魔法少女は……イニーフリューリングは過去を清算する
色々なTS魔法少女モノがありますが、この作品でしか味わえないものを書いてみたいですね。
余談ですが、tips.が70個を突破しました(白目)
「来て……くれたの?」
間に合った……とは言えんな。
だが、最悪の事態だけは避けられたみたいだ。
「慈悲なる回復を」
スターネイルの両腕を元通りにし、少し離れているマリンの傷も治しておく。
腕は元通りに出来たが、失った血は元に戻せない。
そのためスターネイルの顔は青白くなっている。
まあ、戦わせないで安静にさせとけば大丈夫だろう。
『少し時間が掛かったけど、無事に侵入が出来たね。フールに感謝って所かな』
アクマ1人分のリソースでは結界の位置を割り出せても、侵入するには力が足りなかった。
だが、フールの分のリソースもあり、多少時間が掛かったが、何とか侵入する事が出来た。
やはり、力とは良いものだ。
(そうだな。あいつには感謝しておこう。それはそうと肩慣らしも兼ねて折角だし、アクマの能力を使ってみようと思うが、大丈夫か?)
『大丈夫だよ。第二形態になるわけにもいかないし、一度は試しといた方が良いだろうからね』
それは上々だ。
さて、邪魔になるスターネイルとマリンには早く離れてもらおう。
「ありがとう。でも……」
「良いんですよ。あなたには借りがありますからね。なるべく離れていて下さい」
「借り?」
おっと、口が少し滑ってしまったな。
正直な所、バラしても良いのだが、今夜の夕飯を食べる為にまだ黙っておこう。
「イニー!」
「久しぶりですが、まずはあれを倒すとしましょう」
魔法によって吹き飛ばし、氷塊によって押しつぶしたはずだが、氷塊は割られ、魔物と人が融合したような者が姿を現す。
あれがあのブルーコレットね~。
『……あれは魔女の薬だね。使用者に圧倒的な力を与えるけど、最後は魔物にしてしまう、恐ろしい薬だよ』
(何とも恐ろしい薬だな。他には何かあるか?)
『能力の上昇幅はバラバラだけど、最低でもSS級程度はあると思った方が良いよ』
最低って事は、大体それ以上は強いってわけだな。
魔物の力と魔法少女の魔法。少々面倒な敵だ。
(最後に確認だが、助ける方法はあるのか?)
元とは言え、仲間だった者が死ぬのを見せるのは酷だろう。
『私たちは、誰1人として助けられなかったよ。それに、あの薬は自らが望まないと意味を成さないんだ』
自業自得の結果ってことか……。
そして、助けられなかったってことは、助ける方法が無い事を意味する。
まあ、なんだ。向こうは一度俺を殺しているんだ。
殺されても、文句はないだろう。
「今のは少し痛かったわね。久しぶりね。イニーフリューリング」
「私に魔物の知り合いは居ませんよ」
「ハッ! 言ってな! あんたはずっと気に食わなかったのよ!」
『攻撃には当たらない方が良いよ。あれは私たちに直接ダメージを与えてくるからね』
捨て駒の突撃兵と言った所か。面倒な奴だな。
(了解)
「先輩」
「分かってるわ!」
ブルーコレットは俺に突撃してくるが、間にマリンが入って、槍を受け止める。
俺はその場から飛び、空中から魔法を放つ。
俺が結界に侵入した時、マリンは結構危ない状態だった。
マリンが本当に殺す気なら勝てる気もするが、この歳で殺しは流石に無理だったのだろうな。
それに、相手は知らない仲ではない。
どうせ、殺さずに倒そうとしたのだろう。
甘ったるい奴だが、そういう優しさも魔法少女には必要だろう。
