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番外編1(ハイスネス/ライラ/殿下)

主人公たちをちょっといちゃいちゃさせてみたかっただけです…

「前世では、結婚していたのか?」

 忙しい仕事の合間を縫って会う時間を作ってくれた婚約者が唐突な質問をしてきた。

「いいえ、独身でした」

「婚約者や恋人は?」

「仕事ばっかりしていていませんでした。けど、……その質問なんですか?」

 なんとなく警戒してしまう。訝しむライラに、ハイスネスは目を逸らす。

「いや、それならいいんだ」

「え、そんな意味深すぎるやめ方しないでください!」

「いや、本当にいいんだ」

 そう言いながらハイスネスは昨日のことを思い出していた。

 


***



「お前どこまで進んだんだ?」


 綺麗なご尊顔の持ち主、この国の王太子殿下が執務中に突然話しかけてきたため、ハイスネスはわからず聞き返す。

「どの案件の確認をされてます?」

「お前と婚約者」

 仕事ですらなかったと怒りを覚えつつ適当に返事をする。

「何も進みません」

「何で!もう婚約して半年以上経ってないか?!」

「……、彼女はまだ学生です」

「お前だってこの間まで学生だっただろ。でも成人してるし、結婚するだろ?」

「何が言いたいんですか」

「お前真面目だから、書類関係の手は早かったけど、その他が大丈夫なのかと思って」

「仕事してください」

 何故そんな心配をされなければならないのか。というか絶対執務に飽きてるだけだろと思う。

「そういえば前世が32歳だったってことは、もしかしたらお前よりよっぽど経験豊富かもしれないぞ」


 ハイスネスがピシッと固まった。

 ライラの前世の記憶の話は彼女の許可をもらって殿下には話をしていた。が、そんな想像をかけらも持っていなかったハイスネスにはなかなか衝撃的な発言だった。

「たとえ前世のことであっても、知識があるには変わらないからな。もしかしたら、お前のことを手を出してこないヘタレだと思ってるかもしれないぞ」

 ライラにそんな風に思われていたらかなり辛いが、実際どうなのかはわからない。そもそも、前世で結婚していたのか、婚約者がいたのかなども、聞いたことはなかった。


 エスコートや抱きしめたりするだけで真っ赤になる彼女が、そんな可能性ないだろうと思いつつ、王太子の発言のせいで不安が燻った。


 少し不安の色を見せたハイスネスに、にやりと笑う王太子がいた。



***



「ハイネ様、何があったんですか?」

 目を逸らされてしまい余計に不安になったライラが深追いしてしまう。ソファで隣に座るハイスネスの腕を取る。

「私の前世の記憶が、何か不安にさせていますか?」

 悲しそうなライラの表情に、ハイスネスは罪悪感が募る。

「違う。殿下が、余計なことを……」



 殿下とのやりとりを正直に話すと、ライラが深追いしなきゃよかった!という顔で真っ赤になっている。

「あ、の、32歳まで生きてました、けど、仕事ばかりしていたので、恋愛経験は全然ないです……ので、ご期待には添えません」

 あぁああとしゃべりながら真っ赤になった顔を両手で隠した。


 何をしても可愛い。


 その言葉はなんとか頭の中だけに留めて、別のことを口にする。

「いや、むしろ絶対に勝てないような相手がいなくてよかった」

「絶対に勝てない?」

「前世の夫や婚約者がよかったと言われたら、勝ち目がないだろう?」

 この世に存在しないものとの争いはできない。どんなに足掻いてもハイスネスの負けになる。

「でも、前世を通してもハイネ様よりかっこいい人見たことありませんよ」

 しれっとそんなことを言うため、ハイスネスは何と返していいかわからず、耳が赤くなった。


「ライラ嬢」

「え?」

 横にいたライラの白い頬に手で触れる。触れながら少し奥まで手を進め、耳を掠める。ドキリとしたようにライラが不安げな視線を向けてくる。

「触れられるのはいやか?」

「いや、ではないです」

「じゃあ、どうしてそんなに不安そうなんだ?」

「何が起きるかわからない、ので、不安になります」


 ライラにとっては前世の記憶など恋愛については正直全く役に立たない。仕事やお菓子を作っていたときの記憶は優秀だが、恋愛についてははっきり言ってポンコツだ。そんな記憶を所有していないという意味で。


「ハイネ様はいつも、余裕そうです」

「余裕なんてない」


 ハイスネスにとってもライラのような存在は初めてのことで、本当はどうしていいかわからない。婚約をするまでは、まずはそこまで持っていかなければと思っていたため、やることもわかっていたし、決まっていた。

