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30 推しとヒロインは美味しい

(な、な、なんでイヴがいるのぉ~~~っ!?)



 3人で食事をしている所を通りかかるはずのイヴが、既に2人と一緒にいる。イベントとは違う流れ。淑女の顔を忘れて、驚いたまま動けない私の代わりにジェットが口を開く。



「あれ? 彼女はどうしたの?」

「いつも1人で食事をしているらしくてな。昔のどこぞの誰かさんを思い出してオレが誘ったんだ」



(どこぞの誰かって私か! 私の事か!)



 ヴィンセントとシヴァルラスと出会ったあのお茶会を思い出し、私は内心でムッとする。

 しかし、彼がイヴを誘った事は盛大に褒めてやりたい。普段は2点の男だが、今回ばかりは100点満点だ。



「いやぁ~、さすがヴィンセント! やっさしい~! ラブレターをもらうような色男は違うね!」

「嫌味か!」

「まぁ、まぁ。ジェット様、クリスティーナ嬢。彼女も同席しても構わないだろうか?」



 シヴァルラスは朗らかに言い、私はハッとして頷く。



「え……ええ、もちろんです」



 私がそう返事をすると、イヴはシヴァルラスの隣に座る。私は並んだ2人の姿に内心ほっこりする。



(推しとヒロインのツーショットだイェエエエエエエエエエイ!)



 出会いのイベント以来の推しとヒロインのツーショットに、私は歓喜の雄叫びを上げる。



(スクリーンショットを撮りたい……)



 何故私の眼球にはスクリーンショット機能が搭載されてないんだ。私は眼球にスクリーンショット機能を搭載された新人類になりたい。

 イヴを見ると、普段の無邪気な様子とは違って表情が硬く居心地の悪そうにしていた。



(ああ、イヴすごい緊張してる……かわいい)



 円形のテーブルで隣には第3王子と公爵家嫡男、そして目の前には王子の婚約者候補に隣国の王子。このメンツで緊張しない方がおかしい。しかし、前世では気にならなかったが、男に挟まれている席に座るのはどうかと思う。



「クリス」

「はい……むぐっ!」



 ふと名前を呼ばれて私は顔をあげると、口にサンドウィッチを押し込まれた。

 押し込まれたサンドウィッチを慌てて咀嚼し、私はジェットを睨む。



「何するんですか……!」

「だって、クリスは殿下を見つめるのに夢中みたいだからさ。ボクが食べさせてあげるから、君は殿下に集中してていいよ?」

「結構です!」



 私は自分のサンドウィッチを引っ掴んで食べ始めると、ジェットは紅茶を飲みながらイヴを見る。



「それにしても君っていつも1人でご飯食べてるの?」



 いつもの直球な質問に、ヴィンセントが半目になりシヴァルラスが苦笑する。人が言いにくい事を悪気なく言ってしまうのは彼の良さでもあるが、あまりにもストレート過ぎる。

 イヴも顔を真っ赤にして俯いてしまう。



「は、はい……お恥ずかしながら……友達が……その……」

「ブルースは? それにグレイムは孤児院時代からの幼馴染って聞いたけど?」



 それを聞いて、私を含め全員がぎょっとする。

 グレイムも孤児院育ちだが、イヴと幼馴染だとはみんな知らないはずだ。



「あ、あの……なぜそれを?」

「グレイムから聞いたんだよね。いやぁ~、彼ってからかい甲斐があっていいよねぇ!」



 この悪魔、ヴィンセントだけに飽き足らずグレイムまで玩具にして遊んでいるのか。今度グレイムも被害者の会に入れてやろう。

 被害者代表のヴィンセントは額に手をやってため息をついた。



「お前なぁ……王族なんだからもっと大人しくしろよ!」

「え、何? もしかして嫉妬? 安心して、1番はヴィンセントだから!」

「嬉しくもないし、安心できるか!」



 いつものやり取りにシヴァルラスも「いいお友達が出来てよかったな、ヴィンセント」と弟を心配すると兄のような言葉を呟く。



「でも、イヴ嬢。彼らとは昼食を摂らないのかい?」

「はい。ブルースはいつも他の令嬢に誘われていますし……グレイムは男性なので2人きりになるのは醜聞が流れると……」

(ブルース!?)



