表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

3 研究所で

 4か月がたち、2032年9月。私はガルシア研究所に正式に加入した。前務めていた会社はもう退職してある。私は、私服でその研究所へ向かっていった。


 ガルシア研究所で行うことは大きく2つある。当然だが、ひとつ(そして最大の目的)はタイムマシン理論の研究・開発。ふたつは、ガルシア教授の公演や発表会についてのスケジュールを行うこと。他にも細かいのが色々あるようだが、私が理解できたのはこの2つだった。


 ガルシア研究所は家から遠くはないところにあるのだが、少しばかり車では行きにくい場所感もある。しかし、研究所までバス・電車を乗り継いでいくにはかなり立地が悪い。頑張れば徒歩で行けなくもない距離ではあるが、往復に2時間程度かかる。自転車は持っていないので、私は前の職場に行くのと同じように、車で研究所まで向かっていった。


 家を出て最初の交差点を右に曲がり、そこからしばらく直進。そしてコンビニとガソリンスタンドがある丁字路を左に曲がる(Tの右の部分から下に行くイメージ)。そこから1kmほど運転して、スクラップ業者・コンビニエンスストアがある十字路を右に曲がり、そこから500mほどで着く場所だ。


 研究所はまあまあ広いが迷わない程度だ。1階建てではあるが部屋がいくつかあり、庭にあたるような場所もある。私は、いつも通り研究室Bに行き、持っていた鞄を床に置いた。


 9月ということもあり外はかなり暑いが、中は冷房が効いていて涼しい。中では飲食禁止なため、私は部屋を出てすぐのところでお茶を飲んだ。


 集合時間は9時だが、時計は今のところ8時40分を指している。研究室Bの人は私を含めて4人いる。私、新藤、山岸蓮和やまぎしはすわさん(20代の男性)、宮本涼夏みやもとりょうかさん(30代の女性)だ。先週自己紹介を行った。今のところ、新藤は来ているようだが、他の2人は来ていないようだ。


 研究室は3つある。それぞれに指示が課される仕組みのようだ。われわれチームBは未来行きタイムマシン開発に必要な物資の調達及び組み立てを行うのが任務のようだ。


 未来行きタイムマシンとは未来への一方通行のみができるタイムマシンのことである。一応「アル・フトゥーロ(スペイン語Al futuro:『未来へ』)」というコードネームが存在してはいるのだが、私たちは単純に日本語で未来行きと呼んでいる。


 過去行きタイムマシンは「ツア・フェアガンゲンハイト(ドイツ語Zur Vergangenheit:『過去へ』)」というコードネームがある。確かにかっこいいとは思うのだが、今一つ覚えにくいという印象は否めないだろう。我々は単に「過去行き」「未来行き」と言ってそれらを区別していた。


 ガルシア教授の出身国スペインと、フォーゲル教授の出身国ドイツ。彼らの間でも、どちらのコードネームをどちらの言語にするか迷ったようだった。スペイン語で過去は「Pasado(パサード)」、ドイツ語で未来は「Zukunft(ツークンフト)」という。


 メイ目の理由は「Zukunft/Pasado」と「Vergangenheit/Futuro」を比較したとき、「Vergangenheit/Futuro」の方が意味を取りやすい・読みやすい(ドイツ語を知らない人の感覚として、ZukunftとVergangenheitは同じくらい意味が分かりにくい。スペイン語を知らない人が一見したとき、PasadoとFuturoを比較すると、Futuroの方が意味の想像がつくだろう)と判断した、と聞いている。


 特に決め手となったのは「Zukunft」が日本人の感覚として読みにくいことのようだ。「ツークンフト」と「フェアガンゲンハイト」を日本語で発音した結果、「フェアガンゲンハイト」の方が言いやすくてカッコいいという基準で決めたとのことだった。


 しかし彼らの労力もむなしく、結局は日本語の名称で「過去行き」「未来行き」と呼ばれている。コードネームは存在・認知しているがそれで呼ばれることはない、という認識だった。


 まず最初に未来行きを開発する。理由は単純で、過去行きだけでは実験が困難だからである。先に過去行きを作ると、正常に動作しているのかどうかを確かめることができない、ということだ。


 今のところ、未来から物が送られてきた(突然目の前に現れた)と言ったことは起こっていない。ただ、ここから「タイムマシンはやっぱり作れないんだ」と考えるのは、早計だと言わざるを得ないだろう。


 タイムマシンの構造・大きさがどうなるかはわからない。ドラえもんと言った作品に出てくるような「落ちうる」構造には作らないことは聞いてはいるが、それ以上は想像すらつかないのが現状だ。


 今のところ、タイムマシン開発までに必要な期間は10年程度と計算・推定されている。ガルシアフォーゲルの理論は複雑ではあり、理論をまとめるのに3年程度かかったようだが、核心の部分はとある夢を見たことで思いついたと聞いている。長めに出された数値だとは言え、技術面の方が困難だということだ。


 私自身、今まで勤めていた会社よりもガルシア研究所の方が環境が良いと感じている。決して前の会社に不満を募らせていたとかいうわけではないが、目標が見えている分こっちの方がやる気が出るのは間違いないだろう。


 10年程度、この研究所なら苦にはならないだろう。私はそう確信していた。


 基本的には作業を行うだけなのだが、8時間勤務で休憩1時間半と休憩時間もじゅうぶんにあり、比較的ホワイトだ。作業と言っても、他の人たちと話しながらでもできる程度のものだ。わたしは、ゆっくりと作業を進めていった。


 ガルシアフォーゲルの理論は難解であり、私は理解していない。理解していなくてもできるのが今やっていることだ。心配する必要はないと聞いて私は安心していた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