123 着替えと図書館と
辿り着いたのは、礼拝堂の奥にあって、今は物置となっている元厨房なのよ。
何時もこの礼拝堂で食事をしているのだから、この厨房を使っても良いと思うのだけど、どうして物置になっているのかしら?
まぁ、そんな謎は後にして、早く着替えなくっちゃ。
『慣れてしまった』と言っても、時折、鼻を撫でる臭いは、気持ち的に辛いわ。
元厨房には、六花(※花の様な雪)舞い散る冷えた日に、部屋を暖めた『湯たんぽ』というか、底辺りに栓がある壺と、その下に湯受けの桶。
そして、着替えが入った篭が用意されていたの。
元厨房だからかな? 床がレンガなので底冷えしてるけど、お湯で満たされた壺からの熱気のお陰で、部屋の中は、まあまあに温かいね。
「ほらほら、早く体を洗って着替えないと。お湯が冷めたら凍えてしまうだろ。早く着替えようか」
そう言って、桶にお湯を注ぎ終わったリトが、わたしの服に手を伸ばしてきたの。
「いや~。こんな幼気ない少女の服に手を掛けて、何をしようとするの。駄目よ、リト。何を名考えているのよ いけない事だわ!」
日本語で話しながら、いやいやな振りをしてみたの。
コツン…。
頭頂を拳で軽く叩かれちゃった。
「はいはい。ばっちい服は、ぬぎぬぎして、きれいきれいになって、きれいなべべをきようね~」
リトは、もう慣れた。って感じに、赤ちゃん言葉な日本語で言い返えしてきちゃった。
「も~ぅ。少しは焦ってよ~。前は顔を真っ赤にして慌ててたじゃないの。可愛く無い弟になっちゃったわね」
「ああ、もう!『おもちゃ』っていうなよ。聞こえが悪いなぁ。それにナーガが居ない時に毎度もからかうから、もう慣れ《・》ま《・》し《・》た《・》。
ほら、服を脱がすよ。
クレハも私も、お互い協力しないと体、特に背中とか髪は洗えないんだから、馬鹿な事をしないの! 夏場は良いけど冬は凍えて風邪引くじゃないか。さっさと済まそうか」
「な~んだ。つまんないの」
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「ふぅ。お湯で体が洗えると気持ちが良いね~」
「そうだな。流石に湯船と云う訳にはいかないけど、サッパリできたよ。髪も綺麗に洗えたし」
「そうだね~。寒くなってからは、濡れタオルで拭ってただけだものね。久々に頭皮まで洗えて気持ちが良いね」
こんな会話をしながら、リトはわたしの髪が冷えない様に、布を巻いてくれた。
洗い立ての服も、お日様の香りがして気持ちが良かったんだけど…。
リトったら、「お日様の香りって、実はイエダニの臭いらしいって知ってた?」なんて、ロマンの無い事を言うんだもん。つまんな~い。
「もう! つまんな~い! つまんな~いってば~!」
って言い返したら、「鶏の『んこ』製の野菜」って言った人は、だれだったかな?」って言い返してきたの。
そう言ったのは、わたしだけど、今ココで言う事かしら。
結構根に持つタイプだよね、リトは。
ま、損な性格なのも知ってるけどね~。
え? なに? 自分の事は棚置きしてるですって!
失礼ね!
気持ち良い雰囲気に浸っていいだけじゃ無いの!
わたしは悪くないわよ!
「どうしたんだい? さっきから誰かと話す様に独り言して」
「ううん。何でも無いよ。脳内の自分とお話ししてただけだから。リトも時々するでしょ。同じよ」
「そうか…、独り言ね~。私も独り言はするけど、声には出さない様に気をつけてるから、クレハも気をつけてくれると助かるな」
「そ、そうね。注意するわ」
「さてと。着替えも終わったし、次に使うマリーとアルの為に片付けようか」
「は~い。で、どうやって片付けるのかな~?」
「それは…聞いてないや。急いでシスター・レミアに教わりに行こう」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「な~に。片付けを教えて欲しいの? それじゃぁね~、脱いだ服を篭に入れてアリアの所に持って行ってくれるだけで良いわよ。後はサジェスとビリーで用意するから、大丈夫よ」
シスター・レミアは、無理をしなくて良いのよ。という返事をしてくれたの。
でも、使ったまま放置するのは、気が引けるわ。
「どうして。あたし、おかたづけ、できるよ」
って伝えたんだけど…。
「水の入れ替えに、『焼け石』を足したりと、とても大変で危険だから、サジェスとビリーにお願いするので大丈夫よ。
それより、鶏舎のお掃除が一番大変だったでしょ。夕食まで自由にしていて良いからね」
って、やんわり? と拒否られちゃった。
水の継ぎ足しは兎も角、『焼け石』を扱うのは、この小さな体では無理だよね。
「ありがとう。シスター・レミア。モンク・サジェスとビリージェルにお礼と「汚してごめんなさい」って伝えてくれると嬉しいな」
「そだよ~。ありがとう。それと~、ごめん、なさい」
リトに合わせてお礼を伝えて、一緒に脱いだ服をアリアの元へ運ぶのだけど…
今更だけど、脱いだ服は結構臭うわ。
確かに、みんな逃げたくなる訳よね。なんか納得。
アリアの元へ向かう途中、畑の方を眺めると、シスター・テレサとナーガが、『畑起こし』を競ってたのは以外な光景ね。
シスター・テレサって意外と競争に拘る性格だったかしら?
