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異端は常に異端でなければならず

翌日、俺は倉庫から解放され、外に出る。

「さて、さっさと行くか」

一目を避けながら教会の窓を開け中に忍び込む。

職業は教会にある水晶玉に文字として現れる。それを見れば職業が何か分かる。初めて来たときは文字が読めなかったから何て書かれているか分からなかったが、今なら読めるだろう。

質素な木の長椅子の間を抜け台座に置かれた水晶玉を見る。

これが水晶玉か。あの糞女も外に出ている時間帯を選んで来たし、使えるだろう。

俺は水晶玉に手を乗せる。水晶玉に呪力が吸い込まれてていくのを感じていると水晶玉の真上にホログラムが現れる。

【職業:呪詛師

効果:呪力の制御。

呪力の無制限の生成。

呪詛の使用。

成長後の老化の停止。

病気の抹消。

毒の無効化。

知識のインストール。

肉体の疲労増大。

筋肉の発達低下。

傷の悪化】

……メリットとデメリットが大きすぎるな。

情報を全て覚えると水晶玉から手を下ろす。

【呪詛師】。それが俺の職業か。身体が七歳にしては妙に筋肉がないとは思ったがまさか職業のせいだとはな。

それに、成長後の老化の停止……つまりは一定まで身体が成長すれば老化することがない。つまりは不老と言うことか。

人間は誰しも死を恐怖する。しかし、どんなに長く生きても最後は老衰で死ぬことになる。それは世界の摂理に等しい。

この職業はそれを否定する。呪力が老化を停止させてしまえば老衰はなくなり、俺は永遠に若い姿のままとなる。それは数多の権力者が求めたものに極めて近い。

「なるほど、呪力を持つものが何故迫害されるかよく分かる」

権力者にとっては絶対に手に入れる事が出来ない追い求める代物。

民衆にとっては自分たちとは全く違う別の生き物。

教会にとっては神の作り出した摂理に反する異端者。

人は自分たちとは違う異物を悪だとする。単純な答えだ。

「……とすれば、ここの本には何かしらの情報があっても可笑しくないな」

教会の片隅に置かれた本棚を見上げ、俺は静かに呟く。

本棚の中はスカスカだが幾つか本が置かれている。主に聖典やら神様の伝承に対する考察やら教会関連のものばかりだ。

本を読める者が村長と糞女以外にいない訳だから仕方ない。だが、目星はつけている。

「『儀典:呪力を持つもの』」

本の題名を口ずさみながら分厚い本を取り出す。

この本の題名から考えると十中八九、俺ら『不遇職』の事について書かれているだろう。さて、今はさっさと去るか。

扉の奥から発せらる気配を察知して俺は窓から外に出て一気に駆け出す。

「はあっ……はあっ……!」

体力が無さすぎるだろ、この身体……!

息切れをしなから木に凭れかかり木の幹に沿いながら地面に尻を着ける。

確かに、【呪詛師】は疲労が普通の人よりも遥かに増える事は知っていたがここまでとは……!父親の手伝いで農作業をしていたのはこれをどうにかするためでもあるのか……。

「けど、呪力でカバーできるか……」

身体中に巡る呪力を疲労した箇所を避けるようにする。すると、身体の疲れが和らぎ呼吸しやすくなる。

呪力はマイナスのエネルギー。疲労や傷を悪化させる効果がある以上、呪力が触れないようにしなければならない。

盗ってきた本を服の下から取り出すと周りを警戒しながら本を開く。

難しい文字が多いが……まあ、読めない事もない。

呪力は神の意思に背く力なり。呪力は神の慈愛を否定する力なり。

我ら天導教は呪力を持つものを許してはならない。呪力を持つものを悪としなければならない。

我らの神は言った。『人は神になれない。人は人として生きよ』と。人の身でありながら神の領域に片足を入れるものたちは悪でしかない。

異端を『必要悪』とせよ。

異端を『絶対悪』とせよ。

異端を『迫害』せよ。

子供達に異端を悪だと教えよ。

大人に異端を悪だと信じさせよ。

老人に異端を邪悪だと感じさせよ。

悪は常に悪でなければならない。

異端は常に異端でなければならず

例え悪が善き行いを行えばそれを否定せよ。

例え悪が暮らしを良くする発明を作るのならそれを破壊せよ。

全ては我らの神に対する絶対の忠誠なり。

とんでもない決めつけだな……。

本の最初に書かれた内容を見て怒りを通り越して呆れてしまう。

異端を悪だと認識するのはまあ、この世界の人間なら仕方ない事だと割りきれる。だが、こうも差別や迫害を肯定するなよ。

しかも、神何て存在しないものに絶対の忠誠心を持ってるよ。馬鹿馬鹿しい。

だが、俺に対する迫害が何故起きているのか分かった。この宗教が問題なのだろう。

宗教というのは時代によっては国すら遥かに凌駕する力を持つ。この宗教……天導教はその典型例みたいなものだ。となれば、この村が存在する国や領地では差別や迫害を肯定する法が作られている可能性が高い。

そうなれば、俺のような連中はかなり生き難い世の中だろうな。

「前世と同じくらい詰んでいる、ということか」

前世の俺は何をやっても怒られ傷つけられた。どんなにボロボロでも救いの手は差し伸べられなかった。

彼らもまた、そうなのだろ。それが国ぐるみでやってるからスケールが違うけど。

そう思いながら本を捲り読み始める。

本の中身は呪力を持つものに対する迫害や差別がどのように行われたか。どのような拷問が行われたか。どのように処刑されたか。これらの内容がこと細かく、それでいて教会の行いを賛美するよう書かれている。

