期待と契約
コガネの問いに、カーフは指を2本広げ、3人に見せてみた。
「理由は2つある。君たちに期待しているのと、これが1つの契約であるということさ」
「契約……?」
依頼ではなくて?とアリンが首をかじける。カーフは「そうさ」と返した上で、さらに続けた。
「確かに、南部の原生林は魔物の強さは中の下、5thのパーティでも問題なくこなせるだろうし、なんなら6thのパーティでも上位なら倒せるだろう。ただ、おおよそ20年周期で、あそこには彼らでは太刀打ち出来ない強力な魔物が現れる。本来ならば4thの君たちではなく、3rdに頼むべき依頼になるのだが、私は君たちでもその魔物を倒し、依頼を完遂できるとにらんでいる。言わば期待の裏返しというわけだ」
ここまで言い、カーフは指を1つ折る。これが1つ目の理由だ、と目が語りかけている。
「もう1つは、私は君たちと、専属契約を結びたいと考えている。といっても実にシンプルに、私が出す依頼を君たちに優先的にこなしてほしいのだよ」
「それも、期待してのこと、ですか?」
「そうとも言えるし、そうではない、とも言える。ソーラ君、君が私をパーティから抜けさせるために、どのような理由を根拠にしたかね?」
聞き返したソーラに、カーフが質問でさらに返す。若干申し訳なさそうな表情を浮かべつつも、ソーラはそれに答えた。
「マイペースが過ぎる……と」
「そう。そのマイペースというのは的外れではなくてだね。少々自分勝手ではあったが、十分育ってきて、後はソーラ君の一言次第、というところまでいってから、私はカフェを開くために色々と物色していたのだよ。もちろん、周囲の警戒そのものは怠ることをせず、たとえ君たちの意識の外で魔物に襲われても、問題なく対処出来る範囲でね」
ふっ、と鼻で笑いつつ、カーフは続ける。
「実を言うとだね、このようなことをしたのはソーラ君たちとパーティを組んでいた時にしかしてないのだよ。今まで見てきたパーティはどれも優秀ではあったが、その中でも君たちは、将来性においては特に秀でていた。今後私が出すであろう依頼は、3rd以上に推奨する難易度のものであったり、中には2nd以上でないと危険となるものも出てくるだろう。それでもソーラ君たちなら、きっとその依頼をこなしてくれる」
それ故に、期待を込めて専属契約したい、とカーフはしめくくる。
それを聞いたソーラたちは、お互いに目を見合い、3人の中で1つの結論を出していた。
「そういうことなら、俺たちに任せてください。カーフさんの期待を裏切らないよう、一層精進し、絶対にこなしてみせます!」
「それでこそだ」とカーフが微笑むと、すっと席を立ち、キッチンへと歩を進めていく。
「それでは、カーフ君たちの健勝と景気づけのために乾杯をしようではないか。あいにくビールではなく、私のコーヒーで、だけどね」
「そっちの方が嬉しいな」とアリンが言うと、4人の間に笑顔がこぼれ、新生ソーラパーティにますます気合いが入った。コーヒーを淹れてきたカーフが席に戻り、4人は視線を交わし、それぞれカップを手に取る。
「それでは、ソーラ、コガネ、アリンの3人の健勝を願って、乾杯」
「「「乾杯!!!」」」
こうして、ソーラの感じていた罪悪感を完全に吹き飛ばし、それぞれが新たな一歩を踏み始めた。