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1. 魔法使いが2人!

 

「では、死んでもらいますね」

「うっ、うわあああああああああああ────」

 ローブを着た人の持つ杖は俺にまっすぐ向けられ、その先に俺の目には見えない【何か】が集まって大きくなっていく。


 ああ、高校生になったんだしもっと学生らしい青春したかったなぁ。



 はいストップ!


 どうもみなさんこんにちは!

 いや初めましてかな!

 初めて会ったみんなには自己紹介したいところだけれど、それは全部省かせてもらう!

 なぜかって?

 今ちょっと魔法使いに殺されかけているからだ!


 どうしてこうなったのかはほんの数分前にさかのぼる。


 そこは街中、と言っても大通りからは少し外れた裏道、なのに大通りに出ることができるはずの道を曲がっても出られない。

 何度曲がって俺の家がある方向に向かっても同じ道へ戻ってきてしまう。

 焦りながら六回それを繰り返して、俺はまったく同じ道を何度も何度も逃げ回り続けていたことに気がついた。


「なんだこれ……どうなってんだ」


 今思えば帰り道がいつもより静かだったような気もする。

 ローブを着ていたそいつは自宅の目の前の道で、俺に背を向けて立っていた。


 まあ、ソイツは怪しさ満点だったから、その時点で交番へ走るのが半分正解だったかもな。

 家の目の前なので近づけばいなくなると、世界一甘いグラブジャムよりも甘い考えで家に入ろうとした。


 特に物音は出さなかったはずだが、ローブを着た不審者は振り返るなり、ローブの隙間から手を出し、俺に細い棒を向けて【何か】を数発撃ってきた。


 【何か】にえぐられ、ジクジク痛む赤黒く温かい血が溢れ出す肩を抑える。


 その時、苦痛で自分でも聞いたことのない声で叫んだのは言うまでもない。


 まずい、素人目だが出血もひどい。


 そして肩の痛みとは別に体調の異変を感じ、元居た場所で疲れて立ち止まる。


 あのローブが持っている細い棒……まるで杖のような棒から放たれて俺の肩を持っていった何か。

 まるで魔法使いじゃないか!


 警察を呼びたいけれど、これだけでじゃ警察に話しても馬鹿にされるのがオチだ。


 魔法使いに襲われてるなんて誰が信じるのか?!


 でも今俺が遭遇しているこの事態は本物だ、もしこれから警察に行くことができたとして、信じない奴が一人でもいたらそいつをすぐさまこの場に連れてきてやる。


「う……」


 生まれてから一度も感じたことのない、ヒトという生物の本能が直々に「ヤバい」と告げている異質な空気。少しでも気を抜けば俺の内臓から色んなものが飛び出しそうだ。


 しかもよく見ると、奇妙にも周りの家々が時々歪んでは元に戻るという変な幻覚さえも見えてしまう。


「逃げても叫んでもそれは無駄になります。普通の人ならこの中の空気に耐えられませんよ、結界の中なので」


 けっ……結界……? どういう……?

 丁寧な言葉遣いと発声で内容が入ってくるような気がしたがそれは気のせいだったようだ、すぐに吐き気が押し寄せる。


 そう!

 これが今この状況の説明!


「では、死んでもらいますね」


 ────あ、死んだ。


 死というものが割とあっけなく訪れてしまったことを実感した、次の瞬間だった。


 ヤツが言ったお別れの語尾を切り取るように、固体と感じるほどの強さで突風が数秒吹き荒れ、ヤツのローブがはだけた。


 ローブを着ていたのは黒髪の少女だった。

 少女と言っても俺と同じくらいの。


 顔が露わになっただけでどんな服を着ているのかは分からないが、相当な美少女であることだけは分かる。

 こんな可愛い美少女見たことがない。


 最後に眼福を得ることができて良かったと、力を抜きかけたが、突然美少女は俺から距離をとって俺の後ろにいる何かに構えた。


 振り返ると──


 そこには女神と言う言葉では表すのはもったいないほどに可憐な美少女が立っていた。


 異世界もの物語でしか見たことが無いような服装。

 しかしそれよりも先に目に飛び込んでくる、誰も訪れたことのない広大な草原に雲ひとつない空からの青で照らされて咲く一輪の花……と表現してみるもののその程度では全く足りないレベルの可愛らしい美人が俺の心を一瞬で貫いた。


 数センチでも何か動きがあれば殺されてしまいそうなピリついた空気の中、俺を挟んで相対するその姿に肩の痛みを忘れるほど視線を外せずにいる。


 月光で一層輝く、混じりけの一切ないように鋳造された白鋼ような色のショートカットに、この夜闇の空を映したかのような(すみれ)色の、占い師が代々継いできたと自慢してきそうな国宝級の水晶に近い目。


