魔法少女と最後の心残り
隔日更新の小説を追っているのですが、更新が待ち遠しくてもどかしいです。それと、百合は良いですね。
「早く降りてきなさい!」
戦いは終わったが、まだ魔法は解けないか……。
とんずら出来ると思ったのだが、そう上手くは運ばないか。
「早く!」
ソラ。本名はどうも認識できないが、さっきから煩い。
『……昔はやんちゃだったのよ』
(エルメスを鎖で簀巻きにするくらいだもんな)
昔というか今もやんちゃだと思うが、本人は気にしているようだ。
仕方ないので降りるか。
「それで、契約者らしいけど、あなたは一体何なの?」
(どうする?)
『……任せるよ。私だとどうしても感情的になちゃうだろうし』
かなり仲が良いと言っていたし、偽物……幻想だとしても目を瞑っていたいか。
「優しい噓と悲しい現実。どちらが良いですか?」
「後者よ」
まあ、そう答えるだろうな。
「ねえ。その顔見せてくれない?」
この世界のアクマが再び出てきた。
その顔を最初の時と違い、動揺しているように見る。
まあ、声のトーンは違っても、声質は一緒だからな。
本人はまだピンと来ていないみたいだが、他の二人は薄々気づいているみたいだ。
フードを捲ると、アクマとソラは驚いた顔した。
だが、アクマは直ぐに泣きそうな顔になる。
「どうも。あなたの身体を手に入れた者であり、アクマの契約者です」
「なるほど。私たちは負けたんだね」
随分と物分かりが良い。俺の知っているアクマなら嘘だとか言って叫びそうだ。
「ねえ、なんで僕のパスを君から感じるの?」
どうやらフールも何か感じているようだな。
「軽く話しますと、この戦いで負け、メサイアは魔法少女と共に死亡。フールは逃げ、アクマは契約者の身体を持って旅に出ました」
フールの契約者が微妙そうな顔をしているが、今は黙っていてくれ。
「そして死にそうになっている私は生きるためにアクマと契約し、身体を手に入れました。その後、訳あってフールが能力だけ譲渡しました」
「……正直信じられないなー。僕がそんな事をすると?」
「時間とはそれだけ残酷なのでしょう」
今となっては起こりえないだろうが、フールは俺に制約をかけている。
アクマの事を裏切れば、能力が使えなくなる。
そんな嫌がらせだ。
あいつの真意は知らないが、何かしら抱えていたものがあるのだろう。
「なるほど。まあ僕の事はいいや。それで、そっちのアクマは出てこないの?」
「感情的になるからと拒否しています」
「ふーん」
「あのー」
完全に蚊帳の外だったメサイアが手を上げた。
フールやアクマに比べると、我が弱そうだ。
「なんでしょう?」
「あなたの世界にアクマがたどり着くまでに、残ったアルカナは何人ですか?」
「行方不明を含めて4人ですね」
俺以外の全員が驚くが、アルカナたちは分かっていたかのような表情だ。
「ついでに、残りの契約者は私ひとりです」
「そう……一度も勝てなかったの?」
「ええ。私の中にいるあなたがそう言ってました」
全戦全敗。どこかの馬と同じだ。
「アルカナたちの事情はともかく、あなたはなんで此処に居るの?」
まあ、それが一番気になるよな。
俺の事情とアクマの見解を伝えると、ソラたちは難しい顔をした。
それと、どうやらエルメスについては気付いていないみたいだな。
これがバレると色々と聞かれそうなので、バレなくて良かった。
因みに俺の中にいるソラの事は黙っておいた。
身体の記憶に引っ張られたことにすれば、自然だろうしな。
「なるほどね。私が生み出した世界か……」
「こういう時は○○ちゃんかアクマの心残りとかトラウマを乗り越えるってのが相場そうだけど」
「私たちが此処にいる……その事に意味があるのかな?」
一体何をトリガーにして魔法が解けるのか全く分からない。
流石にこの3人を殺せって事はないだろうが、メサイアの契約者が言う通り、何かしらの意味はあるだろう。
「私ねー…………正直分からないわ。死ぬ瞬間に何かを思ったかも知れないけど、今は生きてしまっているもの」
魔法が解かれれば崩れ去る世界だが、違う結果が訪れたのにまだ続いている。
早く次に行きたいが、焦っても良い結果はない。
頭を悩ませていると、メサイアがじーっと俺を眺めていた。
「ねぇ」
「はい。なんでしょうか?」
「今やっと気付いたんだけど、あなた、もしかしてエルメスとも契約していない?」
どうやらバレてしまったようだな。
「はい」
「待って……つまり複数の契約をしているって事? そんな事すれば肉体は爆発するよ!」
「うーん。合計3人分のアルカナを1つの身体にか……それなら破滅主義派とひとりで戦えるのも納得できるけど……管理者とも連絡を取れないから君の言っている事は本当なんだろうけど、出来すぎじゃない?」
事実を知った時は俺もフールと同じ感想を持ったが、世の中そんなもんだ。
「因みにエルメスは引きこもっているので、表に出る事はないですよ」
「エルメスは変な奴だし、そんな感じよね」
話が逸れてしまったが、ともかくどうにかしなければ。
こっちの本人は駄目そうだし、内側に聞いてみるか。
(なんか心当たりはあるか?)