 私はイヴの呼び方に目を光らせた。


 なぜならイヴはブルースの事をお義兄様(にいさま)と呼ぶ。好感度が上がってくると、ブルースが「お義兄様じゃなくて、名前で呼んで欲しいな」と言うのだ。


(意外にブルースとの好感度が高いのね! ま、まさかイヴはブルース派なの!? 女を取っ替え引っ替えしてるベビーフェイズが好きだというの!?)



 グレイムとブルースの好感度は高めに設定されているとはいえ、なかなかな進捗具合ではないだろうか。



(わ、私も頑張ってシヴァルラスとイヴを引き合わせないと……!)



 ブルースは義兄な分、接点が多い。片やグレイムは幼馴染だが孤児院を出る時に喧嘩別れをしている。しかし、イヴの様子を見ていると、もう関係は修復済みのようだ。これは不味い。



「別にいいんじゃないの? ボクなんてヴィンセントと一緒にいる時に令嬢方から、やれボクが右だ、やれボクが左だって言われてるんだから、もはや男女なんて関係ないさ」



 ジェット、それは男同士の掛け算の話か。それ以上はいけない。私もその沼の住人ではないので詳しくないが、それ以上はいけない。



「なんだ……その右と左って」

「ヴィンセント、知らないの? 最近の令嬢はね、掛け算を嗜んでいる子が多いん……いだっ!」



 私は5号に飛び蹴りをさせ、ジェットは蹴られた頭を擦った。



「いててっ……何するんだよ、クリス」

「そんな雑学にもならない掛け算は覚えるつもりはありませんので。ねぇ、5号? 貴方もそう思うわよね?」



 5号にうんうんと頷かせて、テーブルの上に座らせる。

 彼は不満そうに私へ視線を投げて寄越すが私は黙殺した。



「そういえば、イヴ嬢。君のお弁当は手作り?」

(来たっ! イベント!)



 シヴァルラスのセリフで戦いのゴングが鳴らされようとしている。



「は、はい。えーっと、昔から料理が趣味で時々作ってるんです」

「へぇ、どこかの誰かさんと違って、美味そうだな」


 カーンッ!


 ヴィンセントの余計な一言によって戦いのゴングは今、打ち鳴らされた。



 イヴの代わりにお前をリングに立たせてやろうか、ヴィンセント。私の料理で1発ノックアウトさせてやる。



 怒りの矛先がヴィンセントに向けられた時、むくりと5号が勝手に動き出す。

 ぎょっとシヴァルラスとヴィンセントの視線が私に集中する。



(え、私じゃないわよ!)



 勝手に5号を動かしているジェットは知らないふりをして紅茶を飲んでいる。

 5号はシュガーポットのところまでポテポテと歩いていくと、蓋を開けて角砂糖を貪り食い始めた。

 その勢いときたら、やさぐれてヤケ食いをしている女子のようだった。



(やめろ! さも私がやさぐれているかのように5号を動かすんじゃない!)



 当てつけのようにジャリジャリと音を立てて咀嚼する5号にジェットは笑う。



「5号、砂糖取ってくれる?」



 ジェットがそういうと、「オラよっ!」言わんばかりにティーカップに角砂糖を投げ入れた。



(というか、私ってば大事な料理イベント起こしはぐってない!?)



 話がさらっと変わってしまったせいで、今頃「私も手料理作ります!」と言いづらい空気になってしまった。



(やばい、どうしよう。せっかく私が磨き上げた料理の腕前が無駄になってしまう!)



