11
夜が深い中、猛火が咲き乱れる。
蛇炎は異能を開放した、炎が奔流となり、少女の周りに殺到する。
取り囲まれた少女はしかし、少しも動揺する素振りもなく流麗な動作で鯉口を切った。
きんと澄んだ音が響き、刃が無造作に振り下ろされる。
炎が割れる。
「んなっ!」
驚愕した蛇炎をよそに少女はいっそ、無造作に地を蹴った。
黒塗りのコートが風にはためき一瞬で距離が詰まる。
構えた刀が空を切る。袈裟切り、逆袈裟、真横数秒のうちに繰り出された斬撃を辛うじて躱すと炎が揺らめき、周囲を照らした。
「んとに厄介だなお前」
「あなたこそ…。私の前から消えて、防衛軍ッ!」
激情が瞳に映った。
斬撃に明確な殺意。接近、大上段に構えた刃。
たんっと銃声が一つ。二人の間を過ぎる。
「あぶね…」
冷や汗が湧き出る。仲間の援護がなかったら…。
「邪魔をするな…」
少女が苛立ちを浮かべ蛇炎達を見やる。
取り巻きは二人だ、恐らくはどちらかが瞬間移動系の異能か。
――やっかいだ。
今でもインカムか何かで座標を送信しているだろう。増援が来るのは時間の問題。
「時間がない…。推して参るッ!」
凛と表情が変わる。
常人とは思えぬ初速で接近、しかしそれを予見していた防衛軍の一人は対異能犯罪者用に火薬量を増やしてあるアサルトライフルを構えると撃発。
乾いた砲声が鳴り響く。
そのどれもを人外じみた反応で回避、このままじゃ埒が明かないと標的を変更する。
まずは周囲の、雑魚から殺す。
殺意が灯る。
神速で接近、銃声。斬って払う。回避し迎撃。
仕切り直すも炎が拒む。
赤炎が周囲を照らす。
汗が頬を伝う。――攻めきれない。
歯噛みして体制を整える。
蛇炎を見やるとこちらも余裕は無さそうで、三人とも肩で息をしている。
蛇炎が射貫くように視線を向ける。さあ次はどうすると言わんばかりの表情。
周囲を見て気づく――。
「あっ!」
怪訝そうにそれを見る少女。眼光は鋭い。
「翔真はっ!」
はっとして見渡す。――いない。
交差点の中心。周りには人っ子一人いない。
いや、今まさに角を曲がった後ろ姿が辛うじて視界に入る。
「ちっ!逃げられた!追うぞ!」
「待って…!どうして彼を…追うの?」
「答える義理は無いが。まあ、おたくらと一緒だろうさ」
凶暴な笑みが。
「そう…」
歯噛みして嘆息する。
――彼がそうなのね。
焦燥のなかに、冷や汗が一つ落ちる。
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