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35 男子会に参加する男、ヴィンセント

 


 鼻歌交じりに紅茶を淹れる友人を横目に、オレ、ヴィンセント・レッドスピネルはため息を漏らした。


「ボクがとびっきり美味しい紅茶を淹れている最中だって言うのに、なんてため息をついているんだよ、ヴィンセント」


 友人、ジェット・アンバーは両頬を風船のように膨らませるが、さらにオレはため息を漏らした。


「いや、そのとびっきり美味しい紅茶を飲むのに、ずいぶんと個性的な客人を連れてきたな……」


 円卓を囲むのはオレの従兄弟であるシヴァルラス。友人であり隣国の王子であるジェット。


 さらに──


「連れて来られた理由を、俺が1番知りてぇよ……!」


 オレとジェットのクラスメイトであり、オレ達の学年で唯一の平民の出の少年、グレイムだった。


 親近感が湧く三白眼がキッとジェットを捉えた。


「どう見ても俺は場違いじゃないですかねぇ? ええ、ジェット様よぉ?」


 チンピラのような口調でたっぷりと嫌味と怨念を込めたグレイムの言葉。普通の貴族が聞けば、眉の一つは動かしていただろう。しかし、某令嬢のおかげで聞き慣れた口調と言葉に、オレとシヴァ兄は嫌な顔一つするはずもなく、さらにヤツにも通用するわけがない。


 ヤツは天使のような笑顔を浮かべる。


「大丈夫! 君が場違いなら同じく目つきの悪いヴィンセントも場違いだからさ!」


 さらっと人を貶していくのはやめろ。オレは喉元まで出かかった言葉を押し込めると、咳払いをしてグレイムに目を向けた。


「諦めろ、グレイム。こいつに捕まったらボロボロになるまで遊び倒され、最後には骨の髄までしゃぶられるぞ」

「怖ぇーよっ! 悪魔かよ、コイツ!」


 仮にも王族に対して無礼千万な台詞を吐くオレとグレイム。しかし、ヤツの鉄壁の笑顔が崩れることはなく──


「こんな可愛い悪魔に弄ばれるなら、本望でしょ?」

「「喧しいわっ!」」


 そんなオレ達3人のやり取りをシヴァ兄はころころと笑いながら眺めていた。


「仲が良いね、3人は」

「はい、ボク達とっても仲良しなんですよ~」


 いけしゃあしゃあと言ってのけるジェットにオレとグレイムは脱力を覚える。


 何をしたってジェットには口でも力でも敵わない。きっとヤツが王族でなくてもこの関係は変わらないだろう。


「本当はブルースも男子会に誘いたかったんですけど、ブルースってば『オレを待っている子猫ちゃん達を泣かせたくない』とか言って逃げられたんですよね」


 唯一ブルースだけはお得意の身体強化でジェットから逃げ延びた。普段はおおうつけだが、さすが上位者クラスにいるだけある。


「さすがのジェット様もブルースには敵わないか?」

「いや~、やっぱり身も心も軽い男は格が違いますよね! 次は逃がしません」


 ヤツの笑顔の裏に何か恐ろしいものを感じるが、オレは黙っておく。


 ジェットは人数分の紅茶を用意し終えると、満足げな顔をして頬杖を付いた。


「教室だと魔法やら政治やら堅苦しい会話ばかりですし、今日はそういうの抜きに語り合いましょう。その為にグレイムも誘ったんですし」

(正確には、捕まえたが正しいがな……)


 ヤツに捕まった憐れなグレイムは紅茶に角砂糖を3つも入れている。意外にも甘党のようだ。


「それにしたって俺は場違いだろ……俺は、アンタらみたいな上品な話は出来ねぇぞ?」


 グレイムはずずずずぅっと大袈裟に音を立てながら紅茶を飲む。そうすれば、礼儀作法が出来てない下等な輩だと嫌われる事を知っているからだ。だが、オレ達3人がそんな事を気にする玉ではない。


(つか、ジェットにそんな口を利いてみろ……)


 ヤツは会話のキャッチボールなどしない。常に相手の隙を狙ったジャブを繰り出してくるぞ。

 オレは太陽のように眩しい笑みを浮かべるジェットに目をやる。


「じゃあ、下世話な話でもする? イヴ・ラピスラズリともうキスしたの~?」

「ぶっ! ゲホゲホゲホッ!」


 斜め上からの反撃を食らって盛大にむせ返ったグレイム。シヴァ兄は「おやおや」と言いながらもその表情は楽し気だ。ようやく落ち着いたグレイムが顔を真っ赤にしてジェットを睨みつけた。


「何言ってんだ、テメェ!」

「え~? 2人って付き合ってるんじゃないの?」

「違ぇよ! アイツはただの幼馴染だ! アイツと、キッ、キスなんて……」


 さらに顔を真っ赤にさせて、ついには黙ってしまった。


「あははははっ! 意外にウブだねぇ、君!」


 バシバシとグレイムの背を叩くと赤い瞳がこちらに向いた。


「それで、ヴィンセントはクリスのどこが好きなの?」

(コイツっ! シヴァ兄の前でなんつーこと言ってんだ!)


