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42 回ってきたツケ

 


 ──誰かの慟哭(どうこく)が聞こえる。

 ──早く殺せと切望する民の声が聞こえる。


 狭まった視界に広がる空は黒煙よってその色がくすみ、嫌な臭いが鼻を突いた。

 空から視線を下ろすと、地面には赤い液体が足元まで流れきたと同時に周囲から歓声が上がる。雑音にも聞こえるその歓声が耳障りでボクは一度目を閉じた。

 再び目を開けると、場所は一変し、目の前に血濡れた玉座が静かに佇んでいた。

 無造作に散らばる()()を蹴り飛ばし、その玉座に触れる。


 ──嗚呼、なんて嫌な夢だ。


 そこでボク、ジェット・アンバーの意識が引き上げられ、夢から覚醒する。


 ベッドの上に寝転がっていた自分は顔を横に向けると、霞がかった視界の中で深紫の瞳と目が合った。


 ──ああ、彼女か。


 ぼんやりとした頭でそんな事を考えて、ボクは愛おしさに彼女を抱き寄せる。

 その瞬間、ばちんと重い一撃がボクの横っ面を襲った。


「あいだぁっ!」


 そのままベッドから転がり落ち、本当の意味で覚醒を果たしたボクは、叩かれた頬を擦りながら身を起こす。


 部屋を見回すと、そこは自国の自室でも寮の部屋でもなく、シヴァルラスの実家、王城にある客室だった。


(ああ、そうか)


 家族が遊びに来たから、泊っていくように言われたのだった。


 ボクはベッドの上を覗くと、そこには赤い石がついたチョーカーをし、白銀の鱗に覆われた深紫の瞳をしたドラゴンがいた。大型犬ほどの大きさで不機嫌そうに尻尾を振るドラゴンはボクが自国に置いてきた相棒だ。今日、会いに来た家族が寂しがっているからという理由で連れてきたのだ。


「何すんのさ、セピア」


 ボクがそういうと、彼女は鼻を鳴らして「グゥ」と低く鳴く。


 チョーカーに付いた石が彼女の意思をボクに送信する。彼女は自分だけ置いて行かれたのが相当に不満らしい。さっき尻尾で叩かれた時も八つ当たりに近い感情が伝わってくる。


「あのねぇ。寮ではドラゴンは隠れても飼えないの……え? 寝ぼけて抱き着いた時、絶対に他の女と勘違いしてたって? 一体、どこの誰と間違えたっていうのさ」


 ボクが一通り言い訳をすると、セピアは猫ほどの大きさに変わってボクの肩に留まる。彼女はまだご機嫌斜めだが、我慢してもらうとしよう。ボクはベッドに腰を下ろすとため息を漏らした。


「さて、どうしようかねぇ……」


 ボクは家族との面会時にシヴァルラスから伝えられた内容に頭を痛めた。

 まずはボクの国にある魔法学院の上層部(クソジジイ)達からの苦情。


『ジェット・アンバーを持て余しているなら、国に返せ』


 そうあの上層部達は騒いでいるらしい。


(ボクを邪魔者扱いしてたくせによく言うよ……)


 自国の魔法学院と比べたらこの国の学園の勉学の質は生ぬるい。この国では1番の学校だが、まだこの国は歴史が浅いのが原因だ。それを承知してボクはこの国に遊びに来ている。


 そして、もう1つは近いうちに執り行われるシヴァルラス殿下の婚約発表での手伝い。


 さらに極めつけは……


 コンコンと部屋の窓を叩かれる。ボクは窓の方へ行き、開けてあげると黒い(もや)が室内に入ってくる。それはボクの周りを飛び交い、セピアに低く恫喝(どうかつ)されて部屋の隅に退散する。


「コラ、セピア。八つ当たりしないの」


 ボクはポケットに入っていた氷砂糖を黒い靄に投げて寄越す。黒い靄はそれを器用に捕まえると、部屋に置かれた鳥籠へ入って行った。


「ホント、面倒な事になったなぁ……まさか、身内に売られるとは……」


 もう1つは、学園で起きている学生が眠りから覚めない事件についての協力。


 この国の役に立たなければ国に返す、いや返さなければならないという事をシヴァルラスから重々しく伝えられた。さらに成績は首位を保っているが、授業は遊んでいることが身内にバレてしまった。遊学するならそれなりの功績をあげて来いという身内からのお達しにボクは彼からの協力要請に頷くしかなかった。


「あと、1か月かぁ……どうしようかねぇ……」

「グゥ……」

「はいはい。ボクのせいですね、わかってますよ」


 ボクは肩に乗るセピアの喉を撫で、小さくため息をついた。


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