2:ルナリス、アルバロス魔法学校
私、ルナリス・アクアは、15歳。
アロノスでは、14歳から魔法学校に通うことが義務づけられている。
『貴族だけ』は。
男爵以上の爵位を持つ家の出でないと、魔法学院に通うことは許されない。
しかし、庶民には魔力はほとんどないため、正直言って学院に通う意味がないのである。
だからこそ、貴族たるもの、目上の者を敬い、下のものを守ることが大切だと、お父様がよく言っている。
「お嬢様、到着いたしました」
「ありがとう」
馬車から降りる。
ここが、私の通う、アロノス一の魔法教育機関、アルバロス魔法学校。
今日は、新学期初めての登校日。私は、今日からこの学校の2年生になる。
城のような風貌を漂わせる、豪華な建物だ。
「おはようございます、ルナリス様」
馬車を降りて早々、淡い水色と白のドレスを着たポニーテールの少女が丁寧にお辞儀をして挨拶する。
彼女は、氷のグラキエス伯爵家の、レセア・グラキエス。
氷魔法の原点は、水魔法。つまりアクア家。
幼い頃から、同い年である彼女と仲良くしていたため、学校でも一緒に行動している。
身分上、毎朝レセアは私を迎えに来るのがもうお決まりになっている。
「おはよう、レセア」
二人で玄関に向かう。
「レセア…。人前で、ルナリス様、っていうのは、やめてほしいわ。私たちは、お友達なのだから…」
「分かってないわね、ルナリス。あなたは公爵家の人間。王家の次に、富と権力があるのよ。伯爵家の私が、人前で呼び捨てなんかにしたら、あなたを崇高するどこぞの令嬢集団に無礼者って叩かれちゃうわ」
「…あなたなら、逆に返り討ちにしてしまうでしょう」
「…そうかも」
笑いあう。
レセアは、伯爵家の出でありながら、さばさばした性格で、剣術も習っているため、殿方からも令嬢からも人気がある。
『公爵家』という看板に目がくらんで話しかけてくる人と違って、私を友だちとしてみてくれる、大切な存在だ。
―まあ、建前では、属性が絡んだ公爵家と伯爵家の、いわゆる主従関係、だけど。
キーンコーンカーンコーン…
午前の授業が一通り終わって、レセアと中庭に出る。
この学校には、たくさんのガゼボ(西洋風の東屋)があり、グループごとにお気に入りのガゼボを決め、卒業まで4年間、そこでランチを食べたり、お茶をするのが暗黙のルール。
私たちのお気に入りは、一つの森のような中庭をずっとまっすぐ進んで、開けたところにある、小さな小川のある場所。
淡い青色と、クリーム色のガゼボだ。
木漏れ日が気持ちよく、最高の場所。
「どうして、先輩方はここを見つけられなかったのかしらね」
つぶやく。
「それは、単純に校舎から離れているからでしょう。普通の令嬢や貴族たちは、遠くまで歩きたがらないし」
レセアが答える。
この学校の中庭は、見ているだけで気持ちいいのに…。
「じゃあ、ランチにしましょうか」
籠を開く。
「あら、今日はサンドウィッチだわ。…苺のサンドウィッチ!レセア、苺よ!」
私はイチゴが大の好物。
「あなた、本当に苺が好きね」
「ええ!だって、あまくて、可愛らしくて…」
「俺にも一個ちょうだい、ルナ」
振り向くと、そこに立っていたのは…