 ヤツは常に笑顔を浮かべているせいで、腹の中で何を考えているのか全く読めない。腹の黒いことを考えている事だけは分かる。


「そういう自分はどうなんだい、ジェット様」


 シヴァルラスがにっこりと微笑みながらジェットに問いかけた。


「ずいぶんとクリスティーナ嬢がお気に入りみたいだね?」

「ええ、もちろん大好きですよ。彼女、可愛いですよね、お人形さんみたいで」


 婚約者候補とはいえ、本人の目の前で堂々と言ってのける。ヤツの神経の図太さを見習いたい。


「あ、もちろんシヴァルラス様も大好きですし、人の婚約者を略奪するようなことはしないので、そこは安心してください」


 2人の間に流れる雰囲気は一触即発するような険悪なものではないが、正気に戻ったグレイムは気が気でない様子で静かに紅茶を飲んでいた。


 やはり音を立てずに飲めるじゃないか。


 オレもジェットが淹れた紅茶に口を付ける。うん、悪魔のような男が淹れたとは思えない美味さだ。


「そういえば、そのクリスの事なんですけど……最近、彼女の様子がおかしくありません?」


 彼の笑顔が一変し、真剣な顔になる。口元で手を組み、赤い瞳を光らせ「知ってることを教えろ」と無言でオレ達に訴えかけてくる。


「あ? あの御令嬢はなんかおかしいのか? いつもと変わらねぇだろ?」


 付き合いの浅いグレイムには分からないだろう。

 オレは静かにティーカップを置いた。


「アイツはいつもおかしいから問題ない」

「そうだね、彼女はオンとオフの差が激しいからね。いつも通りだよ」


 オレに続いてシヴァ兄の援護が加わりジェットは嘆息を漏らした。


「ちょっと、そこの幼馴染2人。少しは心配してあげてよ。ここ最近、クリスが鉄壁の淑女精神を貫いてるんだよ? おかしいでしょ?」


 5日前の一件以来、彼女はいつも以上に気を張って淑女としての態度を貫いている。他人から見ればそれは普段と変わらないが、彼女と近い距離で接しているジェットにはさぞ不気味に思えるだろう。さらに精度が高まった愛想笑い、穏やかで温かみのある声音と柔らかな口調。その隙を見せない態度は社交界で高嶺の花と称賛される社交界での彼女の姿だ。


「お前は知らないだろうが、時々変な切り替わりがあるんだよ。まあ、ガス抜きがそろそろ必要だけどな」


 学園に入学してしばらく経つ。オレも彼女の様子に気になる所があり、シヴァ兄も同じ考えなのか朗らかに頷いた。


「クリスティーナ嬢は頑張り屋さんだからね」

「ふーん……」


 ジェットが赤い瞳を不服そうに細め、クッキーを口に放り込んだ時だった。


「シヴァルラス様っ! ヴィンセント様! 大変です!」


 ブルースが血相を変えてこちらへ向かってきた。


 男子会のメンバーが意外なメンツだったのに驚いているのか、グレイムを見てぎょっとする。


「えぇっ!? グレイム、なんでキミがここにいるんだ!?」

「うるせぇ、邪魔ならさっさと退散してやるよ」


 グレイムが踵を返そうとしたが、ブルースが勢いよく彼の肩を掴んだ。


「いや、キミも来い! 大変なんだよ!」

「はぁ?」

「何々~、ブルースってばとうとう痴情のもつれで女の子から命でも狙われてるの?」


 ジェットが茶化すように言い、オレも半ば納得しかけた。


「オレもお前の女事情に巻き込まれるのはごめんなんだが……」

「ヴィンセント様まで! オレ、そこは上手くやってるんで……って今はそれどころじゃない!」


 ブルースは青ざめた顔で言った。


「クリスティーナ嬢が、他の婚約者候補と喧嘩してます!」

「「……は?」」



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