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プロローグ

時に人生とは、常に上手くいくものではない。

古びたビルの中、血溜まりの中で俺はナイフを回しながら笑う。

俺は地獄の底にいた。

両親が経営していた会社は大企業に潰され、両親たちは無理心中で死に、生きていた姉は身売り同然で大企業に務め、使い潰され、数年後にごみ捨て場のゴミ袋に埋もれた肉塊になった。親戚から盥回しにされ資産の殆んどを奪われ身寄りの無かった俺は学校でいじめを受け一生残る傷をつけられた。

高校を卒業した頃には、俺はもう普通の人間の倫理観が壊れてしまった。

世界から色彩は失われ、何を食べても味を感じなく、誰かを傷つけても悪いとも思わなくなっていた。

故に、全てを壊した。

姉が密かに集めていた大企業の暗部をインターネットに公開して倒産させ、両親を売った会社員たちを血祭りにあげ、姉を殺したマフィアを警察に売り、盥回しにした親戚は全て借金地獄に落とし、いじめていた同級生たちの希望を壊した。

そして、今日。元大企業の社長と幹部たちを集めこの惨めな廃ビルで全ての決着を終わらせた。

「さて、そろそろかな」

甲高い音が下から聞こえ、俺は麻痺している左足を引き摺りながら窓ガラスのない窓から下を見下ろす。

眼下には音を鳴らす複数の車と画一の服装を纏った男や女が何かを話しているのが聞こえる。

やっとか。随分と遅い到着だな。

多数の足音が聞こえ扉を勢いよく開けられ部屋の中に警察官たちが警棒を握りしめて入ってくる。

警察官たちは部屋の惨状にたじろぎ何人かは息を飲み、吐き気を抑えるように踞る。

「投降しろ!お前の行っていることは犯罪だ!」

「……それがどうかしたのか、国家の犬が」

俺と同い年程度の若い警官がこちらに拳銃の銃口を向けてくる。

俺は窓枠に手を当てながら薄ら笑いしながら警官に敵意を向ける。

「な、何が可笑しい!」

「いや、お前らは俺がこいつらに何をされたのかぐらい知っているだろ?」

「……宵乃悟。お前の境遇は確かに悲劇でしかない。全てを奪われ、人として破綻させられた人生は同情に値する。しかし、何も関係ない子供までお前は手にかけた、それは許しがたい犯罪行為だ!」

「新たな関係を結べると思い希望を抱いた学校で何をされたのか、それを思えば当然だろう」

俺の静かな呟きに警察官に明らかな動揺と激憤が走る。

学校のいじめは苛烈だった。小学生の頃に階段から突き落とされ左足に障害が残り、中学生の時に右腕に一生残る大火傷を負わされ、高校の時には顔を殴られた際に眼球が破裂して右目が見えなくなった。

地獄から抜け出そうとしたらこの様だ。さらに学校の教師たちは俺のいじめをずっと見ていなかった事にした。俺を必要悪として全ての悪事を押し付けた。

希望を抱いた学校はただの絶望しかなかった。感情が希薄になった俺の中で確かな憎悪が満たされた。

そして、十年にも渡る惨劇の幕が開けた。

「お前の所業のせいで何百人と死んだんだぞ!?それを当然と言うか!!」

「ああ、言うさ。恨むのならあの学校に通っていた事を恨め、何て事を墓を壊しながら言えるさ」

警察官の激情を俺は受け流し笑いながら惨劇を言葉にする。

俺は手始めに入学式や始業式、終業式といった全校生徒が集まるタイミングで体育館やホールに押し入り脅迫。手製の毒ガスを密閉した体育館にばらまき、毒殺した。

そして、俺が通っていた当時、学校に通っていた人たちをピックアップし一人ずつ幸せを壊していった。

妻や夫を娶った者には目の前で愛した者を陰湿な拷問の末に殺し、赤子を可愛がっていた者には赤子の腹を割いて殺し、妊婦になった者は腹の子を毒やナイフで殺し、金持ちになった者は借金を背負わせて自害に追い込み、子供を持った者は子供を様々な凄惨な手法で殺した。

悲劇と惨劇によっていじめの加害者やそれに荷担した者、傍観者ちはみな等しく不幸となり絶望の淵に落ちた。俺はそれを笑いながら見下していた。

俺を『殺した』奴らは同じ地獄に落ちた。ざまぁみろだ。

「確かに彼らには非があったかもしれない。だが、偶々学校に通っていた生徒たちはどうなんだ!彼らの遺族たちにどう説明すれば良い!」

「知るか、そんな事。……さあ、終幕だ」

この長い長い舞踏会が終わるための最後の悲劇を始めよう。

凭れていた窓枠に体重を傾け、俺の不敵な笑みに気がついた警官が前に詰め寄る。

「何を……!」

「言っただろ、全ての終幕だと」

そう言って、俺は床を蹴り窓から外に出る。

僅かな浮遊感が肌に感じるが、すぐに落ちていく感覚に切り替わる。

このくそったれな人生への終止符。それこそが最後の終幕だ。受けとれよ、糞ども。

その瞬間、俺の意識は暗転する。


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