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第五話 赤山ららは「今度は、行かなきゃ」とカバンを背負い直した。

「いや~みなちゃんは今日も可愛かったす」


 快活な喋り方、眠たげな瞳、長い茶髪、少し低い身長、その割に大きすぎる制服。

 遠目に見れば普通の女子生徒、近くで見れば個性的な女子高生。

 それが、赤山ららという少女だった。

 

 水瀬と別れた赤山は、部活の友達と合流し帰路に付いていた。


「そうだね……でもみなちんはいつも可愛い」

「いーや、今日は飛びぬけてたすね。恋する乙女の顔だったすもん」

「へぇ、それは見てみたいな」


 部活の友達三人組、高校に入ってから出会った人たちだったが、クラスが同じということもあってかなり仲もいい。

 クラスではここに水瀬ともう一人か二人を加えたグループで一緒にいることが多かった。


「みなちゃんはほんとに可愛かったす」

「そうだね……ん? みなちゃん『は?』」

「おっ、他に何か収穫あったんだな?」


 赤山は溜息を一つ。


「相手が誰か分かったんす」


 息を呑む音が聞こえた。

 赤山は二人から向けられる好奇の視線を霧散させるように手を振る。


「あ、でもみんなが知ってる相手じゃないすよ。あーしが個人的に知ってるだけ」

「んん? どういうことだ?」

「そうだね……よくわからない」


 遠い目をして、赤山は答える。


「あーしの幼馴染すよ。もう三か月は連絡とってないヤツ」

「あぁ、だからため息ついたんだな」

「そうだね……ご愁傷。じゃあ赤ちゃんはラブコメ観察隊からノックアウト?」


 あーしのこと赤ちゃんて呼ぶのやめないすか……と赤山はぶつくさ。


「まあでもヤツ……幼馴染、嫌いってわけじゃないんすよ。むしろ向こうに距離を取られてるというか……だから、見届けはしたいす。どっちも幸せになってくれたら一番すから」

「えぇ、珍しいな。赤山が水瀬以外の人にも愛情向けるなんて」

「そうだね……初めて見たかも。いつもなら『あーしには関係ねーすよ』とかいうのに」


 赤山は驚いたように。


「え……、そすか?」

「そうだね……大切なんだね。幼馴染くんのこと」

「おう? 水瀬に恋敵登場か?」

「なはは、それはないすよ。だって――」


 続く言葉を言いかけて、赤山は何かに気づいて視線を横へと流す。

 友人二人も釣られてそちらを見ると――。


 ――その先にいたのは全力疾走でマックから遠ざかる水瀬だった。

 その瞳には薄っすら涙が見えて。

 赤山は、苦しそうに表情を歪めてカバンを背負い直した。


「んえ? 何やってんだあいつ」


 困惑する二人をよそに、赤山はほどけかけた靴ひもをささっと結び直して。


「――今度は、行かなきゃ」

「んあ? 赤山?」

「ごめん。先帰っといて欲しいす。言い訳は後で」


 言って、赤山は飛び出していく。

 学年でも屈指の走行速度を誇る彼女の姿はどんどんと遠ざかっていく。


「そうだね……私達も追いかけようか」

「いや、別にいいだろ」

「そうなの? ほっといていいの?」


「違う。水瀬、集団でいる時は自分から話さないだろ。変に気ぃ使わせるより赤山一人に行かせた方が良い」

「そうだね……確かに。だからみなちんを探る時も、喋ってくれるようにって赤ちゃん一人で行かせたんだね」

「あぁ、それに赤山は絶対に相手に深入りしないからな。向いてるだろ。こういう役目」

「そうだね……よく見てるんだね。みんなのこと」


「別に。見てるだけしかできてないけどな」

「そうだね……ほんとは今の自分の無力さが嫌?」

「あぁ、言い訳を探しただけなのかなって思ってる」

「そうだね……じゃあ、二人で待っておこうよ。駅前で」

「おう」



◆◇



「みなちゃん!!」


 走り疲れたのかとぼとぼ歩いていた水瀬に、驚かせないようゆっくりと、後ろから近づいて行って声を掛ける。

 振り返ってきたの瞳には涙こそなかったが、赤く腫れていた。


「え……あ、赤山さん」

「みなちゃん……大丈夫すか?」

「いや、別に……大丈夫……」


 水瀬は言ってから、首を振る。


「……ううん。大丈夫じゃないかな」

「あーしでいいなら。話、聞かせて欲しいっす」


 じゃあお願いしようかな、と水瀬。


「わたし、あの人に、嫌われちゃったかもしれないんだ」




 駅前じゃ落ち着いて話せない。そう思った赤山は水瀬を近くの公園へと連れて行った。

 東屋に入ってベンチに座ったところで、やがて水瀬はぽつりぽつりと話し始める。

 具体的な行動や台詞が伏せられていたから、内容は不明瞭だったが、得られた情報を整理するなら……


「変なことしちゃったのを笑われたって事であってるすか?」

「……うん」


 赤山は首を傾げる。

 どうにも納得がいかない様子だ。


「うーん? ヤツはそんなことで人笑ったりしないと思うんすけどねえ」

「ヤツ?」

「あ、ごめん。みなちゃんの好きな人に対してヤツは失礼だったすね」

「いや、そっちは気にしてないんだけど。……知ってるの? あの人のこと」


 赤山は頷く。

 懐かしいものを思い出すような目。


「幼馴染なんすよ。ヤツとは。……ちょっとくらいなら、知ってることもあるすよ」

「えっ、幼馴染?」

「ん。本人から何か聞いてるすか?」

「ううん。……私、あの人のことまだ全然知らないから。何も……」

「そうすか」

「じゃあ、仲いいんだ」

「……中学校の時まではよかったすね」

「ごめん」

「気を使う事ないすよ。むしろ仲良くないほうがみなちゃんとしても安心すよね。……って、あーしのことは今どうでもよくて」


 赤山はぺちん、頬を自分で叩く。


「あいつ、笑う時ってまだ相手のこと嫌いになってない時すよ。……あーしの前だと、もう気まずそうに目をそらすことしかないすから」


 赤山はどこか寂し気に、吐き出すように言う。


「……赤山さんは何したらそんなことになったの?」


 だから、水瀬が気になってしまうというのも道理で。

 赤山は気まずそうに手遊びを始めながら、歯切れ悪く。


「あー……、あぁ、え、えっと。あーしのこと嫌いにならないすか?」

「え? うん」


 はぁ、と息を一つ。

 どうせどこかで言わなきゃって思ってたことすから、ぽつりそう呟いて。

 息を吸って、言う。


「…………あーし、あいつに告白されたことあるんすよ」

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