番外編2(ヒスト/ミリク)
ヒストからみた拗ねてるミリクです。短めです。
「姉さんがもう婚約なんて……」
机に突っ伏して不貞腐れているのは、ミリク=ノルガン。ノルガン伯爵家の次男で、学園でも成績がトップクラスの学生だ。
ただ、ちょっとシスコンがひどい。
つい最近、姉のライラがひどい幼馴染との婚約は破棄になったと喜んでいたのに、気づけばもう新しい婚約者が決まった。
ヒストは目の前で項垂れる友人の肩をポンポンと叩き、気持ちだけ慰めてやる。
「いいじゃないか、ハイネなら条件はいいだろ?」
「良すぎる。断れない。許せない」
最後が真理だなと思う。
「でもどうせ、いつかはどこかに嫁ぐだろ?それなら、ちょっとでも良い条件の方がいいじゃないか」
「そんなことわかってる。わかってるけど、許せないんだから仕方ないだろ」
発言内容が幼稚になってるな。
「大好きなお姉さんが他の男に取られて悲しいな」
「いや、まだだ」
「……、は?」
「まだ結婚じゃないからな。何が起こるかなんてわからない」
諦めが悪すぎる。
まぁ、この間の婚約破棄だって、完全なイレギュラーだからな。わからないわけでもないが……。
「ハイネが離すわけない」
「ヒースは誰の味方なんだよ」
「僕?僕は、断然自分の味方だ」
「あっそ」
突っ伏したままの友人を笑う。
「お前も好きな人でもできたらわかるんじゃないのか?それか、婚約者でも作ったらどうだ?」
ヒストがそう言うと、ミリクが少しだけ顔を上げる。
「そういうお前はどうなんだよ」
「んー、特にまだ必要ないかな。沢山の女の子に囲まれてる方が楽しいでしょ」
そんなヒストのもの言いに、ミリクは心底嫌そうな顔を向けた。「なんて嫌なやつだ」と顔に書いてある。
「そういうところが、ミリクだよね」
「どういう意味だよ」
ミリクは初めからそうだった。ヒストが公爵子息と知っても態度を特に変えることなく、思った感情をそのまま表に出して向けてくる。ヒストにとっては良いところであると思うが、本人のためには貴族社会に出た後が心配になる。
本心を隠してこそ生きていける社会だ。素直に感情を出し続けると困ることも出てくるだろう。
「よし、じゃあミリクの幸せのためにも、なんか良い縁談見繕ってもらうよ。うちの母親そういうの好きなんだよね」
「いや、そういうのはいらない。それに今は姉さんのことで頭がいっぱいで」
「だから、それをどうにかしなきゃでしょ。いつまでもそんなんだとライラ嬢にすら引かれるレベルだよ」
呆れて言ったヒストにミリクはぐぐっと眉間に皺を寄せる。姉には引かれたくないらしい。
「考えてもみろよ、ライラ嬢とハイネは政略結婚とは言い難い。なんなら、恋愛結婚だ」
「まだ婚約だ」
とんでもない狂気に満ちた表情で強く訂正された。そんなに変わらないだろと思うヒストの内心は置いておいて、丁寧に訂正してやる。
「なんなら、恋愛婚約だ」
そんな言葉聞いたことないけど、それもそっとしておく。
「想いあってたら、イチャイチャしたいのが普通でしょ?」
「リンドール様はそうかもしれないけど、姉さんは……!」
「じゃあ聞いてみなよ」
そこでミリクが押し黙った。まぁ、薄々本人も気づいているに違いない。ハイスネスの一方通行ではないことを。
僕よりよっぽど近くで見てるんだから、ライラ嬢の表情もよく見えているだろうに。認めたくないんだろうな。
「だから、ミリクも視野を広げてさ。良い縁談もあるかもしれないよ」
笑ったヒストにぶすっとした顔を向けるが、先ほどよりはマシな表情になっている。
「だといいけど」
そう言いながら大きくため息をつくミリクに、ヒストは笑った。
まぁ、婚約者ができちゃったら僕の相手してくれなくなるかもしれないから、それはそれでちょっと寂しいかもなぁ。
「やっぱりまだミリクはそのままでいいかも。お姉さんに白い目で見られればいいよ」
「は?お前酷すぎだろ」