ご丁寧に挿絵までつけ、読みやすい文体で書かれている。子供向けなのだろうが、俺からすれば手にとって読みたくないような代物だは。

一時間で本の殆どを読み終え、『異端の者たちの職業一覧』と書かれたページを捲る。

やっと俺が求めていたものを見つけれた。

前提として呪力を持つ者は肉体に何かしらの影響が現れる。

人族なら身体の何処かに鎖や蛇と形容できる痣が浮かび上がる。

エルフなら肌の色が褐色の肌に。

獣人なら左右の目の色が非対称となっている。

これらの条件を踏まえて異端の者たちの情報を開示する。

【呪詛師】:呪い振り撒く異端者。呪力を触媒に相手や物質に『呪い』をかける事ができる。呪力で現象を作り上げる事に長けており、それらは地域によっては『呪術』と呼ばれている。

他の職業よりも遥かに強い『呪い』を扱えるため【呪詛師】と名付けられる。

【魔女】:薬を生み出す異端者。呪力と薬草等を触媒に様々な薬を生み出す事ができる。呪力を生命に与えたり形を与えたりする事に長け、『使い魔』と呼ばれる従者を生み出せる。『使い魔』の形状は様々だが人の形をとることはなく、異形の生命体だったり既存の生物だったりする。

名前の通り女しか就けない職業のため【魔女】と名付けられる。

【錬金術師】:禁忌を求める異端者。呪力を触媒に物質を干渉し本来ならあり得ない物質を作り出す。呪力を物質にする事に長けあらゆる物質を自分で作り上げる事をできる。

あらゆる物質から金を生み出す事ができる事から【錬金術師】と名付けられる。

【墓守】:死者を崇拝する者。呪力を触媒に死体から記憶や五感を取り出す事ができる。呪力を五感にする事に長け、自分の五感を共有や五感の増幅などをする事ができる。

最初に発見された人が墓の管理人だった事から【墓守】と名付けられる。

【死霊術師】:死者を冒涜する異端者。呪力を触媒に死体を擬似的に蘇生する事ができる。呪力を情報にする事に長け、『ゴースト』と呼ばれる疑似生命を作り出せる。『ゴースト』と『使い魔』は似ているが『ゴースト』があくまで人の姿をした『情報』であるのに対し『使い魔』は擬似的な生命体と言った違いがある。

最初に発見されたのが死霊屋敷と呼ばれた大きな廃屋だった事から【死霊術師】と名付けられる。

【精神鑑定者】:人の心を嘲笑う異端者。呪力を触媒に人の精神に干渉する事ができる。呪力を感情にする事に長け、感情の増幅や減衰などを行う事ができる。

人々からこよなく愛された異端者が【精神鑑定者】と名乗ったことからそう名付けられる。

【鎮魂者】:呪歌を唄う異端者:呪力を触媒に言葉を現実に発現させる事ができる。呪力を音にする事に長け、音によっては人の心の不安を和らげたり発狂させたりすることもできる。

最初に発見された人物が教会の敬虔な修道女で死者を毎日弔っていたことから【鎮魂者】と名付けられる。

【吸血鬼】:血を啜る異端者。呪力と血を触媒に高い身体能力を得ることができる。呪力を血にする事に長け他の職業よりも回復能力が高い。また、他者の血に自分の血を与える事で擬似的な【吸血鬼】――『眷属』にする事ができる。

かつてあった、とある王国の国王をその国の民が【吸血鬼】と蔑んだことからそう名付けられる。

これら以外にもあるが殆ど情報が知られていない、または異教の国のため情報が出回らないため記載は無しとする。

これらの条件に合う者は教会に連絡をするように。

随分と職業が少ないな。……まあ、少ない方が教会にとっては都合が良いか。

本を読み終え、閉じると青空を見上げる。涼しい初夏の風が吹く。

それにしても、エルフや獣人だなんて、ファンタジー小説でしか見たことがない。まさかこの世界では実在するのか。是非一度会ってみたい。特に獣人。もふもふしたい。

「動物好きだったからな、前世から」

まあ気配のせいか動物たちからは恐れられていたけどね。獣人というのにちょっと触ってみたい。

……そういえば、大多数を占める俺ら人族以外の種族は差別や迫害を受けていないのだろうか。そこは少し気になるな。

まあ、そこまで首を突っ込むつもりはないし気にしなくても良いか。

「ヒッ……!」

俺の姿を見たガキは恐怖で顔を歪め村の方に逃げていく。

あのガキは確か昨日のガキだったな。一々気にする事もないし、スルーしておくか。

立ち上がり、去ろうとしたところで青い頭巾を被った同年代の少女が俺の方を見てくるのに気がつく。

「何かようか?」

「ううん、何でもない」

少女は無表情で首を横に振った後、子供たちの後を追って村の方に行ってしまう。

あの少女には害意や悪意が無かったな。……まあ、それで仲良くなることはないけど。所謂傍観者がいるというのは精神を折るに足りうるからな。

さて、俺は俺でいろいろとやらなくてはならない事ができたし、やっていくとするか。

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