119 アリアとクレハのケープ
コンコンコン。
「熱いの、持ってきたわよ。中にいれて」
「は~い。いま、あけま~す」
呼びかけに応えてクレハが扉を開けると、予想通り、アリアが扉の向こう側て待っていた。
何時もなら「クレハありがとう」とか言いながら頭を撫でてくれたりと親しくしてくれるのに、今日はちょっと違った。
「クレハ、ありがとう。今は熱いのがあって危ないから離れていてね」
「・・・はーい。わかったー」
状況が解らず、怪訝に離れると、アリアの後からサジェスが現れた。
「みなさん。私から離れて下さい。怪我をしてしまいます」
サジェスの手には鉄鍋が握られ、中には炭が赤々(あかあか)としてパチパチと弾けんばかりに耐えぎっていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ナーガ達は初めてだよね。代わりにしてあげるから、次の時は自分たちでやってね。はい、モンク・サジェス。準備できたわよ」
アリアは暖房代わりの壺の布蓋を開くと、何かを避ける様な格好をして『準備』をしていた。
「それでは、壺に入れますよ。1・2・3,はい!」
サジェスは、鍋から熱く熱しされた石を、分厚いトングの様な挟む道具で壺に落とすと、ジューッと、水が沸騰の勢いで弾け散った。
アリアは、熱湯の雫を布蓋で受けながら、蓋を被せた。
「アリア。今日は仕事ではありませんので『モンク』は不要ですよ」
「あら、そうだったわね。サジェスって、丁寧に話すから、いつも仕事してるみたいでうっかりしちゃうのよ。仕事じゃないならビリーみたいに軽くてい良いのよ」
「ビリージェルは砕けすぎではありませんか。私には無理ですよ」
「まぁそうね。ちょっとイメージじゃないわね。それから、私はこの部屋に残ろうと思うけど、後はお任せして大丈夫かしら?」
「ええ、もう終わりましたし、大丈夫ですよ」
「ありがとう。それじゃ悪いけど、後始末よろしくね」
「ええ、問題ありません」
そう挨拶をしてサジェスは去っていった。
中休み頃になったら、壺が冷えてきたので、この後どうするのかと考えていたけど、成る程、熱した石で暖を足したのか。石鍋みたいな感じなんだろうな。
換気の悪い部屋に炭を灯したら、火事とかガス中毒とか危険だもんな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「急でごめんね。わたしも仲間に入れてくれるかな?」
「仲間に入れてって? 何か有ったのかいアリア?」
焼け石でお湯が爆ぜて驚いていたナーガが応えた。
「あのね、マリーとアルの姉弟が…」
「まさか、さっきの、石足しで怪我をしちゃったのかい!」
余程驚いたのだろう。ナーガが『最悪』を想像してしまい、声荒く問い掛けた。
「ありがとう。ナーガ。姉弟の事心配してくれて。でも、そこは大丈夫よ」
ナーガが安堵の溜め息を漏らした。
「それじゃ、マリアベルとアルキメドはどうしちゃったの? アリアに意地悪しちゃったの?」
「意地悪ねぇ。そうね、そうだったら、リトならどうするの?」
「僕なら…」
私だったらどうするのだろうか? それよりも意地悪の中身が分からなければ答えようが無かった。
「大丈夫よ。そんな落ち込んだ顔をしないで。マリーはしっかりしてるから問題は無いわよ。でもね、2人共「『お手伝い』先の工房の方が窯をつかっているので温かいから、そっちに行く!」って出て行っちゃの。心配しなくて大丈夫なんだけど、わたしが部屋に独りになっちゃったの」
「もしかして『石足し』して貰えなかったの?」
「ううん『石足し』するにも炭が必要でしょ。大切に残さないと駄目だから、他のお部屋にお世話になるよって断ったのよ」
「それで、僕達の所に来たんだ」
「そうよ。『石足し』もそうだけど、壺の使い方は知らないでしょ。片付けとか教えなくちゃいけないもんね。その為に来たのよ。迷惑だったかな?」
「そんなこと、ないよ。アリア~」
クレハが手招きに合わせて『しゃがんで』というジェスチャーをしたので、アリアは招かれるまま膝立ちになった。
