取らない。否、取れない。
(けれど、彼と一度話さないと………)
自分があの時から止まっている気がしたから。
カナリアは、ゆっくりと手を伸ばした。
―――が、後ろからした嫌な気配に即座に手を引っ込めた。
「コレット!」
慌てて後ろを見たが、もう遅い。コレットはもう一言も発さなかった。
「何! どういうこと?」
パトリシアも何の事だか把握していないらしい。慌てた様子で、辺りの状況を確認しようとするが、もう日は完璧に暮れてしまっていて何も見えない。
カナリアは、目の前にあった微かな気配を感じた。
けれど、それはカナリアの力ではどうしようもないものだった。
「バズ! これ持って店に行きなさい!」
パトリシアは自分の持っていたメイド服のボタンを引きちぎって、とにかくバズがいると思った方向に投げつけた。
(バズ、いたの?)
カナリアからしてみれば、初耳な上にびっくりだ。
けれど、それでよかった気がする。
後ろから押さえつけられ、カナリアは身動きが取れなくなってしまった。
パトリシアも同様で抵抗しているようだが、もう声も出せなくなってしまっている。
コレットの事も心配だった。彼女は、もう抵抗する気配すら見せない。
口元に布を押し付けられ、カナリアは意識が遠のくのを感じた―――
大人しめのキャラクターが主人公に来ると、どうもぶりっ子っぽくなってしまう気がします。そんなはずでは………と思うんですが。
カナリアがぶりっ子だと感じた方、是非ともお教え下さい! 元のキャラクター(大人しいけど、しっかりした感じ)に引き戻します。