118 深雪の過ごし方
年始めの祭りも終わり、完全に冬ごもりの時期となって暫く経ち、これからは春への準備をする日々を過ごす事となる。
なにせ、越冬の為に各家庭は引きこもり、共同釜か薪割り位しか『お手伝い』の依頼は無いし、街に出ても店が開いている訳でも無いから、特に何もする事が無いのだ。
人と会うのは、定刻で国を廻るメイドと守護の兵士、そして、煤まみれの子供にすれ違う程度というのが現状だ。
時々、魔法のコソ練で出かける事は有るけれども、そうそう毎日って訳にはいかないから、必然的に修道院でも、引きこもって越冬する事になる。
そんな引きこもり生活では、女の子達は孤児院共同の衣類のほころびを直したり、食器を磨いたり、何時もより丁寧に礼拝堂の掃除をしていた。
そして、男の子達は畑の道具を直す。
鍬の継ぎ手や鍬先の鉄製具の緩みを見直したり、柄を磨いたり。ナタの握り手の縄張りを結び直しをしていた。
そういう感じで道具の手入れをして過ごしているのだが、流石に刃物研ぎを任された時は驚いた。子供には危険だろうって思った。
それに、こういうのは専門の研ぎ師に任せるないと、逆に刃を駄目にしてしまうかも知れないと考えていたからだ。
ただし、もしかしたら、任される程仕事が無いから、研ぎ師の仕事もお休みなのかも知れないな。
当然だか、必然だか、分からないが、鍬やナタ等の屋外用はモンクとハン・セル達が中心になって行い、厨房のナイフはシスターとアリアが受け持っていた。
余談だが、『包丁』ではなく『ナイフ』や単に刃物と呼ぶのは、『包丁』が伝承に登場する人の名前なので、私的に呼びたく無いだけだ。。
異世界とはいえ中世の欧米風なのだから、そういうイメージを抱いていたいという、つまらない拘りだ。
まぁ、言い慣れた名称だし、ナーガは『包丁』と言葉にするので、きっと口に出す事があるだろうけど。
そんな感じで道具を直して過ごしていて、ナーガが『神様の祝福』として授かった『道具チート」な能力が開花した。
正確には、今まで、只何となく何でも器用に出来るのもだと思っていたナーガの道具捌きが、より一層発揮されたのだ。
今まで気が付かなかったが、『どんな道具でも使いこなす能力』は、『道具』と『使う目的』がハッキリとしないと発揮しない。
鍬とか槌とか、道具を直す時に初めて気が付いた。
道具を直すのには、それ相当に技術が必要だからだ。
それなのにナーガはいとも容易く行ってしまう。
刃物を研ぐのがそうだ。
テレサから頂いた挟みを研いでみたけど、私ではまぁ、そこそこでしか無かったが、ナーガが研ぐと切れ味が変わった。
チートな能力が羨ましいのは本音だが、嫉妬よりも刃物を扱う時に怪我をしてしまわないだろうか。と願う気持ちの方が強かった。
この新しい子供の体には、前の世界で切りつけてしまった怪我の跡なんて無いけども、ついつい、跡があった所を見つめてしまう。
親心なんて分からないが、痛い思いをさせたくないと心の奥で祈ってしまう。
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今日はヤケに冷え込むな~って思いながら朝食の後片付けをしていたら、粉雪が舞い降りてきた。
髪が白く化粧される頃には雫となり頬を湿らし始めた。
雪華と呼ぶのだろうか。
片付けが済む頃を見計らってか、粉雪はいつの間にか結晶が分かる位に大きく育っていた。
「あらまぁ。寒いと思ったら結構積もり始めたわね。この天候じゃ何も出来ないわ」
シスター・レミアが、雪を払いながら空を見上げて呟いた。
そして、パンパンと柏手を鳴らしてみんなに告げた。
「みんな~。今日のお仕事はお休みよ。何時もより寒いからお部屋に居なさいね。後で『湯たんぽ』を届けるから、ちゃんと待ってるのよ」
「は~い」
声を合わせたかの様に返事をして、みんな早々に部屋へと戻って行った。
暫くして、モンクのビリージェルとサジェス、そしてシスター・テレサが大きな『湯たんぽ』を持ってきてくれた。
『湯たんぽ』というから金属製の小判形を想像していた。
しかし届いたのは、取っ手があり、やや下の穴に栓がされた大きめの壺だった。
注ぎ口は小さく盛り上がっていて、布が被せ縛り付けられていた。布越しに蒸気が上がり部屋のやんわりと暖め始めた。
「お湯が熱いから、気をつけろよ。なんかあったら厨房に来い。だれか居るから手当してくれるさ」
ビリージェルが言い放った。
「そうですよ。温かいからと油断して、近づいてはいけません。火傷になってしまいます。だから何かしてしまったら、遠慮無く厨房へいらっしゃい」
