窃盗犯の哀れな末路
「きゃあああああ!!!」
買い物を楽しんでいる中、カーフとルファルの耳に飛び込んできたのは、劈くような女性の声だった。
「誰か!ひったくり!!」
すぐ近くで荷物を奪い取る輩が現れたようだ。2人が外に出ると、真っ先に目に入ってきたのは倒れ込みながら必死で叫ぶ女性と、恐らくその女性から奪ったのであろう、大きな袋を持って走っていく大柄の男が2人。
「ルファルちゃん、あの女性を任せたよ」
カーフはルファルからの返事を聞くまでもなく、2人組を追って走り出した。
「全く、年寄りを煩わせるんでない。さあ、盗った物を返してもらおうか」
程なくして、カーフは2人組を路地裏の行き止まりまで追い詰めていた。男たちは若干息があがってるように見られるが、カーフは息一つ崩さず、毅然とした表情で2人を見据える。
「へっ、誰が返すか。それにおっさんよ、俺たちを追い詰めたように思ってるかもしれねえが、あんたはここに誘い込まれただけだ」
息を整えながら、男の1人が口元を歪に歪ませる。それが単なる虚勢ではないと、カーフの直感が告げていた。
「なるほど、君たちにはそう見えるか」
しかし、カーフの表情には余裕すら伺える。
「なにがおかしい!!」
その表情の変化に、もう1人の男が神経を逆撫でされたのか、語気を荒くしてつっかかってくる。当然、カーフの表情はそのままだ。
「いやなに、たかだか10人程度隠れている者がいたところで、状況になんら変化はない。むしろ、一網打尽に出来るというのもあって、余計な手間がかからないというものだよ」
隠れている人数をズバリ言い当てられたことに驚きを隠せないのか、男たちの表情が一変、曇っていく。しかし、そんなカーフの言葉を虚勢かなにかと感じたのか、すぐにその表情が歪んだものになる。
「はっ!!そんな戯れ言を!!」
「ならば、試してみるかな?」
あくまで主導権は自分にある。そう思わせるカーフの口ぶりに、男たちの怒りは頂点に達した。
「うるせえじじい!!ここで死ね!!野郎ども、やっちまえ!!!」
その言葉を皮切りに、潜んでいた男たちの仲間が、一斉にカーフに襲いかかってきた。
「7人か。私も随分なめられたものだ」
襲いかかってくる人数を把握し、「残念だ」と言わんばかりのため息を漏らす。瞬間、カーフの周囲から淡い光が溢れてくる。その光の上を襲撃者が通りかかった瞬間、光は一層の輝きを放って、襲撃者を包み込んだ。
「!?」
慌てて回避行動をとろうとするも、時すでに遅し。襲撃者の手足を光線がまとわりつき、動きを止めた。
「『キャプチャー・レイ』。怪我をさせずに捕まえるにはうってつけの魔法でね。悪いが君たちの仲間は、全員縛らせてもらったよ」
「み、見えなかった……全く……!!」
一部始終を見ていた男でさえ、その早業を目で捉えることが出来なかった。紋章を7つ、同時に発動させ、寸分狂うことなく襲撃者を捉えて離さない。襲撃者の中には、逃してもらおうと懇願する者もいた。しかし、その言葉はカーフに届くことはない。
「逃がすなんてそんなもったいないことを。ここで君たちは終わりだよ」
言い切る前に、カーフは新たに紋章を2つ、空間の上に作り上げる。その紋章から飛び出てきたのは、襲撃者を捕らえたあの光の縄。それは瞬く間に盗みを働いた2人を捕らえ、一瞬にして街に静寂と喧騒が戻ってきた。
「ふむ、寄り道をしてしまったな。買い物の続きとしよう」
カーフはそのまま、街の守衛に身柄を引渡し、退屈な時間だったと口を漏らし、再び中央街へ足を運ぶのだった。