おっちゃん冒険者、パーティをクビになる
イストウッド公王国。
世界の中核を担う『四大公王国』の1つにして、東の大陸を纏めあげる大国。魔獣、獣人が多く生息し、大きな山はないが、大陸の多くを森林が占め、世界有数の木工の国としても知られている。
イストウッドの王都、ブロッスシードに存在する冒険者ギルド『黄昏の守人』に所属する魔術師、カーフ=コーフェルトは、パーティメンバーと共に、ギルドハウスに隣接する酒場で食事をしていた。
「……さて、飯も済んだし、カーフさんに話があります」
カーフと食卓を囲んでいたパーティのリーダー、ソーラ=カナートが、神妙な面持ちでカーフに語りかける。
「率直で申し訳ないのですが、カーフさんのマイペースっぷりが目に余ってしまうのです。今はまだ命に関わるなんてことはないが、今後もっと強いモンスターを相手にするとなったらフォローしきれない。だから、パーティを抜けてくれませんか?」
ソーラによる、半ば一方的ともいえるクビ宣告。苦渋の決断だということは、マイペースなカーフでも分かる。ソーラの表情がそれを物語っていた。
「もちろん。ただ抜けるだけというのはこちらもしたくはありません。抜けた後のことは、パーティのメンバーで色々と工面していくつもりです。俺たちは俺たち自身の命もそうだが、貴方の命も惜しいと思っています。だから---」
ソーラが話を続けようとする中で、カーフがそれを遮るように言葉を発した。
「なるほど。つまりは、戦闘面で足でまといな私の面倒を見る事が出来なくなったから、死んで後味が悪くなる前に離脱させよう、ということだね?」
カーフはパーティの中で最年長、冒険者としての歴に至っては、ソーラを含めたパーティメンバーよりはるかに長い。戦闘面で言うならば、足手まといになることはまずありえない。
「……………………そういうことです」
しかし、返って来たのは、足手まといであることを肯定するかのようなものだった。カーフがソーラの顔を見ると、若干目が泳いでいる。長い間からのこの言葉、それが嘘であることを見抜けない程、カーフは間抜けではない。
「…………今後のことについては、ギルドマスターとも話し合いました。詳しくはギルドマスターから話を聞いてください。…………失礼します」
その場から逃げるように、ソーラはその場を去ってしまった。空気に耐えられなくなったのか、それとも何か隠していて、ボロが出る前に切り上げたかったのか。カーフの目には、そのように映っていた。
「一方的ですまねぇな、カーフのおっちゃん。正直俺は、まだパーティにいて欲しかったんだがな」
残されたパーティメンバーの1人、コガネが苦笑しながら話しかける。
「ソーラ君は隠し事が苦手だからね。本当は抜けて欲しくない、と顔にはっきり書いてあったよ」
だからこその、自分が足手まといだというカマだったのだが。
「まあ、バレバレだわな」とコガネが頭を掻く。
「はっきり言って、あんたがウチのパーティでの最大戦力だ。それは皆分かってる。さっきのソーラの言葉は、ただの建前だ」
「なら、私に抜けて欲しいと言ったのは、別の理由がある、ということだね?」
「まあそうだな。詳しいことはギルドマスターに聞いてくれ。それと、ソーラのことは許してやってくれ。あいつが1番、おっちゃんのことを頼りにしてたからな」
「なるほど。了解だよ。…………ところで、なぜアリンはそんなにニコニコしているのかな?」
そう言ってカーフとコガネが、アリンと呼ばれる少女に目を向けると、隠す気もないのかと呆れるほど満面の笑みをカーフに向けている。
「清々した、というわけでもなさそうだが、これもしかして、何か私に期待してるのかね?」
「あー…………、うん。そこもギルドマスターに聞いてくれ。少なからず、おっちゃんの損にはならねえと思うから」
パーティの常識人枠でもあるコガネが、大きなため息を漏らす。詳細までギルドマスターに話を通したのだろうか、とカーフが思考を巡らせる。
「というわけで、すまねぇなおっちゃん。おっちゃんの今後に、神の加護があらんことを」
コガネがそう言うと、いつまでもニコニコして動く気配のないアリンを抱え、酒場を後にして言った。酒場の外で、下乳がどうこう騒いでいるアリンの言葉が聞こえたが、それも直ぐに酒場の雑踏にかき消されていった。
「…………ふむ、何か裏がありそうだが、まずはギルドマスターに話を聞きに行かねばな」
ちなみに、酒場での食事代は既にソーラが支払っていたらしく、変なところで気を遣うものだ、とカーフは1人静かに笑った。