サジェスが丁寧に言い換えてくれた。
「さぁ、他の部屋にも配りますよ。ビリージェルとサジェス。力仕事で大変だけど、子供達の為にもう少し力を貸して下さいね」
「気にすんな、テレサ」
「そうですよ。これも大切な事なのです。さぁテレサ。次の部屋へ案内してください」
「ありがとう。2人共。それでは次の部屋へ配達しましょう」
部屋のやや中央に置かれた壺は温もりを放ち、3人並んで暖を取りながら針を進めていた。
「なぁリト。この長い袋みたいなモノを作ってどうするんだい」
ただ言われたままに端切れを適当に縫い付けてるナーガが、流石に飽きてきたのだろう。何を作っているのか聞いてきた。
「出来上がるまで、ないしょ。何が出来るか、分からない方が楽しみがあるでしょう」
「それもそうだけど、ただ真っ直ぐに縫うだけなのは飽きたよ。もう充分出来てきたと思うんだ。いいだろそろそろ教えてくれても」
「だ~め、だよ。できあがるまで、まっててね。さいごに分かった、方が、きっとたのしいよ~」
「それなら、リトは何を作っているのさ」
「これはクレハのだから、後で教えてあげるよ」
「あー、もう。ないしょ、ないしょばっかりでつまんない!」
流石に黙々とチクチクと同じ作業は飽きてきたのだろう。
気持ちは分かるけど・・・
「ナーガ。きょうは、ずっとね、おへやのなかなんだよ。なぁにができるのかな~って、まつのも、たのうしいとおもうの。それとも? 本がよみたかったの?」
「あ、いや、いいんだ。俺は本はいいよ。クレハの言う通り、なにができるのか、楽しみにしながら頑張るよ」
「そうだね~。がんばれ~。ナーガ」
する事がなくて暇そうだから、ナーガに縫う手伝いをお願いしてみた。
『真っ直ぐ縫う』という所では流石は『道具チート』な訳で、言い換えれば『人間ミシン』みたいに綺麗な縫い目になった。
「終わったけど、これでいいのかい? それでこの後どうするのさ」」
「ありがとう。早いし、丁寧にできたんだね。凄いよ! これはね、こうして裏返して、先端を結んで、できあがりだよ」
言葉の通り、渡された長筒状の布を裏返して先端を結んだ。
縫い目とかは綺麗だけど、生地が引きつってしまった所もあって、少々手間取った。
こういう、経験というか、コツみたいなのは、流石に道具が使えるだけじゃ駄目らしい。
まぁ、『拳銃』という『道具』を知っているから、構造なんて解らなくても、鍛冶屋で何となく鎚を叩いたらできじゃった。
という、ご都合過ぎな能力じゃないだけ、現実味があって面白いけどね。
「ナーガ。ちょっとしゃがんで」
「こうかい?」
「そうそう。それじゃちょっと待ててて」
先程出来上がった長筒を首に巻いてネクタイ風に整えた。
「どうかな? これなら、首元が暖かいでしょ」
「これ、マフラーだったんだ。そうなら、そうと教えてくれたら良かったのに」
「どうかな~。なにができあがるのか、まつのも、たのしかったでしょ~。ねぇ。あったかい?」
「そうだよ。クレハの言う通り、待つのも楽しかったよね。それ、ナーガのだから好きに使っていいから」
「ん~。まぁクイズみたいで、悪くは無いけど、俺としては何を作っているのか知りたかったよ。ってこれ貰えるの?」
「貰えるも何も、ナーガが作ったんだもん。ナーガのだよ」
「あれあれ、俺のを作ってたんだ。だったら先に教えて欲しかったよ。兄弟なのに意地悪だよ、リトは」
「意地悪? 僕、意地悪? そう、意地悪しちゃったんだ。ごめんんさい」
ちょっとしたサプライズを「意地悪」と言われて、怒ったりしないが、気にしていない訳では無いので、逆にからかう様に謝ってみた。
「いや、俺の方こそごめん。機嫌悪くしちゃってごめんな。悪気はないんだよ」
失言したのを改めようと必死に言い訳するナーガの反応が、ちょっと年相応というか、ちょっと可愛いと思ってしまった。
話しの流れもあって、今度は本気で意地悪をしたくなってきた。
「悪気無いって言うけど、僕の事、意地悪って言った。僕、すっごく傷ついたな~。意地悪ついでに、その結び方は教えあげないから。自分で考えてみてよ」
「え?! これ? どうやって縛るのさ」
「ナーガ、ごめんね。あたしも、どうやるのか、わからないの。でもナーガなら、だいじょうぶ。きっとできるよ。がんばれ~」
「あ、うん。がんばって、みるよ」
クレハだって知ってるだろうに、私の気持ちに合わせて、そそのかしてくれた。
マフラーの結びなんて、ちょっとしたパズルみたいなものだから、今、何も出来ない暇な時間を潰すのに充分楽しめるだろうさ。
後で、色々な結びがあるよって教えてあげよう。




