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4 家で

タイムマシン開発というのは、一朝一夕で終わるようなプロジェクトではない。10年程度という月日がかかると試算されている通り、そのくらいの日時をかけるほど難解なのは前提なのだ。


 タイムマシンを作るにあたり、いまだに開発・実用化されていない特別な素材・金属を使う、ということはない。ありふれている物質が素材になるということは聞いている。


 そうはいっても、時空移動を行うために必要なエネルギーは莫大である。タイムマシン本体も、それに耐えうる強度で作らなければならない。過去に戻るためのエネルギーを発生させた結果、爆発しましたなどと言ったことがあっては元も子もないのだ。


 私は新藤や他の2人と話しながら、のんびりとデータの収集を行っていた。


 未来行きタイムマシンに必要な資材は基本的に外注することになるだろう。私たちは組み立てを行うが、そのための部品は外部メーカーから購入することになる。私たちは、その業者について調べていた。


 まだプロジェクトは始まったばかりであり、全く進んでいる気がしない。しかし、少しずつではあっても確実に進んでいくのだろうと思っているので、仕事自体は苦ではなかった。


 私たちは、1日の作業を終わらせた。正直何かをしたという実感はない。それはチームAとCのメンバーたち(各チーム、それぞれ4人)も同じことを思っているようだった。


 私は、いつも通り車で家へと帰っていった。


 私は家に帰りシャワーを浴びた。夜ご飯は焼きそばを作って食べることに決めている。ほうれん草ともやし、ソーセージを炒めた焼きそばだ。


 まだ夜ご飯を食べるには少しばかり早い時間だ。私はベッドに横たわり、過去のことに思いをはせた。




 私は高校時代に恋人がいた。高身長ではない(164cm)がやや痩せている、童顔の同級生だった。


 (こういっては悪いが)決してイケメンと言うわけではない(どっちかっていうと、(男だが)美少女、という言い方が的確だ)。しかし、話していると落ち着くような関係だったため、正直のことを言うと私も彼のことが好きだった。


 彼についての最大の特徴を述べるとするならば、ひとつは女子力が異様に高いことだった。高校時代は彼は華道部に入っていた。花に関しては私の何倍もの知識を持っていて、よく花の話をしてくれていたのを覚えている。


 髪も男子にしては非常に長く(肩に届かないくらい)、それでサラサラな髪質をキープしていた。正直男子の間にいると浮くくらい見た目も内面も(私以上に)"女子"だった(本人曰く、トランスジェンダーではない)。


 彼とは高校3年間、ずっと同じクラスだったが、卒業後、私は家から1番近い国立大学の理工学部に通い始めた。一方、彼は京都大学の理学部に通うことになり、1人暮らしのため別れてしまうということになってしまった。いわゆる、自然消滅的な別れ方にあたる。


 大学に進学してから自然と連絡を取ることもなくなってしまい、私は彼を思い出すことなしに新藤と出会った。


 正直、今から連絡して関係を取り戻すというのも選択肢のひとつかもしれない。しかし、もう8年以上の月日が流れている。いまさら連絡を取ったとしても、正直相手も私に対する気持ちが薄れている可能性は高いだろう。新たに彼女ができている可能性などを考えると、どうも連絡することはためらわれた。


 新藤と出会ったのは大学に入ってからだ。彼とは仲が良く、本当に何でも話せる関係なのだが、恋愛感情を抱いたことは一度もなかった。彼も、私を恋愛対象とは見ていないようだ。彼にも高校時代彼女はいたようだったが、大学受験を見据えて別れたという話をしていた。


 タイムマシン開発に加担しようと思ったきっかけの一つは、過去に戻って関係を取り戻すことだった。実際こんなことが可能かと言われればまず無理だろうし、それが最大の目的と言うわけでもない。私は、あわよくばくらいの気持ちだ。



 そもそもを言ってしまえば、過去を変えて未来が変わるのか、という根本的なことでさえわかっていない。過去を変えても未来が変わらない(自動的に修正されるような構造になっている)という可能性だってあるだろう。


 新藤自身も、完全に理論を理解しているわけではないようだ。そもそも、ガルシア・フォーゲルの理論は単に過去に戻れることを示唆しているだけであり、過去に戻った結果何が起こるのか、ということについてはまだ完全に判明しているとは言えないのが現状のようだった。


 ガルシア・フォーゲルの理論においては、いわゆる"タイムパラドックス問題"について、いくつかの可能性が検討されている。タイムパラドックスとは、過去を改変することにより考えられる概念上の矛盾である。



 例えば、私が生まれる前の過去に戻って親を殺した(実際に殺したいわけではない。あくまで説明のための仮定の話)としよう。その場合に考察される矛盾がタイムパラドックス(この例は、親殺しのパラドックスとして知られる)の一種である。


 私を生む前の親を殺すことにより、私はその世界では生まれなくなる。私が生まれなくなった結果、私はもはや存在しなくなるから、私によって殺されたという事象がなくなる。私によって殺されたという事象がなくなった以上、親は私を生むことになる。その私が親を殺せば、私はその世界では生まれなくなり、……という堂々巡りになってしまうのである。


 このパラドックスはガルシア・フォーゲルの理論が出る(そもそも彼らが生まれるだいぶ)前から提唱されており、それに関する意見や反論はいくつか述べられている。中には、このパラドックスを理由に「時間移動は不可能だ」と評する者もいた。


 親殺しのパラドックスについての意見の一つは、「(何かの邪魔が入る、などして)親は殺すことができない」というものだ。簡潔に言うと、「過去は変えられない」ということである。私が生まれてきている以上、親が私を生むという事象は確定しており変更は不可能。殺そうとしても、何らかの理由が発生してその試みは絶対に失敗する、というものだ。


 他には、「私が親を殺した世界は、私がいた世界とは別の時間軸として進んでいく」という考え方もある。この理論では、いわゆる「パラレルワールド」といった概念を導入し矛盾を回避することになる。

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