表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

序章 現実世界との別れ


「あの!美寧々ちゃんの事が、どうしても好きで!!諦められなくて!

俺と付き合ってください!!」


「ご・・・ごめんなさい!!無理です!!」



夕暮れ時の放課後、高校の体育館裏、同級生の男の子に呼び出された私は

頭をおもいっきり下げて、告白を断った。


「な、なんで!!?

一度だけでいいから俺と付き合ってよ!」

「そうは言っても、私には好きな人がいて・・・」

「前の告白でも聞いたけどその好きな人って、誰なの?俺は何度も美寧々ちゃんに告白しているのに・・・・

教えてくれたっていいじゃん!!」


怒り気味の男の子・・・どうしよう・・・話したほうがいいのかな。



私、宮本美寧々、高校2年生。

私には好きな人がいる。

でもそれは叶わない恋なのだ・・・

そう!!私の好きな人は・・・

乙女ゲーム『ギルティハート』、略して“ギルハー“に登場する

ピンク髪の可愛い小悪魔、テイト・グレイド様!!!!!

私は中学生の頃、ゲームの画面越しにテイト様に出会ってからは、ずっと彼に夢中!!!

何を隠そう!!私は乙女ゲームの攻略対象に恋愛を拗らせたオタクなのだ!!!


現在、私の目の前にいる男の子は、中学の頃から毎週のように私に告白を何度もしてきている。

名前は・・・須賀ゆら君。

甘いフェイスをしていて一部の女子生徒からも人気がある彼が、なぜ私を。。。?

本当のことを話してもいいのかな・・・

私がテイト•グレイド様に夢中なオタクだということを。


「わかった、教えるよ・・・

そしたら私のことを諦めてくれる?」


須賀ゆら君は赤らめた顔に少し汗をかきながらコクンと頷いた。


キーンコーンカーンコーン・・・・


17時のチャイムが学校に響き渡る。

私ははっ!と我に返った。



「あの、美寧々ちゃん???

好きな人を教えてよ。」

「ごめん、須賀君!

この話は、また今度ね・・・!!!!」

「あっ!ちょっと・・・」


そう言って私は、猛ダッシュで校門へ!

今日は18時から“ギルハー“の追加コンテンツのアップデートがあるのだ!!

そして明日は土日で学校はないから、長時間テイト様を拝むためにも大量のお菓子をスーパーで調達しなければならない。

でも私はこの時気づいていなかった。

私の後ろ姿を刺さるような瞳で見ている須賀ゆら君の存在に・・・。



学校の校門を出て、近所にあるスーパーへ辿り着いた私は、

息を切らしながら待ち人に声をかけた。


「お待たせ!李々斗」

「遅いよー、美寧々。外なんて出たくないのに・・・

さっさとお菓子買って家に帰ろう・・・」


私と似た顔立ちの彼は、双子の兄の宮本李々斗。

中学の頃から、通信学校に通っていて、私とは違って引きこもりだ。

元気が取り柄の私とは正反対で、なんでも面倒臭がり屋な兄だけど、

今日から3日間は“ギルティハート“に付き合ってくれる。乙女ゲームを一緒にしてくれるなんて、李々斗は妹想いなところあるよなぁ。


「私はテイト様以外攻略しないから、

李々斗は他の攻略対象をお願いね!」

「分かってるよ・・・

その代わり1ヶ月後に控えている僕のゲームにも

ちゃんと付き合ってよね・・・」


ゲーム好きな点だけは、双子なんだなということがわかる。

私は李々斗とカゴいっぱいにお菓子を積んで

家路についた。

夕焼け空が綺麗に見える橋を渡っていると、

私と李々斗の前に人影が現れた。


「ねぇ、そいつなの?美寧々ちゃん。」


夕陽をバックにしているせいで、最初は誰だか分からなかったけど、

その顔がよく見知った顔だった。


「須賀君?」

「美寧々、こいつ例の人・・・・??」


李々斗には、私が須賀ゆら君から毎度告白されていることを話していたので知っている。

すると李々斗は面倒くさそうにしながらも、私と須賀君の間にのっそりと立ち塞がった。


「あの・・・美寧々はいつも君の告白に困っているので・・・

もう関わるのは辞めてもらえませんか・・・?

迷惑なんで。」

「李々斗!」

「いや・・・前から言ってるじゃん、美寧々。

この男、ちょっと変だって・・・

こういうのはきっぱり言わないと・・・・。」


私たちがこそこそと言い合っていると、

須賀君が口を開いた。


「ねぇ、何話してるの?

やっぱり美寧々ちゃんが好きな人って、その人なの?」

「いや、違うけど・・・」

「そうだと言ったら?諦めてくれますか・・・?」


私が否定しようとすると、李々斗が須賀君の質問を肯定した。


「俺知ってるよ?君、宮本李々斗は美寧々ちゃんの双子の兄だってこと。。。

さっき、俺の告白を中断してまで走っていく美寧々ちゃんは、明らかに恋してる顔だった。

だめだよー?兄妹での恋愛は。。。」


須賀ゆら君がどうして李々斗のことまで知っているのかは謎だけど、私の好きな人はギルハーのテイト•グレイド様なんだよ!

そう言いたくて一歩前進したが、李々斗がそれを制した。


「馬鹿だな、美寧々は。

こういう時は、嘘でもカップルって事にしとくんだよ。。。」


李々斗はおそらく、私達がカップルという事にすれば、須賀くんが諦めて引き下がってくれると思ったのだろう。

引きこもりばかりの兄だが、なんだかんだで私のお兄ちゃんしてくれてるなぁと思った矢先だった。

須賀君はそんな兄の胸ぐらに掴みかかった!!


「すっ・・・須賀君!?やめて!!!!」


私は慌てて2人の間に入ろうとする。

でも体力差は圧倒的だ。

引きこもりの李々斗は通常の高校生男子より力もなく細身で低身長。

変わって須賀君は身長がスラリとしていて、部活もしている。


「この男がいなくなれば、美寧々ちゃんは俺のことを・・・!!」

「だから違うってば!!」


だめだ、聞いてくれない!

李々斗はじりじりと押されて行き、橋の欄干まで追い詰められていた。

海と川の境界に近い橋の上、私達の揉み合いを止めようとしているのか、それとも挑発しているのか潮風が強くなる。


須賀君は我を忘れて、瞳孔が開いている。

胸ぐらを掴まれたままの李々斗は徐々に上へ持ち上げられていく。

そして・・・・

李々斗は欄干から身を投げ出され足が地から離れた。


「りっ、李々斗!!!」


咄嗟に私は李々斗を掴む!

だけど私には人を持ち上げる力もなく、

私も一緒に欄干の外へ。


「美寧々ちゃん!!!」


そして李々斗と一緒に真っ逆さまになる私を

掴んだ須賀ゆら君。

絡み合った3人はずるずると芋づる式のように

橋から落ちた!!!!



嘘でしょ!!?

確実に死ぬ!!




「美寧々・・・」

「美寧々ちゃん!!」




あー・・・

この後アップデートしてテイト•グレイド様の新ストーリーを拝むはずが・・・

テイト様と結婚式開いてハッピーエンドになる所まで行き着いていないのに•••


私たちは夕焼け色に染まった深い深い川へと落ちていった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