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2. 魔法少女は記憶を消す!

 

「なんで彼女に狙われていたの?」

「し、知らないぞ、帰ってきたらこいつが家の前に立ってたんだ」


 銀髪ロング美少女は悩んでいるようだ、杖を額に付き立ててながら唸る。


 一つ一つの動作から甘い花の匂いがしそうでつい視線が彼女の動作を追ってしまう。


「……そんな、誓いを破ってまで一般人に接触するなんて……」

「誓い? あ、それより家入ったらどうだ、こんなところにいたらまたあのサイコお嬢様みたいなやつに襲われるぞ、深夜だから近所迷惑にもなる」

「確かに、お邪魔させてもらおっと」

 白銀のロングヘアがさらりとした涼しい風にさらわれて小さく踊り、それを左手で受け止めて耳の後ろにかける。

「お、おう」


 なんなんだ、この感情は。

 この女を見ていると目が離せなくなってしまう。


「どうしたの? 入れてくれるんじゃないの?」


 気づいたら俺は鍵を差す手前、鉄階段を上ってくるだけの銀髪女をただ見ていた。


 バカ、これじゃただの不審者じゃないか。


 俺がヤバいと思って目を逸らすと、銀髪女も気まずそうに目を逸らした。


「ああいや、何でもない、何もないしボロいけどゆっくりしてくれ」

「あ、うん、ありがとう」


 俺の家、というか借りているアパートの部屋は築20年のオンボロ中のオンボロだ。

 完全に家賃だけで選んだ、俺の最低限度の生活を保障できるかどうかも怪しい部屋。

 控えめに言って人を招き入れるような部屋じゃない。


 銀髪は淡く光る革靴をスカートを抑えて綺麗に脱いで感心するように言う。


「意外と片付いてるのね……何か気になるようなものもない」

「どういう意味?」

「ううん、なんでもない」

「そういえば誓いって、なんだか本当に魔法使いみたいじゃないか」

「何言ってるの? 見てて、魔法使いだから、正真正銘の」


 ハードボブの中古で買ったちゃぶ台に座ろうとしていた女は、よいしょと立ち直って黒いスカートから延びるサスペンダーをぴちぴち引っ張ったり、レース付きのシャツをひらひらさせる様にステップしてみたりと一昔前の英国紳士風な服を見せつけてきた。


 A1サイズで印刷するんで写真いいですか? と言いたいのをぐっとこらえる。


「なんか、服装だけだとなぁ……」

「えー、じゃこれならどう?」


 お次は杖を使ったパフォーマンスみたいだ。


 少しめんどくさそうに軽く振った杖の先からライター程度の炎を出したり、水道のように水を出して見せてくれる。


 ああ、床が濡れる!

 ああ、でもずっと見ていたい!


「あらー、ごめんなさい」

「わざとか!」


 もう一度降ると濡れて早くも浸み込んだ日焼け畳がどんどん乾いていく。


 乾いているというより水が彼女の杖の先に球体となるように集まっていく。


 まるで見えない誰かが透明な粘土をこねているようだ。


「信じた? 信じたでしょ? じゃあまあ今度は私の話をさせてもらうからね?」

「強引の権化」

「なんで彼女に狙われていたか、本当に心当たりがないの?」

「ない、強いて言ってもない」

「ならないでいいから、ちょっと見せてね」


 美少女は突然俺に杖を向けて何かを呟く。


 かと思うと、次の瞬間俺の頭の中に涼しく心地よい風が吹き抜けたような感覚がした。


 汗だくになったあと、安い清涼感の強いシャンプーで洗った後に似ている。


「おわ、今何したんだ」

「ごめんなさい、勝手に記憶を見た……うーん」


 記憶を見た? 


 それはかなりまずい!


 俺の恥ずかしいこれまでが露わになってしまったんじゃないか!?


「ああああああああああああやめろおおおおおおおおおお」

「え!? 何!? ゆゆ床に転がっちゃってどうしたの痛かったの!?」

「俺の記憶を見たなら早く忘れろおおおおおおおおおおお」

「え!? うん、忘れる! 忘れるから落ち着いて!」

「ほんとか! 今すぐ忘れろ!」

「わ、分かった忘れるから! 何もなかったみたいだから」

「な、なにもなかったんだな! よし」


 これ以上は変人扱いされてしまいそうなのでスッと座り直す。


「立ち直り早!」

「でも何もないとなるといよいよなんで俺が狙われたのか分からなくなってくるな」

「そうだなー、一般人のあなたに言っても分からないと思うけど、彼女は魔法使いの中でもかの有名なダイアモンドの球を有する魔法使い、だからこんな一般人に魔法使いの存在をばらすようなヘマはしないはず、結界を張っていたといえ、ね」

「こんな一般人、ね」

「分からない……本当に分からない、鍵を持っているわけでもないようだし」

「鍵?」

「いや、こっちの話、彼女と会った時何か言ってなかった?」

「殺すとは言われたけど」

「人殺しなんて、球をはく奪されるどころか審問待ったなしの大罪だよ」

「そりゃこっちの社会でもそうだ」


 その後も少し話し合った俺たちだったが、結局何も分からないという結論に至り美少女魔法使いは帰るみたいだ。


「お邪魔しましたー」


 ピカピカの革靴を履くときにつま先をとんとんする仕草も妙にお人形さんの劇のように洗練されているように見えて、可愛らしい。


 本当にこのままお別れしてしまうのはもったいない、名前くらいは聞いておきたいな!


「な、名前は?」

「あー、聞いても意味ないと思う」

「え? もう会えないのか?」

「言ったでしょ? 魔法使いとは本来一般人に知られてはいけない存在、私たち魔法使いがどうしても一般人に接触しないといけないことがあってもその後は必ず記憶消去の魔法(オブリブイアイ)を使って痕跡を消さないといけない」

「え、それって……」

「そう、あなたともお別れ」


 だから秘密秘密と言っておきながらぺらぺらと話してくれていたのか……!


 待ってくれ、この出会いは絶対に無駄にしたくない……!


「ちょっと待っ──」


杖を向けられた次の瞬間、甘い匂いと急激な眠気、足から手先まで徐々に力が抜けていった……














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