ついでだし、この先ブルーコレットの様な魔法少女を相手にしなければならないなら、この状態でどれ位戦えるかを確認しておこう。
アルカナの力を使えば簡単に殺せるだろうが、この先も常に力が使えるとは限らないからな。
ブルーコレットは苛立っているのか、顔を歪ませて、俺の魔法やマリンの攻撃を避ける。
「本当に面倒ね。イライラするわ……お前らが……オマエがいなければ……」
ブルーコレットの背中に新たな翼が生えて両翼になり、角も増える。
手足に見える紋様が禍々しく光り、人の姿からかけ離れていく。
『もう、魔物とほとんど一緒だよ。下手に知性がある分、魔物より厄介かもね』
これは、様子見をしない方が良さそうだな……。
全く、どうして予定通りに事が運ばないんだ……。
「マリン。スターネイルを連れて離れて下さい」
「嫌よ! 私も戦うわ」
「彼女が普通ではないのが分かるでしょう? あれは私の獲物です」
魔物で例えればイレギュラーと言った所だろう。
まともに相手すれば、あっという間に殺されてしまう。
マリンは一瞬俯くが、すぐに顔を上げる。
「分かったわ。ただし、終わったら何でいなくなったか、ちゃんと話してよね」
「善処します」
善処はするさ――逃げるけど。
マリンは2本の刀を掲げ、1本の光り輝く大きな刀に変化させる。
「終ノ太刀・滅光!」
刀をブルーコレットに振り下ろすと土煙が舞い、地面に大きな傷跡を残す。
大技を使った反動でマリンの強化フォームが解け、通常形態に戻る。
そして、マリンはスターネイルを連れて離れていく。
一瞬だけスターネイルと、視線が合った気がするが、気のせいだろう。
それにしても、今のマリンとは戦いたくないな……。
『ほぼノーダメージっぽいね』
世間ではああ言うのをチートとかって言うらしいが、正にその通りだな。
だが、安易に手に入る力には代償も付き物だ。
(ぶっつけ本番だが、頼んだぜ)
『任せてよ! ある意味、初めての共同作業だね!』
それはちょいと違うと思うんだがな……。
「ナンバー15。悪魔。解放」
杖が光り輝き、ガラスの様に砕け、中から歪んだ形をした、長い棒が現れる。
それを掴むと、先から曲がった刃が現れ、大鎌になる。
白いローブは赤と黒に染まり、ボロボロと崩れていき、所々に鎧のようなものが生成される。
……愚者の時もだが、これは悪魔と言うよりは、死神だな。
だが、救いの無い魔法少女を殺すにはちょうど良い。
「来なさい。私の嫌いな魔法少女」
「殺シテやる!」
ブルーコレットは背中の翼を羽ばたかせて空を飛び、槍を振るう。
一撃振るわれる度に空間が歪み、紫電の様なものが奔る。
それを鎌を使って全て防ぐ。
いつもなら筋力の関係で接近戦など無理だが、このフォームでは可能みたいだ。
だが、武器をもっているとは言え、俺の本領は魔法だ。
「戯れの嘘」
ブルーコレットの頭上に魔法陣を展開し、黒い弾を発射する。
何発は弾かれるが、当たった弾は、ブルーコレットの体内に入っていく。
「うぐっ……。なにヲした!」
「さて、何でしょうね?」
ブルーコレットはがむしゃらに槍を振るうが、徐々に動きが悪くなっていく。
使ってみて分かったが、悪魔の能力は燃費が悪いが、強力だな。
魔力の供給がなければ数回魔法を使うだけで、ガス欠になりそうだ。
戯れの嘘は対象の魔力を奪い取り、ついでにかき乱す魔法だ。
そして、奪い取る魔力は魔法に込められた魔力によって決まる。
通常の魔法少女なら、1発当たっただけで魔力が無くなり、変身が解ける程だ。
更に魔力の流れも阻害する。
ブルーコレットは、さぞかし辛いはすだ。
(解析は出来てるか?)
