5:ルナリス、忘れ石
びっくりして、声が出なかった。というか、口が開けない状況だった。
「っ」
はっとなって、すぐに離れた。顔が熱い。
「えっと、あ、あの…」
「わざとじゃないぞ…!」
「あ、え、ええ、助けてくれてありがとう…?」
心臓が飛び出そう。
―どうしよう。なんて話を切り出せばいいのかしら…?いっそ、何もなかったことに…いや、この状況でそれは無理…。
「忘れよう」
「え?」
口を開いたのは、グレイだった。
「俺が魔法をかける。ちょうどいいものがあるんだ。じい様からもらった忘れ石。10分間の出来事までなら、きれいさっぱり忘れられる」
「え、あ、そこまでしなくても…」
「ファーストキスは、好きな人と…って、前に言ってただろ。まだ10分も経ってないから、間に合う。急げ!」
「あ…」
確かに、言ったような気がする。
でも…
―なんで、そんな悲しそうな顔をしているの、グレイ?
―そんなに、私とキスしちゃったのが、嫌だったの…?
そう考えると怖い。だから、言った。
「…そうね…。忘れてしまいましょう」
「この石に手をかざせ」
言われるがままに、手を差し出す。そしてその上から、グレイも。
さっきあんなことがあったから、それだけでも、手が熱い。
「忘れろ、忘れろ。グレイ・ヴェントスの名において、10分間の記憶を消すことを命じる」
グレイがそういうと、石は神々しく、白く光って、そして、消えた。
―え?
えーっと、これはどういうことかしら。
私…
記憶、全然残っているのですが…?
キスしたときの情景、鮮明に映し出せるのですが!?