それとも、ナーガが気持ちよく耕せる様に、上手くあしらってるのかしらね?
どちらかは分からないけど、2人とも凄いわ。
道具の使いか上手というか、早送りな動画を見てるみたいに、みるみるうちに耕されてるの。
それに比べて、ハンスとガッセルは疲れたのか、小石をホウキで掃き出す作業に代わっているわ。
何というか、散らかした後始末をしているみたいに思うのはわたしだけかな~?
「ねぇ、リトはどう思うの?ハン・セルの姿って?」
「いきなりの質問、どうかと思うけど…ああ、あれか。ハン・セルが小石を払っている理由が何か? と思った訳だ。
どうもなにも、あれ程に鍬を振りかざしている近くには寄りたくないよな。
そうだとしたら、小石払いに作業を切り替えるのは当然だと思うな」
なるほどね~。男の子だったら、もっと競争心あった方が良いと思ったんだけど、作業分担という事なのね。
たしかに、熱心に作業をする姿は格好良く見えるわ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
元厨房を後にして、鼻を摘まむアリアに洗濯篭を託して、そのまま図書館へ向かう事にしたの。
みんなが鋳やがる大変な掃除だったのかな。 そのご褒美みたいな感じで、夕食まで自由な時間が出来たの。
でも、行く所も、する事も、何も無いのよね。
それで、リトはみんなの邪魔にならない様に、って図書館に引きこもる事を提案したって訳。
図書館は、北西角な立地で、日当たりが良くないから、底冷えが辛いのよね。
幸い、今日は日和が良いので、隙間から吹き込む風が温かいから助かるわ。
3階は、多分この国の会計書類なのかな。『板挟み』で紐綴じされているから、ワザワザ解いてまで見よとは思わない。
そうそう、『板挟み』というのはね、表と裏を板で挟んで紐で縛っただけの簡易な物なの。
保管を目的としているみたいだから、手に取るつもりは無いわ。
1・2階に有るのは雑多にしまい込まれた本達。ここの蔵書は全て姫様の物だから驚きだわ。
図書記号ラベルを付けて。とまでは言わないけど、それでも分類分けして欲しいわね。読みたい本を探すのが大変なのよ。
こんな不満を口にしても、誰も読もうと思わないみたいだから、物置みたいになってるの。
施錠されてる(わたし達は苦労の末、スペアキーをお借りできたの)から、物置同様でも変ではないわ。
「今日は、どんな本を探そうか?」
入館早々にリトに聞いてみたの。
「そうだね、童話やおとぎ話は飽きたから、実用書が読みたいな。魔法の書とか有ったら嬉しいけど」
魔法の書か。
そうだよね、ナーガが寝付いた頃に一緒に、火の魔法だけど練習していて、最近やっと、自分に合った魔法に成ってきたんだもの。
違う魔法。
風とか、水とか、土とか、他に何か無いか知りたくなるよね。
風は竈の火加減で使っているから、その内、教えて貰えるかもしれないけど、水と土は別なのが分からないわ。
だれも使った姿を見た事無いの。
わたし達が気付いてないだけかもしれないけど、それでも殆ど見かけないのは不思議なのよね~。
だから、「使える様になったら凄いと思わないか!」ってリトがずっと言ってたな~。
「わかったよ。魔法の書か、それに近いのを探そうね」
「だけど、以外だわ」
「なんでだよ」
「厨二病なリトなら『魔法の書』じゃなくって『魔道書』って言うかと思ったからね」
「言う訳無いだろ。ここの蔵書は姫様の物なんだから。『魔道書』なんて禍々(まがまが)しい書物なんて有る訳無いと思ってるさ。仮に有っても『料理本』みたいに軽いのじゃないか? だから『魔法の書』で良いんだよ」
「…そ、それもそうね。それじゃ、『お宝探し』しましょうか。競争する?」
「別に。急ぐ必要は無いから、競うつもりは無いよ。私としては、ゆっくり休みながらで良いと思ってるさ」
「そうね。ゆっくりね。分かったわ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
夕食までの空いた時間で、2冊程『それらしい本』が見つかったのは上出来だわ。
後は、何時も通りに過ごすのだけど。
お日様の光を溜め込んだ布団は(たとえ藁布団でも)気持ちが良いわね~。
あまりの気持ちよさに、3人一緒に早く寝入ってしまったわ。
おかげで、翌朝は気持ちよく起きられたの。
最高にステキだわ。
何か良い事有りそうな予感がするわ。
それはそうと、昨日と違って今朝はとても冷えるのね。
薄ら白くなった霜凪の庭で、あの窪地からはモヤというか湯気だっていたの。
腐葉土って、昨日のの今日程の早さでの発酵するものなのかしら?
それよりも『畑起こし』を急いた修道女の英断は見事な事だったと、感心するばかりだわ。