『一応してるけど、やっぱり駄目だね。この薬は人を根底から魔物に作り変えてるみたいだよ。今のハルナでも、元に戻すのは不可能だ』
――やはりか。
悪魔の能力なら或いはと思ったが、無理か。
「なぜ、ナゼ邪魔をする! わたしがナニヲした!」
「なにを……ですか」
忘れているのか、それとも気にしていないのか。
まあ、俺の感傷などどうでもいい。既に榛名史郎は死んでいるのだからな。
そんな姿になってまで力を求めて、一体何を望んだのか分からないが――そろそろ、お別れといこう。
今の俺にとって、この程度の相手は敵ではない。
折角だ。冥土の土産をやろう。
「わたしを殺しておいて、その言いぐさですか」
「エッ?」
ブルーコレットが一瞬驚き、隙が出来る。
「悪魔の笑いは滅びを誘う」
2本の槍を弾き飛ばし、ブルーコレットを鎌で斬り裂く。
ブルーコレットの四肢から力が抜けていき、地面に墜落していく。
土煙が舞い、ブルーコレットの翼や角が砕け、元の姿に戻る。
回復してやることは出来ない。
いや、回復しても無駄なのだ。
魂を浄化して殺す技。それが、悪魔の笑いは滅びを誘うだ。
俺がやれるのは、魔物としての死ではなく、人として死ねるようにしてやることだけだ。
魔法も、万能ではないのだ。
ブルーコレットの横に降り立つと、顔をこちらに向ける。
驚いた表情をした後に、僅かに笑った。
「ねぇ。あんたって、あの時公園にいた人?」
ほう。まさかその可能性を。その事をちゃんと覚えていたのか。
「ええ。訳あって男からこんな姿に変わりましたけどね」
「そう……」
ブルーコレットは咳き込んで、血を吐き出す。後数分位で死ぬだろう。
初めて人を殺したが、思いの外何も感じないな。
相手がブルーコレットだからなのか、もしくは魔法少女だからなのか……まあ、どちらでも構わない。
これからの事を考えれば、良い事かもしれないが、やはり俺は壊れているのだろうな。
「言い残すことはありますか?」
「わたしは……謝らないわよ……あんたがあそこに……居なければ……」
「そうですか。それでは、さようなら」
スターネイルとマリンがこちらに向かってくるのが見える。
時間が経てば、この結界も消えるだろう。
アルカナの力を解いて、俺は先に結界から逃げ出した。
微かにマリンの声が聞こえたが、ここは逃げておく。
結界から抜け出して時間を確認すると、16時となっていた。
止んでいた雪が、また降り始めている。
良い頃合いだし、もうそろそろ帰っておくか。
『大丈夫?』
(大丈夫って何がだ?)
『初めて人を殺したからさ。気持ち悪くなったりしてない?』
(大丈夫だよ。それより、あの薬って他の世界でも使われてたのか?)
アルカナの力を使えば余裕だが、あんな化け物が大量に現れれば、流石に勝てない。
『それなりの数が使われていたね。特に、幹部連中は全員持ってるよ。ブルーコレットは元が強くなかったからあの程度だったけど、ランカークラスがあの薬を使うと、とんでもなく強くなるよ。諸刃の剣だから、死ぬ間際でしか使わないけどね』
なるほど。これだけの力があっても勝てなかったのは、それが原因の1つなのか。
本当に魔女は多彩だな。
ランカー並みの部下が居て、そこら辺の魔法少女すら、SS級以上の魔物に変異させる事が出来る。
魔物の召喚も制限はあるだろうが、やりたい放題だ。
これに勝てって言うのだから、そりゃ諦めたくもなるだろうな。
大晦日なのに、無駄な時間を過ごしてしまったな。
多摩恵の家に転移して、変身を解く。
アクマのアルカナとしての力を使ったのは、大体4分程度だったが、少し身体が軋むな。
1日寝れば大丈夫だろうが、アクマの言っていた5分を越えて戦うのは得策ではなさそうだ。
合鍵を使い、家の中に入る。暖房を入れてその内帰ってくる多摩恵の為に、ココアを淹れる準備をする。
(2人の反応は?)
『魔法局っぽいね。無事に帰れたみたいだよ』
それは良かった。
自分用にココアを淹れ、リビングのソファーに座る。
少し甘めにしたココアを飲み、今日の疲れを癒やす。
そっと目を閉じると、意識が遠のいていく。
『もう。意地なんて張っちゃって……私だけは、いつまでも味方だからね。ハルナ』
tips.命は誰にだって平等に、1つしかないよ