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54 難易度 ナイトメア

 


 『センチメンタル・マジック』の隠し攻略(シークレット)キャラであり、黒幕であるジェット・アンバー。

 彼の存在はクリスティーナルートで明かされる。そして、彼の出現方法は大きく2つ。


 シヴァルラスルートのバッドエンドの回収。

 そして、クリスティーナルートのクリアだ。


 ジェットルートが解放されたが最後、ゲームは()()()()()()()()()()()()()に自動的に切り替わり、黒幕ジェット・アンバーが姿を現す。


 眠れる獅子を叩き起こしたことを後悔させるように、その名の通りプレイヤーを悪夢へと突き落とすのである。


 プロローグを迎えるたびに各キャラの1枚絵(スチル)を奪い、個別のイベントのみならず、マルチイベントすらもランダム発生にさせてしまう。


 まさに悪魔のようなキャラクターだった。


 まるでヒロインに親でも殺されたのかと言わんばかりにヒロインをバッドエンドへと蹴落とす彼をSNSでは愛と憎しみと親しみを込めてこう呼ぶのだという。



 ()()()()()()()()()()、と──



 ブルースの話を聞いて、あまりにもデタラメなゲームシステムに、私とヴィンセントが目を剥く。ちなみに、ヴィンセントにはゲームブックに例えて説明している。



「おいおい……どうやってクリアするんだよ?」

「簡単です。選択肢を選んだ所まで戻ればいいんです」



 乙女ゲームを攻略するには必須の手法だ。プレイヤーが選択肢の前で一度セーブし、お目当てのイベントが出るまでロードを繰り返せばいいのだ。


 しかし、それはゲーム上での話だ。現実にセーブロードがない。そこでブルースはイベントに頼らず、自ら行動に移すことにした。イベントにないデートを企画したり、グレイムと2人きりにさせていい雰囲気にさせようとしたり。それこそ、リアルで恋を応援するように。



「まあ、それでもあの悪魔の暴走は止められませんでしたけどね……」



 ことあるごとに「遊べ」と突っかかってくるわ、グレイムを捕まえていくわで思い通りに進まなかった。



「それに、クリスティーナ嬢はシヴァルラス様とイヴをくっつけようとしてたでしょ?」



 ブルースの指摘に私は小さく肩を震わせ、ヴィンセントは私を2度見した。



「はぁッ!? なんで、こいつがシヴァ兄と他の令嬢をくっつけようとするんだよ!」

「さぁ? 本人に聞いてくださいよ。それに彼女はヴィンセント様の人生も軽く狂わせていますよ? オレが知る限り、ゲームではここまで仲良くなかったですから」



 2人の視線が私に集まり、逃げられない私は観念して口を割った。



「私……その……シヴァルラス様とイヴ様の物語が好きで……2人の恋愛を応援したかったんです……」

「あんなに婚約者候補になりたがってたお前が? 矛盾してるだろ?」

「障害があればあるほど恋は燃え上がると聞いて……私が完璧な淑女を演じれば、2人の恋愛が盛り上がると思って……お膳立てをしてあげたいなって……どのみち、婚約者になれない未来を知っていたので」



 なんてめちゃくちゃな、とヴィンセントは嘆くようなため息を付いた。多分、彼には理解できないだろう。私が2人の恋を演出するために悪役令嬢、クリスティーナ・セレスチアルになりきっていた事を。ヴィンセントとシヴァルラスは普段の私と淑女の私を、オンとオフの差が激しいとしか思っていなかっただろう。



「じゃあ、オレの人生を狂わせているというのは……? お前が知っているヴィンセント・レッドスピネルはクリスティーナと仲が良くなかったのか?」

「…………正直、分かりません。でも、友人関係の築き方を変えるきっかけはありました……私は()()()()()()()()()()()()()イベントが1つだけあるんですよ」



 ブルースも知らないだろう。初めてのお茶会のあの日。

 私は自ら起こさなかったイベントがある。


 それは、クリスティーナがシヴァルラスに恋をするイベント。


 初めて参加したお茶会。第3王子の前だということに緊張したクリスティーナは何度も練習した挨拶の仕方を忘れた上に、履きなれないヒールのせいでシヴァルラスの前ですっ転んでしまう。さらには偶然、給仕が零したジュースを頭から被り、笑いものにされて泣いてしまうのだ。


 シヴァルラスはクリスティーナを別室に案内し、泣き続ける彼女を優しく微笑みかける。



『初めては誰でも失敗する。これから努力を積めば、君はきっと素敵な淑女になれるさ。だから泣くのはお止め』



 そこで、クリスティーナはシヴァルラスに恋をし、お人形としての完璧な淑女ではなく、彼の隣に並ぶに恥じぬ完璧な淑女を目指すことになったのだ。


 そのイベントを思い出した私はこう思った。



『私もシヴァルラスに本当に恋に落ちてしまうのではないか』と。



 実際にシヴァルラスの顔は好きだ。

 あと、あのイベントスチルもストーリーも大好きだ。


 あの時は自分でもこの世界におけるゲームの強制力、もとい運命を引き寄せる力がどれほどのものか測りきれなかった。


 もし、私が本当にシヴァルラスに恋をしてしまったら、本末転倒な上に彼を手に入れる為に前世の記憶をフル活用するであろう。


 だから、私はあえてそのイベントを起こさないよう、死ぬ気であのお茶会に臨んだのだ。


 当日履くヒールと同じ高さのヒールを日常的に履き、所作も完璧にした。偶然に給仕が零したジュースだって、ジェットのせいだと簡単に想像がついた。だから、私は早々に挨拶を切り上げ、自ら運命に抗って見せた。


 そのせいで本来会うはずもなかったヴィンセントと出会ってしまったのだ。


 確か、ヴィンセントと出会うのは10歳の時、シヴァルラスを通じて友達になる。その時にはクリスティーナは淑女として堂々としており、失敗なんてない、完璧であることを常に意識していたので、今のヴィンセントとはまた違う友人関係を築いていたはずだ。


 そう私が語るとヴィンセントは信じられない顔で私を見ていた。



「ジェットのせい? ジェットはあのお茶会に招待されてたのか?」

「実は、ジェットは私とヴィンセント様が出会う前から私と友達だったんです。悪魔と名乗って、私以外の姿は見せないようにしてて、あのお茶会にこっそりついてきていたんだです……」

「…………は?」



 彼にとっては信じられないことだ。ジェットが他人に姿を見えなくして私のそばにいたなんて思いもしなかっただろう。



「ヴィンセント様に悪口を言ったり、暴れたりしてたのは、彼が好き勝手にジェット人形で遊び倒していたからで……」

「まて、まて……もういい、その話はもう少し落ち着いてから聞かせてくれ……」

「……はい」



 私はそう返事をすると、ブルースに改めて向き直った。



「ブルース様、今ジェットのお話に物語が進んでいるなら、彼の話はどのようになっていくんですか? それに今一緒にいるイヴ様は大丈夫なんですか?」

「ああ、人目もあるし、あの悪魔も手出しはできませんよ。もしかしたら、イベントも一貫かもしれませんね」


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