 それだけでも超一流の職人が最高の宝石たちを加工した国宝級の作品なんじゃないかと疑うほどだが、この美少女をもたらした一流の職人は細かいところまで一切手を抜かないようだ。


 魔法使いというイメージからは少し離れた、黒を主としたサスペンダー付きの厚手のスカートには見たこともない小道具やそれをしまう革製の使い込んだベルト。

 さっぱりとした白シャツは黒いスカートに役にあっている。近い。

 なんというか、言い換えるならば英国を舞台にした物語で活躍していそうな女の子の服装。

 さらに服の合間から覗いているすらりと長い手足も月を透かせば水晶に通した時のように見えそうだ。


「……なにジロジロ見てるの?」


 あなたはこの状況が分かっていないの? と言わんばかりに呆れた様子で肩を落とすその声も、世界的に有名な職人によって精巧に作られた楽器の音のように透き通っていて綺麗だ。


「あ、そそうだ、た、助けて!」


 怖くて動かない足這い寄るが、向こうからはゴキブリのように見えているんだろうか。


 なんとも情けない声。


 我ながら恥ずかしいが、そんなこと言っている暇はない!


「分かってる、ここはなんとかするから大人しくしてて!」


 俺を殺そうとしている方から小さく舌打ちが聞こえた。


 そして美少女から……まあどちらも美少女であることに変わりはないんだけれど、どちらかというと俺を殺そうとしている黒髪の方が、俺と俺の後ろの美少女に向けて何かを連続で飛ばしてきた。


 しかし銀髪の美少女も同じように杖を振って、飛んでくる何かを軽く弾いていく。


 俺には見えない何かが飛び交い、周りの壁や電灯にぶつかって破壊していく。


 俺の肩を抉るほどの威力がある何かを美少女二人は親子がキャッチボールをするかの如く軽くいなしていく。


 大人しくしていろとは言われたものの、ここにいたらいずれ死んでしまう気がする。



「今こじ開けるからそれまで耐えて」

「た……耐えるって何を?」

 また何かが俺の頬をかすめ、血がにじみ出す。

「向こうの攻撃」


 飛んでくる何かは銀髪超絶美少女によって弾かれるが、どれも弾かれた先でとてつもない破壊を起こしている。


「いやいや無理だろ!」

「逃げ回るだけでもいい、私の盾に……じゃなかったとにかく耐えて」

「ん? ちょと待て今なんて?」

「ほら来る!」


 黒髪ローブは続けざまに攻撃を飛ばしてくる。

 肩の痛みが激しくなるが転びながらも避け続けた。


「いいじゃん、魔法にも慣れてきた?」

「んなわけあるか!」


 魔法って言った。


 やっぱり実際聞くと馬鹿みたいだな。


 目の前で起こっていることを自分の頭でしっかり処理すればこれが魔法なんだなとかろうじて思うことができるけれど、どうしても心のどこかに夢なんじゃないかという疑念が残っている。


 それもそうだ、この世界のどこを探しても魔法で殺されようとしている少年なんて存在しないだろう、これから先もずっと。


「来た!」


 結界が解けたようだ。

 状況がよく見えない俺でもビニールが燃えて溶けるように結界が解けていっているのが見える。


 同時に肺に溜まっていたヘドロのような溜まりが無くなったのを感じる。


「ハッ……あいつは?」


 結界の崩壊に気を取られ、次にローブがいた場所を見るとそこにもうヤツの姿はなくなっていた。


「逃げた、のか?」

「逃げてくれてよかった、なんだか意外と結界も柔らかかったし」


 ふう、と大きく息をつき杖をくるくる回す仕草は本当に魔法使いみたいだ。


 映画やアニメでしか魔法使いを見たことはないけど。


「助けてくれてありがとう、助かった……ほんとに……」

「あたり前のことをしたまでだから、はい肩見せて」

「え? 痛って!!」

「動かないで、治癒魔法(キュアール)がかかりにくくなる」

「グぅ……」


 近くで見ると本当に綺麗だ、他の何も視界に入らなくなり思考が停止してしまう。


 痛みだって忘れてしまうほど。 


 ……いや、痛みを忘れているんじゃない、無くなったんだ!


「い、痛みが無くなった?!」

「完璧に治したからね、代金はいらないからね……それより聞きたいことがあるんだけど」

「な、なんですか」


 どんな風に死にたいか聞かれるのだろうか。





あ、どうも、初めまして。


おかき紬です。


新作です。


たくさん読んでくださいね。


むぎゅ。

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