『なくはないけど……ええ。分かってるわよ。ちゃんと話すから脛を蹴るのは止めなさい!』
何やらエルメスにせっつかれているみたいだが、さっさと話してほしい。
『端的に言うと、私とキスしなさい』
(…………なんで?)
『死ぬ前はぴちぴちの15歳だったのよ? 恋だの愛だのと興味津々の中で、ファーストキスも出来ずに死んだのよ?』
気持ちは分からなくもないが、魔女がそんな設定をするだろうか?
実際は俺の心象風景を参照するはずが、誤作動を起こしていることを考えればあり得なくもないだろうが…………どうしたものか。
肉体的なダメージは無いだろうが、精神的には計り知れないダメージを受けそうだ。
どうせ崩れ去ると分かっていても、俺の中には4人分の意思があるので後々弄られることになるだろう。
『……何か言ったらどうなのよ?』
(それしか心当たりがないなら…………仕方ないのか)
気は進まないが、それしかないのならやるしかない。
――ないのか?
「少し良いですか?」
「何よ?」
この世界のソラの耳に顔を近付ける。
「もしかして、恋とかに憧れを持っていませんか? 例えば、死ぬ前にキス位したいとか?」
「なっ!」
ソラは顔が赤くなり、俺から距離を取った。
どうやら当たりのようだ。
「ちよっと! ○○に何を言ったのさ!」
ソラは俺を見て首を横に何度も振る。
思春期の少女にとっては、恥ずかしい事なのだろう。
俺が15の頃は恋愛を出来るだけの、心の余裕はまだなかったな。
灰色……とはまた違うが、色の無い学生生活だった。
「私の口からはなんとも。本人から聞いて下さい」
「嫌よ! 絶対言わないわ!」
好き好んで恥をさらそうなんて、殊勝なことは普通しないだろう。
「○○?」
「言わないのは構いませんが、おそらくそれがトリガーとなりそうなので、この中から相手を選んで下さい」
「相手?」
メサイアの契約者が嫌そうな顔をしている。
大方ソラに、酷い目に遭わされてきたのだろう。
「あなた方には酷かもしれませんが、此処から抜け出せるかもしれない方法が見つかりました」
「正直実感はないけど、君の助けがなければおそらく負けていただろうからね。それで、その方法ってなに?」
フールが諦め気味にしているが、俺としてはどうしてここまで冷静にいられるのかが分からない。
自分たちが死んだ存在と言われたら先ずは俺を疑い、なんなら敵対するだろう。
死生観がそもそも違うのか、アルカナの契約がそれ程信用に足るものなのか。
個人的には楽だが、腑に落ちない。
「それは」
「言うな!」
話そうとすると、ソラに口を塞がれてしまった。
腕力では到底敵わないので、少しは力加減を調整してほしい。
「珍しく慌ててるけど、とりあえず離れようっか」
フールの契約者がソラをひっぺがしてくれたが、此方を睨んで何も言うなと圧を掛けてくる。
「恥ずかしいのは分かりますが、あなたの行動で数百万の人間が救われるのです。なのでさっさと覚悟を決めて下さい」
「わ、分ってるけど、本当にそれであなたは戻れるのよね?」
「多分戻れるはずです。駄目でしたらまた考えましょう」
「乙女の純情をなんだと思ってるのよ!」
同じ身体だが中身は違うので、そんな事を聞かれても分かるはずがない。
まあ、性別が違うので当たり前だがな。
「ともかく誰でも良いので早くして下さい」
「うーうー」
「あー、もしかしてAとかBの話?」