 だが、いざ婚約して見ると、どうしていいかわからないことはたくさんあった。しかし、学園を卒業して、仕事が忙しくなり、それを理由に考えることを放棄していた気もする。

 

「本当は、もっと会いたい」

 仕事で忙しいこともあるが、夜遅くなったりするため、どうしても遠慮してしまう。なかなか休日の予定が合うわけでもなく、迷惑にならない程度の時間が取れる且つ、なるべく昼間の時間にすると2週間も会えないことはざらだった。

「……、もっと、触れたい」

 短い時間しか会えないのも苦しく、その時間だけでは、会えなかった間の話をするだけで終わってしまう。

 もどかしくて仕方ないのに、本音を打ち明けるのも躊躇われた。こんなに会いたいのは自分だけだろうし、ライラに負担に思われたくない。


 情けない。

 我ながらため息が出る。


 すると、ライラが嬉しそうに笑うので、怪訝に思う。

「お仕事が忙しいみたいなので、仕方ないかなと思ってました。私も、もっとお会いしたいです。……触れられるとどうしていいかわからなくはなりますけど、イヤなわけじゃないんです」

  視線逸らしつつそんなことを言われると、期待してしまう。自分ばかり愛おしいと思っていたけど、多少ライラも想ってくれているのだろうか。


「夜にも会いに行っても?」

「はい」

「短い時間でも?」

「はい」

「できれば、毎日会いたい」

「はい」

「もっと一緒にいたい」

「はい」

「今、キスしても?」

「はい、……えぇええ?!」

 ライラは流れで頷いてしまったものの、頭の中でハイスネスの言葉を反芻して驚く。思わずハイスネスから距離を取ろうと離れようとすると、彼の手がライラの身体を引き寄せる。

 

「何故離れるんだ?触れられるのは嫌じゃないんだろう?」

 ハイスネスの中の何かが目覚めた、気がする。

 逃げようとするライラを引き寄せると、自分の膝の上にライラを乗せた。

「ちょ、え、ま、えぇ?!」

 混乱の末語彙を紛失したライラがあわあわと逃げようとするが、ハイスネスの手がそれを許さない。

「お、下ろしてください!」

「何故?」

「は、恥ずかしいですし、私重たいですし、色々ダメですこれ!!」

「そうか?」

「そうです!」

 ライラの訴えは聞き入れられず、逆にハイスネスはとても楽しそうだった。そのまま抱きしめられて、ライラは下ろしてもらうことを諦める。

「今日だけですからね!」

「それは受け入れられそうにない」

 はっきり断られてライラがショックを受けていると、不意に頬に触れられ、ハイスネスの青い瞳が目の前に来る。キラキラと光を反射する銀色の髪が綺麗に揺れる。

「返事は、"はい"だっただろう?」

 視界が鮮やかな青色で埋まり、ライラは自然に目を閉じた。すると、ライラの唇にハイスネスのそれがゆっくり触れた。本当に触れるだけの優しいキス。


 目を開けたライラは、真っ赤になる自分に気づき頬に手をやる。婚約して半年、初めて2人はキスをした。その事実にライラはもう感情が限界だった。ぽかぽかした温かい気持ちとこの事態をどう受け入れればいいのかわからない感情がせめぎ合う。

 ふと、ハイスネスを見ると、彼も口元に手をやり、なにか真剣に悩んでいるような表情だったが、すぐに目が合う。

「……、やめておけばよかった」

「え、私何か、間違ってました!?」

 焦るライラにハイスネスは首を横に振る。

「ただ欲が強くなっただけで、これじゃ全然満たされないことに気づいた」

「……、え?えぇっと?」

「結婚するまで、我慢していた方が、自分の為だった気がする。殿下に嵌められた」

 絶望するハイスネスに、ライラは訳がわからず、なんとか慰めようと必死になる。

「私は、幸せな気分になりましたが、ハイネ様は違いましたか?」

 その言葉には慌ててハイスネスが反応する。

「いや、もちろん幸せだし、嬉しい気持ちが強いが、同時にまだ1年もあることに絶望しそうだ」

 少し手を伸ばしてしまったがために起こる結果だ。全てを結婚後にした方が、忍耐力を試されるようなこともなかったに違いない。


 そんな時に扉がノックされ、返事も待たずに扉が開かれる。

「父さんがお土産ってさ、……って人の家で何やってんだよ!!」

 扉を開けたのはライラの弟ミリクだった。扉を開けると、姉が婚約者の膝の上に座ってるという光景を目の当たりにし絶叫するしかなかった。

「しばらくあんたは出入り禁止だぁああ!!」

 お姉さん大好きのミリクに、あんた呼ばわりされた挙句、ハイスネスはあっという間に追い出された。


 この後10日ほど会うことを禁止されたらしい。

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