4:ルナリス、月の夜
そう、あれは、私が、私たちが10歳のとき。
グレイに出会って、もう5年が経っていた。
その日は、年に一度の、王家主催の舞踏会。煌びやかなドレスを纏った令嬢に、豪華なシャンデリア。毎年、その日のためにブルーのドレスが用意され、私も出席していた。
始まって少し経った頃、人ごみに酔ってしまい、人気のないテラスで休んでいた。
月が綺麗だった。自分の名前のルナリスにも、『ルナ』つまり『月』という意味があるため、月には親近感がある。
「なに見てんだよ、ルナ」
グレイだった。
グレイは、会ったころから、私のことをルナ、と略称で呼んでいたし、声ですぐにわかる。
「…月を。月を見てると、心が安らぐわ」
「ふーん…」
「って、グレイこそ、なんでここに?」
「舞踏会とか、つまんねーし。あと、香水の匂いがきつい」
「ああ、それはわかるわ。…でも、私もそろそろ、社交界に慣れていかなきゃいけないのよね」
「なんで?」
「なんでって、公爵家の娘として、社交界に立つのは当然のことよ?…いずれ、どこぞの貴族と、貿易目的で結婚しなければならないし…」
「…」
「グレイ?なによ、黙っちゃって」
「それは…×□●△なのか?」
グレイが、なにか言った。でも、舞踏会の音楽と話し声のせいでよく聞こえない。
「なに?聞こえないわ」
グレイの声を聞こうと、一歩、踏み出したその時。
「きゃっ」
「ルナ!」
ドレスの裾を踏んで、横に倒れ
「…え」
私は、倒れなかった。グレイが、私に覆いかぶさるように、ぎりぎりのところで頭と腰を支えてくれたから。
―それだけじゃない。
唇と唇が、重なっていた。
月の光が降り注ぐ舞踏会の夜。
私の、ファーストキスだった。