謝罪と感謝
「あ、おはようございます、カーフさん」
翌日、食材を買うのを忘れていたカーフは、昨日クビ宣告されたギルド隣りの酒場に朝食を食べに来ていた。店主と軽い話をし、喧騒の中運ばれてきた料理を口に運んでいると、そこにソーラ一行が姿を見せる。声を掛けてきたのは、その一行の治癒士、アリンだ。
「おはよう、アリンちゃん。君たちも食事かね?」
「はい。今日から三人での仕事なので、いつもより気合いを入れないと、ですからね」
そう言ってアリンは、カーフの隣に座る。同じパーティのメンバーである剣士、コガネはカーフの対面に座り、ソーラは少しギクシャクした様子で、アリンの対面に座った。
どうもソーラ一行は昨日の内にフィルエルムから事の次第を聞かされていたようで、アリンとコガネはパーティを組んでいた時と同じように対応していたが、ソーラに限っては少し事情が異なるようだ。
「やれやれ。変に気を遣われるほど、私はまだ落ちぶれてはいないのだがね」
と、カーフがソーラに向かい、からかうように言う。ソーラは「ははは……」と苦笑いする他ないようで、妙に責任を感じていたようだ。
「これでも私は、君たちに深く感謝しているのだよ?」
このままだと士気に関わると、カーフは食事の手を止め、改めてソーラ達と向き合う。その目は真剣で、ソーラを始め、コガネ、アリンも思わず息を飲んだ。
「ギルドマスターが言ったかどうかは定かではないが、私が君たちのパーティに加わった理由、それは君たちの教育役を買って出たからだ」
カーフの言葉に、3人の表情に変化はない。どうやらこれは既に聞かされていたようだ。
「そもそも黄昏の守人は、私とフィルエルムを含めた4人で始めたギルドでね。この国で一番のギルドになって、イストウッドをより良い国にしていきたい、というフィルエルムの信念に私たちが賛同したものだった」
そこから先は、ソーラ達が今まで知ることのなかった、自分達が所属するギルドについての歴史だった。
ギルドとして軌道に乗り始めた頃、初期メンバーの1人が妊娠したこと、相手がもう1人の初期メンバーであること。二人は黄昏の守人を離脱して、姉妹ギルドのギルドマスターであること。
また、受付嬢のサラが歴代で3代目の受付嬢であること、初代はフィルエルムの妻となったこと。
さらには、その頃からカーフが、後進育成のため様々なパーティに出入りしていたこと。現在2nd以上のパーティのほとんどが、カーフから指導を受けていたこと。ソーラ一行が成長することが、ギルドを磐石なものになると確信し、最後の指導となるだろうことも。
「……カーフさんは、そこまでギルドマスターのことを慕っていたのですね」
「それは買いかぶりというものだよ。私とフィルエルム、プライベートではフィルと呼んでいるが、彼とは幼なじみというか、腐れ縁でね。お互いの夢を叶えるためにお互い協力しよう、と若い頃に誓い合っただけだよ」
「それなのに、俺、カーフさんにあんなことを……」
「なんだ、よそよそしいと思ったがそんなことが理由だったのかね」
ソーラの言葉に、若干目を丸くするカーフ。気にする素振りをすることなく、実際に全く気に留めてもいなかったことを自身で責めていたことに、ソーラに青臭さと、良き心を持ってくれた喜びを感じていた。
「ソーラ君、昨日の君の言葉は、言い換えるならば私の夢が叶った瞬間でもあったのだよ。君たちは十分に力をつけ、私の指導を必要としない程成長した。だから私は君たちに感謝こそすれど、責めることなど決してない」
そう言ってカーフは席を立ち、ソーラの頭を優しく撫でた。
「ありがとう。君は、君たちは、私たちの夢を叶えた宝石だ。君たちは私たちにとって誇るべき存在だ。これからは胸を張って、さらに邁進してくれたまえ」
「………………はい…………!」
ソーラの返事は小さく、震える声でありながら、とても力強いものだった。ソーラの目から、ひとしずくの涙が流れる。
許された、のではなく、認められた。その事実とプレッシャーが今後ソーラ達にのしかかってくるだろう。それでも、彼らはそれを糧にさらに成長していく、そう確信するカーフだった。