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9. 魔法少女、一緒に住む?!

「あの」

「どうしたの、綾目……さん?」

「同い年なんですし、礼音と呼んでもらってもよろしいでしょうか」

「おっけー、じゃあ私も結衣で」

「分かりました、結衣さん」

「礼音さん、いい名前だね」

「結衣さんも可愛らしい名前ですね」


 え、女子ってこんなにいきなり名前で呼び合ったりするの?

 恐ろしすぎない?


 いや、こんなことで悩む俺の方が変なのか、もしかすると男子の中でもこんな感じだったり……


 次会ったら佐々木も下の名前で呼んでやるか。


 そういえば幼馴染のはずの田中も田中って呼んでいるな。


「魔法のことを知っていて尚且つ鍵かもしれないということはハチさんはこれからも危険と隣り合わせです、最悪死にます」

「そうね、だから一応使い魔の道具を持ってもらってるよ」

「双方向に発動する記憶消去の魔法(オブリブイアイ)だけですよね?」

「そうだけど……あ」


 結月は何かを思い出したように言う。


「私の意見ですが、誓いに則って行動するならば自衛の手段を持たないハチさんを守るということも必要だと思うんです」


 確かに、結月が俺に持たせた使い魔ビー玉は一般人に魔法がバレないように記憶消去すると言っていたし、魔法使いに対する対策は為されていないのではないか。


 あの時は魔法が効かないということに焦って、そのことを忘れていたんだろう。


「魔法使い対策忘れてた」


 案の定。


「使い魔では魔法使いへの対策には力不足ですね、それで鍵を……いえハチさん守るため結衣さんには護衛として一緒にいてほしいのです」

「あー、そうだよね……ってえ?! 私が?! なんで?!」


 驚いて大きな声を出してしまう結月。

 ベンチから立ち上がって思い切り首を横に振る。


 白銀のポニーテールが後ろで……ってえ?!


 結月と一緒にいろって?! マジで?!


 俺も一度は歓喜して立ち上がりかけたが、よく考えたら俺にとっては逆に危険なんじゃないだろうか。


 だって、ボロアパートにバーサーカーと二人暮らし、何も起こらないはずもなく……ってやつだろ!


「危険から守るくらいなら鍵のためだしいいけど! だ、だってメロンパンをあんな風にして食べてるんだよ?!」

「ん? メロンパンがどうしたって?」


「仕方がありませんね、それでは私がハチさんの護衛につきましょうか」


 言い方が何だか、結月が最初からそう言うと分かっている人の言い方な気がした。


「…………」


 綾目の発言になぜか結月は黙ってしまった。


 俺をちらちらと見ているその顔は少し赤らんでいて、怒っているみたいだ。


 命の危険を感じた俺は二人に言う。


「嫌ならいいんだ、襲われたら連絡するか―───」


 薄暗がりの中、結月の健康的で淡いピンクの薄い唇が動いた気がした。


「……る」

「え?」

「するよ、護衛」

「……まじで?」


 相当お怒りのようだ、目すら合わせなくなってしまった結月はどんどん顔が赤くなっていく。


 怒っているはずなのに、なぜか小さく頷いた。


「良かった、決まりですね!」

「同棲するって言っても、俺の家はボロアパートだしな」

「私は同棲してくれなんて一言も言っていませんが、したいのであればどうぞ」

「どどどどど同棲?! 私ら同棲すんの?!」

「ばばばばばバカ! んなわけあるか言葉の綾ってやつだよ!」

「そうだよねそうだよね!」


 結月の雪のように白い肌は既に怒りによって真っ赤になっていた。


 だから、そこまで怒るなら一人暮らしのままでいいんですよ?!


 目の前に立ち、夜空を映したかのような菫色の目は暴れまわるように泳ぎ、夜空に瞬く星の煌めきをそのまま落とし込んだような白銀のポニーテールは毛の流れを上から下に整えるようにさすり始めた。


 その女の子らしい姿を見て少し胸が締め付けられるような気がした。


 俺はもしやビー玉の使い魔に苦しめられているのか。


 ……やっぱ結月さん怒っているん、ですよね?


「い、いやー、護衛か、初めてだからどうやればいいのか……」

「だから、い、嫌だったらいいんだって!」

「も、もう護衛するって決めたんだから、そ、そう嫌とかもうそういう次元じゃないんだよ!」


「結衣さんは最近転校してきたばかりのはずですが、既に仲睦まじい関係となっていたようですね、正直羨ましいです」

「「なわけない!!」」


 ハモった?!


 なぜか頷きながら微笑む綾目。


 その目をやめてくれ、怖いから。


 ぽん、と膝を叩いた綾目はさて、と立ち上がる。


「さて、私の話が終わりました、まだ聞きたいこともあるでしょうがこれからは結衣さんから聞いてください、それでは明日も学校なのでそろそろ帰りますね」


 どこか落ち着かない様子の結月を尻目にスマホを点灯させると、既に9時を回っていた。


「そ、そうだな! 俺もそろそろ帰ろうかな課題もやってないし!」

「あー!」

「うわ、なんだ!」

「私も課題やってないし、帰るかー!」

「青春、いいですね……今日は話を聞いてくれてありがとうございました、それではまた明日」


 青春?


 何を言ってるんだコイツは、これから始まるのは虐殺だ、それも一方的な。


 しかしそんな不平不満を言う暇も与えられず、礼を言った綾目はさっさと帰ってしまった。


 その後も結月と俺の間には虚無の如き沈黙が流れ続け、あっという間に綾目の背中は見えなくなっていた。


 俺もなんだか気まずくなって、顔を伏せた。


 目の前に立つ結月の、白銀のポニーテールと先っぽと、それを撫でるなんの傷もない無垢な腕の一部分と、スウェットパンツを履いた下半身しか視界に入らなくなってしまった。


 ち、近い。


 スーパーの時は間に人がいたし、学校の時だってほぼ後ろ向きだ。


 しかも今は制服でも魔法使いの服でもなく、寝巻きに近い私服。


 いつも後ろで結月が動くたびに微かに香る花の香りが、今は目の前から浴びるように香ってくる。


 それがなんだかとても胸を締め付けてきて、何とも言えない気持ちにさせられる。


 耐えられなくなったのか、虚無を割ったのは結月だった。


 冗談、これは冗談の一つと思ってもらいたいんだが、もう少しそのままが良かった、と言っていたらどうなっていたんだろうか。


「とりあえず、帰る?」

「か、帰るか……俺の家に?」

「何で疑問系なの、気まずくなるじゃん……そうだよハチの家」

「お、おっけ、親に連絡しなくて大丈夫なのか?」

「あ、あー、いいよ、それは」

「お、お前がそう言うならいいけど」


 俺たちは隣を歩く訳でもなく、ただ結月が俺の後ろを一定の距離を保ってついてくるようにして家に帰った。







 ほんの一瞬のことだが、親という単語を俺が発音した瞬間結月のポニーテールを撫でる手が止まり、空気が死んだように思えたのは気のせいだったのだろうか。


俯いていたのでよく分からないが。



「あ」

「あ?」

「自転車スーパーに忘れた」

「バカ」






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