カフェマスター
「さて、僕に用事ということは、ソーラ君から話は聞いたんだね?」
コーヒーブレイクを終え、マスタールームで二人、接客用のソファに向かい合わせに座るカーフに、フィルエルムが切り出した。テーブルの上には、「今度は僕が」とフィルエルムの淹れたコーヒーが置かれている。
「ええ。クビになって、後のことはギルドマスターに聞けと」
ギルドマスター直々にコーヒーなんて、珍しいこともあるものだ、とカーフはコーヒーを口に含む。香り、コクは申し分ないが、カーフが淹れるコーヒーよりもやや味が薄い。フィルエルムの好みに合ったものなのだろう。
「バツが悪いからって、僕に丸投げしてきたな、ソーラ君。全く、逆に気を遣わせたようだね」
「いえ、何か隠しておきたいようだったから、そこには触れないでおきつつちょっとからかったよ」
「それが気を遣わせてるというものだよ。さて本題だが、君のことはどうしようかと、ソーラ君から度々話があってね」
「私をクビにする算段かな?」
「悪くいうならばそういうことだ」
言い難いことをズバリと口にするカーフ。そんなカーフの性格を知っているフィルエルムは、態度を崩さずに素早く切り返す。
「彼らにとっても悩ましいところだったようだ。君はギルド内でも戦闘、探索において主戦力として活躍してくれていたからね。君の抜けたソーラ君のパーティは、大きな痛手になったのは間違いない。事実、彼らは僕に、パーティのランクを1つ下げてくれと懇願してきたよ」
そこまでして、とカーフの表情にうっすらと驚きの色が浮かぶ。ギルド『黄昏の守人』は、個人ランクとパーティランク、2つのランク制度がある。どちらも最高ランクを1st、続いて2nd、3rdと続き、10のランクで分けられている。カーフの個人ランクは上から2番目の2nd、ソーラはその2つ下の4thランクで、パーティランクはソーラのランクに合わせて4thランクである。
「君が抜けたとしても、彼らも200のパーティがいるこのギルドで、十指に入る精鋭だ。3rdへの昇格も視野に入れていたのだが、メンバーが減るからより気を引き締めたいと言われたよ」
「で、受けたのかい?その懇願を」
「いいや、パーティランクはそのままで、むしろソーラ君の個人ランクを3rdに引き上げたよ」
「はは、ソーラは謙遜しているが、相当の実力はあるからね。それに頭も良い。どちらの方が利があるか、分からん奴でもないだろう」
「コガネ君とアリン君も、4thで留めるには惜しい人材だ……っと、話題が逸れてしまったね」
コーヒーを一口飲み、一息つけるフィルエルム。損はないように、とコガネは言っていたが、何を言われるのかは、全く想像もつかない。1st昇格か、はたまた役職付きになるか。
「カーフ君、カフェのマスターになる気はあるかい?」
しかし、フィルエルムの口から発せられた言葉は、カーフにとって予想の斜め上を行くものだった。