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金糸雀 ~カナリア~  作者: 蒼崎琴子
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翼のない金糸雀



「―――カナ、リア………」


そう呼ばれて、全身が震え上がった。

同時に泣き出しそうになった。

その声が、その名前が、とても懐かしくて。

まだ一ヶ月なのに、無償に懐かしくて。

しかし、気付けば、足は勝手に動き始めていた。

普段の運動不足が祟って、足はかなり遅いし、発育不全なために長距離走ることは出来ないはずなのに、思いの他カナの足は動いて見せた。


会いたかった。

会いたくなかった。

大好き。

大嫌い。


錯綜する思いばかりで一杯になって、押しつぶされそうだったから、逃げるために足は動いて見せたのだ。


(耐えられなかった………)


何に? そう問われれば、一つ。

―――彼に。


店から出てきた時、心が張り裂けそうになった。

癖の無い漆黒の髪に、切れ長の紫水晶の瞳、夜型のせいで不健康にも見えてしまう色の白い肌とすらりと洗練された手足の長いバランスの良い長身、黒い外套と趣味の良い色の深い服装、まるで絵本の中の王子様のような青年だった。ただ、その顔つきは険しく、あまりに王子様らしくない表情を浮かべていたが。

何もかも今までずっと見てきたものだ。

そして、ずっと目を反らし続けてきたものでもある。


追ってきたのだろうか? 逃げたから。

でも、何故? 

そう、何故なのだろう。

彼は多くのものを私にくれたけれど、私は彼に何もしていない。

ただ、彼に持たれ続けただけ。

彼が私を追う理由がわからなかった。


だから、逃げ出した。

もう嫌だと思っていたのに、また。


それにわからないことは、まだある。

側に少女がいた。初日仕事場に来た“明るい給仕の娘”という印象を受けた少女が。

彼と彼女の関係がわからなかった。

否、そんなことはない。彼女はきっちりとしたメイド服に身を包んでいた。彼とは長い付き合いだが、彼の家のメイドに会った事は一度もなかった。たぶん、屋敷のメイドなのだろう。

しかし、どうして?

どうして二人は一緒にいるのだろう。


もしかして、カナを心配したわけではないのだろうか?

カナを追ってきたわけではないのだろうか?

やっぱり私は一人なのだろうか?


カナは投げ出してしまった。

それが昔からしてしまう悪い癖。

苦しくなると、全てを捨ててしまうそんな癖。


カナは走り続けた。

ずっと、ずっと。

足が動く限り。

途中、バズとぶつかった気がしたが、それでも走り続けた。



逃げ出したかった。

こんな苦しみから逃れられるところへ。

自分に翼がないことが、とても辛かった。


漢字なのでわかりにくいかもしれませんが、「金糸雀」と書いて「かなりあ」と読みます。

余談ですが、カナの髪の「青みを帯びた金髪」というのは、「カナリア色」という色らしいです。勿論、鳥のカナリアの毛色です。

つまり、カナリアの髪はかなり黄色っぽい金髪です!

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