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6. 魔法少女、事情聴取!

 

「え? どういうこと?」

「つまり俺は昨日お前と会った直後に部活帰りのサイコ美少女に会ったんだよ」

「よく無事だったね、本当に大丈夫なの?」

「それがあいつ……3組の綾目礼音っていうらしいんだが、俺とあの日会ったこと聞いたら覚えてないって言われたんだ」


 今日の今まで俺と顔を合わせもせず、数学のプリントとにらめっこして解き進めながら会話していた結月が顔を上げる。

 ふわっと髪かそれとも彼女自身の匂いか、どちらかから香る花の甘い匂い。


「そんな、嘘でしょ? 私たちを殺す気で襲いかかってきたのに」

「お前が記憶消去の魔法(オブリブイアイ)かけたわけでもないみたいだな」

「魔法使いなら記憶消去の魔法(オブリブイアイ)だけじゃなくあらゆる魔法に対して耐性の魔法をかけとくのが普通だから、魔法じゃなくて使い魔の場合もあるけど……それにしても3組か、気が付かなかったな」


 昨日はうちのクラスではない女子たちに結月が呼ばれていたのを見た。

 転校初日に別クラスとも友好的な関係を築いていたようだがその輪は綾目を捉えるには至らなかったらしい。

 それにしても凄いけど。


「というか今思ったけど、魔法使いサイドではあのサイコ魔法少女と知り合いなのか?」


 そう聞くと、咲いたばかりの花の花弁のように鮮やかで健康的な唇を一瞬への字に曲げた。

 そして気まずそうに俺の目をこれまた一瞬だけ見た。


「まあ、私は彼女の名前を知っている程度かな、向こうは1階級下の私のことなんて知らないでしょ」


 なんとなく想像したのは、よくある一番上の階級に君臨して下のものを雑魚としか思っていない最強お嬢様キャラ。

 あの口調はどこかのお嬢様に違いないからな。


「あの殺人魔法少女は何者かに操られていたとか?」

「ダイアモンド球なんだよ? しかもその中でもトップ3に入る程の、あれほどまで練られた魔法の壁を突破できる魔法使いなんて存在するはずがない」

「ダイアモンド球とかターコイズ球? だっけ、そういうのって階級なのか?」

「すご、よく私のターコイズ覚えてるじゃん、そう、私たちは魔法使いになったタイミングと昇球試験を合格したタイミングでそれぞれの階球に合った宝石がもらえるんだよね、つまり宝石の種類で魔法使いとしての強さが分かるってこと」

「話から察するにダイアモンドが一番上なんだな」

「そゆこと」

「うーん、それが分かったところで俺が襲われた理由はますます分からない、俺はこれからどうすればいいんだ?」

「とりあえず何も知らない人間のように大人しくしてて、魔法を使えないハチじゃ次は確実に殺される、意識して欲しいのはただ一つ前回が運が良かっただけってこと」

「肝に銘じておくよ、忠告ありがとう」

「なんか、また一悶着ありそう」

「それは同感」


 休み時間が終わりに近づき次の授業の担任が入ってきた音がして前に向くと、俺は多くの視線を集めていることに気がついた。

 主に男子の。


 おー、その目がなんて言っているのか手に取るように分かる気がする。


「お前に結月は渡さん」「お前俺より長く結月さんと話しやがって」「ハチごときが結月さんにお近づきになるなんて」「結月さん結月さん結月さん」「結月さんの足首とアキレス腱めちゃくちゃ触りたい」「ハチ、そこ席変われ」「結月ちゃん最強」


「ぞ」


 突然後ろの結月が小さくカタンと机を揺らした。

 クラス内の会話や物音であっという間にかき消されたため聞こえたのは俺か結月の隣の席くらい。


「ぞ?」

「な、なんか足の方に一瞬寒気が」

「あー、気にしない方がいいぞ気のせいだから、多分隣が外だからな、この学校も古いし壁の隙間から風が漏れてるんだろ」

「そ、そうだよね」


 いつの間にか俺の耳が熱くなっているのに気がつく。

 こんな美人に耳元ではないものの囁かれたのなんて初めてだからな。

 天使に背中を羽で撫でられるような感覚。

 気のせいか、結月の体温が俺のうなじに届いているような。


「どうしたの?」

「な、なんでもない」


 なんというか、あれだけ俺のことを忌み嫌っている風でバーサーカーの時もあったのに、クラスメイトの前だからとはいえこうして話している時はただの超絶美少女高校生なので、なんだか段々と距離がつかみにくくなってきそうだ。


 その日は今の会話から、別に何かあったわけではないのだが妙に後ろの気配が気になってしまって授業に集中できなかった。




 ############



「ういーただいまー」


 がちゃんと立て付けの悪いドアを閉めて誰もいない部屋に帰ってきたことを告げる。


 一人暮らしの人が一度はやってみるもののその寂しさからすぐに後悔することランキング堂々1位の行い。


 しかしどれだけ呟こうと隣の部屋や下の階の住人には声が届くことは無いみたいだ。

 ここのアパートは特別壁と床だけか頑丈に作られていて隣や他の階の住人に迷惑がかかりにくくなっているようだ。


 大家さんだってとてもいい人で、聞けば学生がとても好きなんだそう。

 もちろん若々しく何かを頑張っている姿が、という意味だ。

 そのためこのアパートは8部屋あるうち学生が住んでいる部屋の数が過半数を超えているらしい。


 まだその学生たちを見たことはないけど。


 と、そのことで俺は失敗を1つしている。

 そう、俺は周りの部屋の住人を見たことがないのだ、なぜかというと入居時にする周りへの挨拶をすっかり忘れていたから。

 ここに入居して入学してまだ一ヶ月も経っていないため今からでも遅くはないと思うが、なんだか時期が過ぎていくにつれて行きにくくなってしまい、今に至る。


「まあ、そのうちすればいいよな」


 一人暮らし祝いとして両親からもらったプレゼントの冷蔵庫を開ける。


「げ、なんもない」


 スマホの時計を見る。

 6時か。

 今日は木曜日、好都合だ。

 木曜日の夕方にはアパートの近くのスーパーでスペシャル安売りセールがやっている。

 その日売れ残った弁当はもちろん、店長の気まぐれで様々な商品が安売りされる。

 よく赤字なんじゃないかと心配になるが、大家さんによればそこは大家さんが小さな頃からずっとあるらしい。


 まあいい、売り切れになる前に急いで行くぞ!


 靴履いて玄関の鍵閉めて折り畳み自転車展開して全力でゴー!!


「うおおおおおおおおおおおお!」

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