世界は違ってもそこは共通なのだな。
もしかしたら表しているものは違うかもしれないが、大きく外れてはいないだろう。
あるいはメサイアの契約者が、ませているだけかもしれないな。
「そうよ! 文句ある!?」
「ないけど、私は嫌だからね」
「私も初めては男の子が良いなー」
「私だって……こんな状態で……初めてなんて嫌よ!」
やんややんやと姦しいが、どうせ消えて無くなるのだし、一発決めるか。
「なら私とさっさとやりましょう。同じ身体ですし、実質ノーカンですよ」
「うっ……もしも嘘だったらぶん殴るからね」
外野がわーわー言うなか、ソラと見つめ合う。
若干ソラの方が背が高く、眼の色も違う。
全くドキドキしないが、同じ顔だから仕方ない。
唇同士がふれあい、少し押し付ける。温かさを少し感じ、なんとなくマリンの事を思い出した。
「…………思ってたよりも良いものね」
顔が離れ、ソラが戯れ言をほざいたが、どうやらこれが正解だったようだ。
顔が赤いが、向こうはバリバリ意識していたようだ。
「ああ、やっぱり本当の事だったんだ。私たちが負けたのは……」
空が崩れ始め、この世界が偽物である事を示す。
アルカナの3人はその様子を見て、悲しげに笑った。
契約者たちも似たようなものだが、此方にはアルカナ程悲壮感を感じない。
こんな時に気の聞いた言葉でも言えれば良いのだが、そう言った物は苦手だ。
ミカちゃんにも笑われたしな。
「助けてくれてありがとうね。嘘だとしても、今の私たちはあいつらに勝つことが出来たわ」
「そうですか」
「少し驚いたけど、流石にあの人数には勝てなかったもんね」
「歴史には残らないけど、あなたは私たちを救ってくれたわ。それと、百合も良いと思います!」
「アカネ!」
メサイアの契約者が馬鹿なことを言って頭を叩かれたが…………いや、考えないでおこう。
「○○の身体とは言え、多重契約を出来る筈がないんだけど、きっと君は地獄を歩んできたんだね。私は生き残っているみたいだけど、後をよろしくね」
「自分の事だけどどうしてこいつに託したんだか……まあ、僕の能力は有能だし上手くつかいなよ」
「ふたりと違って私は此処で死んじゃったらしいけど、後はよろしくね」
「……はい」
空が。景色が。地面が崩れ去り、暗闇にひとり残される。
僅かな合間であったが、珍しい体験が出来た。
(終わったぞ)
『うん。何も出来なくてごめんね。それと、ありがとう』
(気にするな。それより問題はこの後だ)
ガラスが砕ける様な音が響き、儀式場みたいな所に出る。
中央にはクリスタルが浮いていて、点滅しながら回っている。
このクリスタルが結界の要なのだろう。
「氷よ」
魔法でクリスタルを壊すと光が消え、空間が歪んで館のエントランスと思われる場所に戻された。
(これで終わりか?)
『うん。反応がひとつ消えたよ』
身体的な疲れはほとんどないが、精神的には少々疲れた。
戦うだけで終わるならば良いが、それ以外の事にリソースを奪われるの面倒だ。
『あれ? 何か本が落ちてるよ』
アクマに言われて辺りを見ると、クリスタルが在った辺りに本が一冊落ちていた。
タイトルは”最後の日”と書かれおり、誰が書いたかは分からない。
とりあえず軽く読んでみるか。
誰が書いたか分からないが、魔女かリンネが残したモノだろうし、何かの手掛かりにはなるはずだ。
tips.誰だって、本当は死にたくないんだ