丁度良い背丈になった辺りで、クレハはアリアの首にしがみついた。
「ありがとー。アリア。来てくれてうれしい! おはなし、できるの、いなかったから、うれしい」
「喜んでもらえて嬉しいわ。でも変な事を言うのね。お話しなんて、何時も仲良くしてるじゃない…の?」
そう言いながら部屋を見渡していた。
私は繕い物だし、ナーガはマフラーの巻き方を考えているし、仕方なくクレハは本を読むしか無かった訳で、そこに面倒を見てくれるアリアが部屋に遊びに来てくれたのだ。
「なるほどね。駄目じゃない。2人共クレハをほったらかして。特にリトは何時も一緒にいるんだから」
「い、いや、そんなつもりじゃ…」
「アリア、ちがうの。リトもナーガも悪くないの。でもね、アリアが来てくれてよかったの~。だって、ちょうどよいって、おもったから」
「丁度、良い? なんの事かしら?」
クレハが空きロッカーから勝手に持ち出してきた。慌てて立ち上がり制止しようとしたけど、間に合わなかった。
「おい、待って。それは試作品だから勝手に持ち出すなよ」
「だいじょ~ぶ。だいじょうぶだから。さっき、はかったら、合ってるみたいだから、だいじょうぶ」
「それよりも、まだ心の準備が…」
そんなやり取りをしている内に、クレハが勝手に持ち出したモノをアリアの肩に、少々力任せに掛けて、先端を器用に蝶々結びした。
「リト。ほら、ぴったりでしょ」
アリアが羽織ったのは防寒用にと繕ったケープ。腕周りが楽になる様にと、セーラーカラー風にして、先端の尖った所には結び用にマフラーを縫い合わせていた。
「これ、リトが作ったの? 器用なのね」
「そうだよ~。リトはね、こういうの、じょうずなんだよ。それでね、これがあたしのなんだよ~」
今繕っているモノを取り上げて、クレハが自慢げに羽織った。
クレハのはケープというよりは付け襟で、背面こそセーラーカラー風だけど、前面は裾を四角く末広にしたデザインだ。
首回りの防寒を意識はしつつも、体が幼い為にどうしても汚してしまうから、エプロン風のよだれかけをイメージしてみたのだ。
これなら、食事中に防寒で着ぶくれても、服を汚さなくて済めばいいな。と思いながら繕っていた最中だった。
「この、ケープ。わたしが貰ってのいいの?」
アリアが頬を赤らめながら照れくさそうに問い掛けた。
「うん。気に入って貰えると嬉しいな。首回りとか、苦しくない?大丈夫かな」
「大丈夫よ。でもなんでわたしの為につくってくれたの?」
「あう、うん。それは…」
「あのね、いつもアリアには、いつも、おせわになってるから、お礼したいし、そとのおしごと、おおいよね。さむっそうだからって、リトががんばったんだよ」
「そうなの。ありがとうね、リト」
アリアは立ち上がり、軽くステップする感じでクルリと回ると
「どうかしら、似合うかな」
嬉しそうに聞いてきた。
「あの~、首を少し傾けてみてくれるかな」
「こんな感じで良いかしら」
アリアは笑顔がより良く見えるであろう角度で私を見つめてきた。
中世な世界でも、やっぱり女の子は自分が綺麗に見える角度とか、意識しているんだなぁ。
そう思いながら
「うん、苦しそうじゃ無くて良かったよ」
私が嬉しく答えると、アリアの笑顔に『力』が入った気がした。
そして、
私の視線まで腰を下ろすと、ピン! っと、私の鼻先を指で弾いた。
「痛い!」
と漏らした矢先に、クレハが踵で冷えて痛くなっている足先を踏みつけ始めた。
「痛い痛い痛い!いきなり何するんだよ」
「ごめんね~。うっかりのっかっちゃった。あんまり、にぶいから、そんなにいたがるって思わなかったの~。ごめんねぇ」
アリアの手前、余所行き口調だったが、口をとんがらせてブーブーと言いたそうな表情に、少々イラッとして、ぷにほっぺを両手で挟んで、言い返した。
「誰が鈍いって?」
「こ・こ・に・い・る・よ!」
とんがった口のまま言い返されながら、踵を叩き付けられてしまった。
「ほらほら、兄妹なかよくしなくちゃ駄目よ」
アリアがひょいっとクレハを抱っこして引き離した。
「は~い、アリア。なかよくする~」




