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7:グレイ、記憶と想い
「やっぱり、忘れてるんだろうな」
グレイ・ヴェントス、15歳。風の公爵家の息子。
俺は、しっかり覚えている。5年前の、王家主催の舞踏会。
倒れそうになったルナリスをとっさに助けた拍子に、なんと、唇を奪ってしまった。
丁度持っていた忘れ石で記憶を消したが、それは、10分間の記憶を、10分間だけ消せるというものだったのだ…
だから、使って10分が経つと、きれいさっぱり思い出してしまった。
でも、なぜかルナリスは、今でもあの事を忘れているようなのだ。
しかし、べつに大したことじゃない。俺が隠し通せばいいだけなのだから。
顔を見たいと思うのも、ちょっかいを出したくなるのも。
声を聞くと嬉しくなるのも、会うと心臓が飛び出そうになるのも。
全部、俺だけ。
でも、いいんだ。あいつには、本当に好きな相手と幸せになって欲しい。
あんなことが、これからのあいつの傷害になってはならない。
だから、隠し続ける。
俺は、ルナが好きだから。