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番外編3(クレンシア/ハイスネス)

クレンシアがハイスネスにダメ出しをします。短めです。

 クレンシアは暇を持て余し、ソファに座りながら本を読んでいた。何度も読み込んだ本は、諳んじることさえできそうだ。それをぼんやりと眺めているとふと、兄のことを思い出す。

 


 お兄様にいい人ができたと思っていたら、あっという間に婚約者ができた。

 あのお兄様に。

 

 顔も性格も圧倒的に良いのに、全然女性に興味がなくて、社交界でも女性に関する噂が全く立たず、なんなら男色家なのではと言う噂が一部で立っちゃったりした、あのお兄様が!!


 いっつも殿下かヒスト様としか一緒にいないから、そんなことを言われてたんでしょうけど、まぁ、殿下はよくわからないですけど、少なくともヒスト様は女の子大好きだから、そんな噂はすぐに消えてしまった。

 

 女性がたくさん言い寄っても素気無くされるため、段々彼女たちも諦めていく。結局、お兄様の周りはとても静かになった。なんなら本人は快適そう。

 

 でも、絶えず女の子たちを侍らせているヒスト様を見ると、お兄様の方が圧倒的にいい男なのに理解できない且つなんか悔しい気分になる。わたくしなんてまだ学園にも行けず、社交界デビューもまだなのに、それでも見かけるし、話を耳にする。


公爵家的にはもうとっくに婚約者がいてもいい年頃なのに、お父様もまだまともに動かない。お母様とわたくしがハラハラしているだけ。

 そんなのんびりしてたら、良い女性はどんどんいなくなっちゃうわ!


 なんて、心配してたのが嘘みたい。


 ライラ嬢も性格は控えめで、とても良い人。お菓子に詳しくて、たまに食べたことのないものまで持って来てくれたりする。あれは美味しかったわ、不思議な食感のお菓子、プリンって言うんですって。


「お兄様、幸せそうね」

 ソファに腰掛けていたクレンシアが、帰宅した兄に声をかける。

「まだ、起きてたのか」

「おかえりなさいませ」

「ただいま」


 学園を卒業したお兄様は、とても忙しそうだ。学生の頃から少しずつ殿下の執務の手伝いしてたのに、それがお仕事になって、夜遅くに帰ってくることもある。


 殿下はお兄様をこき使い過ぎよ。


「ライラ様に会えましたの?」

「あぁ、会った」

「良いことがありましたの?」

「いや、何故?」

「だって、口元笑っていますもの」

 クレンシアの言葉にハイスネスは口元を押さえた。

「なんでもない」

「なんでもなく笑ってたらただの気持ち悪い人ですわお兄様」

「気持ち悪い人でいい」

 謎に折れてくるハイスネスに、クレンシアは眉を寄せて訝しむ。そして、ハッとして目を見開きハイスネスに尋ねた。

「もしや、ライラ様との関係に進展が?!」

 

 当然婚約の話をしているわけではない。恋愛的なあれやこれやである。

「もしかして、もしかして、ライラ様と……!」

 期待に満ちた視線を返してくるクレンシアに、ハイスネスの方がたじろぐ。


 期待の眼差しでハイスネスを見るとさっと目を逸らされる。答えは出た。


 あぁ、ついに進展したんですね!おめでとうございますお兄様!ライラ様との関係を見ているとほのぼのして穏やかな気持ちになりますけど、さすがに半年経っても何も起きないって何事かと心配していたんですの。あまりの進展のなさに、実はこの婚約本当はただの政略結婚だったんです?!と思っていたので、ホッとしました。


 根掘り葉掘り聞いてみたいところだが、兄は口が堅いのでおそらく話してくれないだろう。今度ライラに話を聞いてみたいところだ。


「10日間会うことを禁止された」

「はい?!」


 え、そんな嫌がるようなことをお兄様がライラ様にしたってこと?!お兄様は一体どこまで進めようと……。まさか、あんなことやそんなことまで!って、わたくしもよくわかってませんけど。でも、まだご結婚まで時間があるのに、お兄様そんなに我慢できなかったんですの?!


 よっぽどクレンシアの表情が酷かったのか、心の声だと思っていたことが口に出ていたのか、ハイスネスが首を横に振る。


「ライラ嬢の弟に」

「あぁ」

 クレンシアも納得がいった。


 あの気が利かない弟くんね。


 わたくしが困ってて視線送ってもスルーした弟くんは、ライラ様が大好きみたい。なんかそんな気はした。


 え、でもちょっと待って。


「まさか、普通に、ライラ様のお邸で?!」

 クレンシアが驚愕な表情をする。完全に青ざめているレベルで、ハイスネスが心配になる。

「大丈夫か?」

「大丈夫か?じゃないですわ!全然大丈夫なわけないじゃありませんか!初めての口付けは、色とりどりの花が咲き乱れるお花畑か、満点の星空の下か、小高い丘の木の下か、素敵なランプがたくさん吊り下がった異国風の場所って決まってるんです!やり直しを要求します!!」


 鬼気迫る勢いのクレンシアに、ハイスネスは思わず一歩下がった。

「……、やり直し?」

「あっっったりまえじゃありませんか!お兄様は乙女心がわかっていません!!お兄様は、この『乙女の祈り』シリーズ読んで勉強してくださいませ!」

 クレンシアは読んでいた本をハイスネスに押し付けた。勢いに押されてハイスネスはその本を受け取る。本には『乙女の祈りシリーズ8』と書かれていた。


「ちなみに、この本はライラ様もご愛読されてます」

 ひどく偉そうに言ったクレンシアに、ハイスネスがピクリと反応する。

「ライラ様は本がお好きですから。この間お茶会をした時にも、お話ししました。この本もご存じで、好きな場面がどこかも聞いております。さぁ、それは8冊目ですから、わたくしの部屋にある他の巻も貸して差し上げますわ!」


 クレンシアの強引な勧めにより、ハイスネスは貴族令嬢に密やかに人気のある『乙女の祈り』シリーズと言う女性向けの本を履修するはめになったのだった。

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