10
祝十話!おめでてぇ!
自分の中では最長です、これもひとえに読んでくださっている皆様のおかげです。
ブックマークや評価、感想をいただけて、それを励みにここまで来れました!マジアザス!
今気づいたんですが毎話毎話いいねをつけてくれる人がいます。本当にありがとう!心の底からうれしいです。
暗夜に月明かりが降り注ぐ。
翔真の眼前には刀を腰に佩いた少女が佇んでいた。
黒いコートにフードを被り、顔には金属質な狐のお面。ぞくりとした殺気を迸らせ翔真の事を睨んでいた。
「…あんたは?」
冷や汗が顎を伝う。吸血鬼との出会いや防衛軍との激しい戦闘。それだけのことがあったのだ、並大抵の事ではもう驚かないと思っていた翔真はしかし、眼前に佇む少女の異様な雰囲気に慄いていた。
「貴方、廃ビルに…いた…?」
鈴の音のような声が夜の街に消えた。抑揚のない澄んだ音が翔真の耳朶に吸い込まれる。翔真はそれが綺麗だと心の底から感じた。
澄んだ声には幼さが含まれていた。歳はそう遠くないだろうと当たりをつける。
「…いた?」
惚けていた時間は数秒だった。質問されていることに気づいた翔真は慌てて口を開いた。
「あ、え?ごめんなんだって?」
「だから、廃ビルにいた…?」
少女が可愛らしく頬を膨らませているのを翔真は幻視した。
「…い、いや?いないけど」
翔真は、しらを切ることを選択した。夜中にコスプレみたいな恰好をした女だ、きっといい意味での訪問ではないことが伺えた。
「そう、でも報告で貴方だって…。おかしいな…」
「えっと…。なんかあったの?」
あははとから笑いを添えて問いを返す。少女はなんていうか、天然の様に感じた。これなら隠し通せる、翔真は心の中でガッツポーズをした。無論、表情にはおくびにも出さずに。
「おかしいな…」
ぶつぶつと呟いて思案している。夜が深いなか、方やほこり塗れで傷塗れ、汗にも塗れた少年。
方や黒ずくめで、刀で武装した狐面少女。
翔真は混乱を抑えられなかった。なんだこの状況は、意味が分からない。おまけにファッションセンスもわからない。
夜風が鼻先をかすめる。春だが少し肌寒い、心地の良い風が吹いた。
微妙な空気が場を支配する。はて、この先どうするか。眉間に皺を寄せ、本格的に逃走を図ろうとした翔真であったがそれよりも先に少女が口を開いた。
「ごめんなさい、人違いかも…」
申し訳なさそうな声色。実は人がいいのか、現実逃避していた翔真には判断がつかない。
「あ、そう。じゃ俺はこれで」
笑顔で去ろうとしたが、頬が引きつって苦笑いに終わった。
踵を返して去ろうとする。これにて一件落着、心を落ち着けようとしたが、ふとシュンと音がして振り返る。そこにはここ数時間で見知った男がいた。
「よう、少年」
茶色の短髪はワックスで逆立ててある。鋭利な目つきはその性格を表していた。
「おまえは…」
驚愕、眼前には蛇炎が立っていた。
「なんで…」
蛇炎は防衛軍の部下であろう二人を侍らせ、ニヤリと笑みを浮かべている。
「わりいな。負けた俺がこんな事して女々しいが、これも仕事なんだ。ん?お前は…」
そう言って少女を見つめる蛇炎、その表情は驚愕に染まった。
「――っ!お前は【終焉切断】か?何故ここにお前がいるっ?」
切羽詰まった声色に翔真は驚いた。あれだけ強い男がここまで動揺している。この少女はいったい。
声をかけられた少女はしかし返答する気はない、腰を下ろし半身になって刀の柄にすっと手を添えた。
「…答える義理は…ない」
拒絶の色が強まる。
翔真は一触即発の雰囲気に冷や汗が垂れる。おいおい勘弁してくれ。もう疲れてくたくたなんだ。
要望は聞き入れられなかった。
炎が逆巻き、辺りを強く照らす。少女は無言で構えている、力強くそれでいて静謐に。
第二ラウンドが始まった。翔真は天を仰いだ。