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バラバラとヘリコプターのローター音が鳴り響く。
『ここは包囲されている。おとなしく投降しろ!』
防衛軍の投降勧告がビル内に木霊する。ヴァナキアと翔真はお互い目線を合わせ、思案した。
吸血は既に済んでいた。ヴァナキアの体は表向き癒えていたが、内側に残るダメージが完治している訳ではなかった。
蛇炎は隅の方で気絶している。目先の脅威はないが既に防衛軍に包囲されている。ここに来るのも時間の問題だ。
「動けるか?」
「…なんとかな」
「無理するな。逃げるのは無理だろう?」
「…」
押し黙るヴァナキア。
翔真は今の状況をあまり理解できていないが、逃げるよりも確認したいことがあった。
「ヴァナキア。さっきの俺の力は…なんなんだ?」
「…すまない。」
「…」
沈黙が場を支配した、その瞬間。
懸垂降下で防衛軍が一瞬で侵入する。銃器で武装された部隊は全員が異能力を操る。一般人である翔真には抵抗できる訳もなく一瞬のうちに拘束されてしまうだろう。
一瞬ヴァナキアと視線が合う。ここで別れれば会える機会はない、そんな気がしていた。
すぐさま意思を固めると窓に走る。防衛軍は警告とともに発砲するがそのどれもが足元に着弾した。
「俺が囮になる!逃げろッ!」
「…分かった!」
翔真の判断は早かった。ヴァナキアの体調を鑑み、即座に囮を名乗り出た。ヴァナキアは吸血して傷こそは治っていたが体力までは回復していなかった。
走る。窓枠に足をかけ――跳ぶ。
「男は度胸だッ!」
半ば自分に言い聞かせるように跳び降りると地面を睨んだ。浮遊感に包まれる。
舌を噛まないように口を閉じ着地に備える。三階の高さは骨折か当たり所が悪ければ死ぬ高さだ。
それを意識するとふと違和感が身を包んだ。ぶわりと温かいものが体の中を駆け回る感覚。蛇炎との戦闘中に感じたあの感覚だ。
――瞳が紅く染まる。瞳孔が縦長になる、まるで爬虫類の様。
力が漲った、これまでに感じたことのない全能感にぶるりと体が震えた。
頭上では部隊が何やら相談していた。
――女が消えたぞ。男を追え。
ニヤリと口角が上がる。どうやらヴァナキアは逃げ切れたようだ。
ドン、と着地音が響いた。普通だったら折れている。
着地と同時に走りだす。原付で逃げようとも思ったがそんな暇はないと頭を振るい懸命に走り出した。
背後からは人の気配が迫っていた。
全力で走る。体力は並み程度しかないが一向に疲労の気配がなかった。
がむしゃらに走っていると気配が遠のく。異能に移動系がいなかったのか、差は開くばかりだ。
景色がどんどんと後ろに流れていく、まるで原付の速度を超えたような感覚に陶酔した。
さすがに息が上がってくる。このまま真っすぐ帰っても追われていたら終わりだ。少し遠回りする。
気づくとずいぶんと遠くまで来ている。ほんの一瞬の出来事のように感じ、ひどく狼狽した。
汗を拭い呼吸を整える、時刻は零時近い。辺りは閑散としていた。人通りはなく、信号機の青色がやけに眩しく感じた。
呼吸が整うと建物の影に隠れ周囲を警戒する。人の気配は――。
背中にゾクリとした寒気がする。とっさに身を翻し前転、背後を見やる。
――そこには狐のお面を被った少女がいた。
祝ユニークPV300人!
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