 私が焦りに焦っていると、ジェットがイヴに紅茶を用意していた。



「砂糖はいる?」

「あ、私が自分でやりま…………」



 イヴがシュガーポットを抱きかかえる5号を見て、息を呑むのが分かった。



「ご、5号さん。お砂糖を取りたいので失礼します」



 イヴがシュガーポットに手を伸ばすと、その手はぱちんと叩き落とされる。



「気安く触んな、ジャガイモ女。マッシュにしたろうか?」



 この場に沈黙が流れ、シヴァルラスの優しい眼差しとヴィンセントの呆れた視線が私に突き刺さる。



(誤解です! 私じゃないんです!)



 その沈黙を突き破るように5号が再び口を開いた。



「いひひひっ! お前なんか塩と胡椒で味付けして副菜にしてやる!」



 私はジェットを睨みつけると、彼は天使のような笑みを浮かべる。



「マッシュポテトかな? 美味しそうだね」

(美味しそうだね、じゃないわよ!)



 きっとみんな私が5号に言わせてると思っているだろう。気まずい雰囲気に私の推しが咳払いをする。



「久しぶりに5号が喋ってる声を聞いたね。イヴ嬢、気を落とさないで欲しい。クリスティーナ嬢は恥ずかしがり屋でね。たまに思ってもない事を口にしてしまうんだ」

(きゃーっ! 推しが私のフォローしてくれてる! ありがとうございます、シヴァルラス様!)



 推しのナイスフォローに内心で私はスタンディングオベーションで拍手を送る。



「昔からコイツは天邪鬼だからなぁ……見た目に反して中身に可愛げがないが、許してやってくれ」

(ヴィンセント、あとで覚えていろ。その言葉、そのままそっくり返してやる)



 5号はイヴのティーカップに角砂糖を投げ入れると、再び角砂糖を頬張り始めた。



「ねぇ、クリス? 5号ってどうやって動かしてるの?」



 もう既に5号を動かしまくっているジェットは白々しく聞き、シヴァルラスも頷いた。



「それは私も興味あるね。セレスチアル家は魔力の扱い方が器用だと聞くしね」



 推しの頼みとなったら仕方がない。私は指先に魔力を集中させ、1本の糸を生成して5号に繋げた。



「これが魔力の糸です。これを必要な数だけ作って人形を動かすのです。父と兄が使う人形はまた違いますけどね」



 父と兄の人形は磁器製だ。特殊な素材を使っているので厳密には磁器ではなのだが、自分の血液をしみこませて糸を使わなくて動かすことができる。



「これは人形使いが人形を扱う時の基本です。人形以外にも物を引き寄せたりすることも可能です。今は目に見えていると思いますけど、精度を上げれば視認しにくくなります。こんな風に」



 私が魔力の糸を最小限まで細くすると、蜘蛛の糸のように見えなくなる。



「へぇ、確かに難しいな……」



 ヴィンセントが糸を出そうとするが上手くいかない。それはシヴァルラスも同様のようだ。



「あ、できた」



 ジェットはわざとらしく見えるように糸を生成し、5号を操って遊んでいた。

 元々できるジェットは当然として、私はイヴに目をやる。



(で、できてる!?)



 彼女の指先からまだ魔力の練りが粗いが、糸がちゃんと出ていた。



(さすが、魔力が強いと結構できるのね!)



 少しずつ少しずつその糸を伸ばしていき、その糸は5号へ──向かっていくはずが、糸が曲がってシヴァルラスの身体にくっついた。



(しまった、魔力の暴走か!)



 糸を作るには難しく、私も幼い頃はあらぬ方向へ糸を付けてしまった事がある。糸の切り方が分からないまま、魔力を引っ込めてしまうと引き寄せてしまうのだ。


 イヴは慌てて糸を放そうと魔力を止め、シヴァルラスイヴの方へと勢いよく引き寄せられた。

 そして──私は2人の顔が重なったのを見て、目の前が真っ暗になった。


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