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11 悪魔の微笑み

 彼が乗った馬車が見えなくなったのを確認し、私は安堵を漏らした。


「何とかなったわね。ねぇ、ジェット……うわっ!」


 隣にいたジェットが天使のような笑顔をこちらに向けている。その様子は決して上機嫌だからではない。その証拠に彼の背後には瘴気のようなものが漂っていた。


「ジェ……ジェット? ど、どうしたの?」

「別に~! アイツをピクルスにし損ねたなって思ってただけだよ」


 太陽のように眩しく輝いている彼の笑顔。「残念だな~、残念だな~」と嬉しそうに言いながら、ジェットは後ろからのしかかるように腕を回してきた。


 私をぎゅっと抱きしめ、膨らませた頬を私の頬にくっつける。


「別に……クリスに友達ができたから、ボクと遊ぶ時間が減っちゃうなぁ~とか……思ってないよ?」


 ぐりぐりと頬を押し付けながら「本当に思ってないよぉ~」と言葉とは裏腹の態度を見せる。


 寂しさを全力で訴えてくる彼に苦笑しながら、私は頭を撫でた。


「大丈夫よ、ヴィンセント様だって毎日来るわけじゃないんだから。ジェットとは今までと変わらずに遊べるわよ。ね?」

「…………本当?」


 ジェットが私の顔を覗き込む。こちらを見つめる瞳は、不安で今にも圧し潰されてしまいそうな悲し気な色を浮かべていた。


 私はそんな不安を吹き飛ばすように笑って見せる。


「うん、本当」


 ジェットは悪魔で他の人に見えなくても、初めできた私の友達だ。困ったことばかりするが、手のかかる弟のような存在でもある。


「それにジェットともっと遊びたいし、もしいなくなっちゃったら寂しいって思うわ。ジェットは私の友達で、ずっと私と一緒にいてくれるんでしょ?」


 彼は黒幕の悪魔だ。クリスティーナルートでは彼の出番は幼い頃の回想で、たった一瞬だった。しかし、彼はきっと本編でも私の傍にいるだろう。私はそう思っている。


 素直な言葉を口にすると、彼は赤い瞳を丸くして私を見ていた。


「ジェットは違うの?」

「ボクは…………」


 ジェットはぎゅっと私に抱き着き、ため息のような、安堵のような息を吐いた。


「ボクにとって君は……初めての友達で、ずっと大好きな人だよ」

「え……?」


 耳元で囁かれた言葉に、驚いた私は振り返る。


 すぐそこには、愛おし気に目を細める彼の顔があり、どきりと臓が跳ねた。まるで恋人を見つめるような大人っぽい表情に、私は目を見開く。


 そんな私を見て、ジェットは「ぶっ」と失笑する。


「なーんてねっ! 驚いた? 驚いた?」


 彼はお茶目にそう言い、ぎゅっと私を抱きしめた。


「ジェ~ットぉ~?」


 この悪魔、もしやからかったな。私が恨みを込めて名前を呼べば、彼はえへへっと屈託のない笑みを浮かべる。


「ボクは悪魔だよ? 騙されないようになしなくちゃっ!」


 彼は「おバカな、クリス」と言い、ぐりぐりと頬ずりをする。


「ボク、そろそろ帰るね? またね、クリス」


 私から離れた彼は、煙のように姿を消した。


「なんなのよ、もう」


 今日のジェットはなんだかおかしい。


 急にしおらしくなったり、色っぽい表情を見せてみたり、あれが世で言う小悪魔系というやつだろうか。


「ま、いっか。ジェットの機嫌も直ったし」


 私は深く考えるのをやめ、屋敷に戻った。


 その晩、私は大嫌いな人参が食べても食べても減らない現象に悩まされるのだった。




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