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2 家で

 私はカバンを床に置いて、洗面所で化粧を落とした後自室(部屋自体は一つだが、真ん中にふすまを設置して、二部屋のようにすることができる)に入った。部屋にはパソコンを置く机とベッド、そして本棚がある。本棚は積んでいるだけであり、中に入っている本はほとんど読んでいない。私は、チャットアプリで新藤からのメッセージを確認した。


「とりあえず、加入したいと思ってるなら、ここのフォームに名前・住所・生年月日等必要なものと、メイルアドレスを入力しておいて。実際に面接があるのはまだ先だから、それは心配しないでね」


 私は現在、地元にある企業のスタッフとして働いている。人間関係や仕事内容・給与に不満があるわけではないのだが、いまひとつ雰囲気になじめていない感は否めない。就職から2年しかたっていないが、そろそろ退職しようかなと考えていたタイミングだった。


 知っている人、特に仲がいい人が職場にいる。それだけでも、今の仕事をやめて研究所に移ろうと思えてくる。今の仕事も決して悪くはないが、満たされているとはいいがたいのが現状だったのだ。私は、フォームを開いて、住所、氏名、電話番号、メイルアドレス、といった記入事項を入力し、連絡メイルを確認した。


「筒井紫月様


初めまして。ガルシア研究所採用担当です。


この度は、弊所の求人にご応募いただき、誠にありがとうございます。


今後の選考および面接の日時については追って連絡いたしますので、恐縮ですが今しばらくお待ちくださいませ。


 なお、採用選考について何かご不明な点などございましたら、どうぞご遠慮なくお問い合わせください。引き続き、よろしくお願い致します。


※このメイルは送信専用となっておりますので、返信はご遠慮ください。


ガルシア研究所 採用担当」


 私は、「研究所ってもうできてたの?」と思った。新藤の言い方的に、ガルシア教授はこれから設立する、と解釈したからだ。彼にその件をチャットで確認してみると。こんな返事が返ってきた。


「えーっとね、事業所自体はもうあるのね。あの蕎麦屋から十分近くのところに。でね、去年そこの土地を所有していた会社が離れたんだよ。それでガルシア教授は、立地的に安いことを判断してその土地を買ったんだって。そこが研究所になるから、そういう意味では研究所自体はもう存在する、ってことになるね。」


「今のところ初期メンバー募集って段階で、採用担当課だけを建ててるって状態。面接は7月~8月ごろになるっぽいけど、ガルシア教授に聞く限りまだ全然人集まってないから、もしかしたらほぼ全員が採用になる可能性もあるって言ってたよ」


 新藤は、研究所設立前からガルシア教授の研究室で働いており、そのためにもう入所が内定しているようだ。活動は9~10月からになるとも話していた。私は、会社を退職する準備をしておかなければ、と思った。


 タイムマシン開発に興味がある理由は二つある。私は、チャットアプリの通話機能で新藤に話した。


 一つ(最大の理由)は単純に、人類が長く追い求めていた夢、だからだ。


 タイムマシンという概念が出てきたのは19世紀にさかのぼるともいわれている。当時の作家ハーバート・ジョージ・ウェルズが、「タイムマシン(The Time Machine)」というタイトルでSF小説を書いたことが、タイムマシンというものを広く世間に知らしめたきっかけとされているようだ。


 日本の作品でも、いくつかのフィクションにタイムマシンが出てくる。もっとも有名な例であり、多くの人に知られている例の一つは、藤子・F・不二雄による漫画作品、「ドラえもん」に登場するものであろう。


 ドラえもんは、22世紀からのび太くん(ドラえもんの主人公)の未来を変えるために過去にやってきた。本来、のび太君が結婚する予定だった相手を変えるのが、ドラえもんが派遣された目的だった、というものだ。


 国民的な作品ということもあり、タイムマシンと聞くと、その作品に出てくるデザインのものを想像する人も多いだろう(そして、私もそうだ)。


 今まで、私としては、タイムマシンとはフィクションの中のものだけで、実際にはほとんど研究されていないと思っていた。しかし、少し前にネットで読んだ、タイムマシンの研究に関する記事がきっかけで、私は「タイムマシンは可能なんだ」と思うようになっていた。


 人類が長い間追いかけていたものの研究に携わることができる。それが、私のタイムマシン開発に興味を持った一つの、そして最大の動機だった。


 そしてもう一つは、過去を変えて恋人と関係を戻したいということだ。


 高校時代、私には恋人がいた。(こういうと失礼に当たるかもしれないが)いかつい見た目をしているが、中身は非常に温厚で優しい人物だった。高校卒業後、二人は別の道を進むことになった。そこから、連絡をほとんどとらなくなってしまい、関係は自然消滅してしまったのだ。


 「今からでも関係を取り戻せばいい」と思うかもしれない。実際、新藤にその話をしたときもそういわれた。当然の反応だということは十分理解しているが、それを言われた段階でもう2年半以上前の話になっていた。いまさら言っても遅いのは間違いないだろう。


 タイムマシン開発によってこのことが可能になるのかは分からない。実際、理由としても、一つ目の「人類の夢を追い求めたい」に比べそこまで重要ではなかった。それでも、私はあの関係を取り戻したいという思いも少しながら存在していた。


 新藤は真剣に話を聞いてくれた。そして、私は新藤に、君はなぜタイムマシン開発に興味を持っているのか、と聞いてみた。


 すると、彼は話してくれた。


 まず、単純に人類の夢を追いかけたい、というのは私と同じようだ。子どものころからアニメで見ていたものを研究・開発できる、というのが彼の最大の理由のようだ。これは、私とあまり変わらない、と言っていいだろう。


 もう一つは、ガルシア教授と研究できることのようだ。彼は環境が変わってしまうことを恐れるタイプのようだ。研究所には入れれば、同じ人がいるという状況で働くことができる。彼は、そのことを重要視して、研究所に入所することにしたようだ。


 そして、私を誘ったのもそれが理由だと話していた。彼は友人が多くはなく、とくにこの話に興味がありそうな知人は私しかいないと思って、私を研究所に勧誘したようだ。


 私は、彼にありがとう、といって通話を切った。時計を見るともう23時になっている。私は、シャワーを浴びて歯を磨き、ベッドに横たわった。

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