114 幸せの糧のお裾分け
流石に疲れたのか、ナーガは祭りが終わった3日には部屋に戻った早々、寝付いてしまった。
「下賜パン、どうしようか」
クレハが2人の時の口調で話しかけてきた。
「どうしよう? って言っても、食べるに決まってるだろ。早く食べないと、乾燥してボロボロになってしまうし、食事で持ち込むのもどうかと思うし」
「それもそうね。食事の時にみんなと違う食べ物があったら、雰囲気悪くなりそうだもんね」
「そうだよ。食べるなら明日の中休みが丁度良いんじゃないかな」
「ねぇリト。わたし思うんだけど、スラムの兄弟はパンを下賜されたのかな?」
「突然、何言ってんだよ。礼拝堂に来た人には渡してただろ。きっと貰ってるんじゃないか」
「それじゃ、礼拝堂に来れなかったらどうなのよ」
「来れない理由なんてあるのか? この国はみんな平等じゃないか。生活に差があると言っても差別されてないだろ」
「平等なのはその通りよ。でも、たどたどしく思わないの?」
「たどたどしいって、何が?」
「本当に鈍いわね。臭いよ、臭い。それから虫。遠慮してるんじゃないかなって思うのよ」
「あ!、彼ら兄弟の冬服は継ぎ接ぎの毛皮で、獣臭が残ったままだ」
毛皮の綺麗な部位は商品として出回るが、彼らの毛皮は余った端切れを簡単に縫い合わせただけのモノだった。
「そうよ。もしかしたら遠慮しているんじゃないかしら?」
「考え過ぎじゃ無いか? きっと貰ってるよ。姫様から国民全員への贈り物なんだから。まぁ古古麦だから余りモノな感じはあるけど」
「考え過ぎでも良いじゃ無い。贈り物として持って行ってあげようよ」
「贈るのは反対しないけど、今は食べ飽きてるから、余り物を押しつける感じで気が引けるけど」
「気持ちよ。気持ちの問題よ。新年おめでとう。で良いじゃない。なにかとお世話になっているんだし」
「世話になってたかな?」
「世話になってるわよ。あの兄弟がスラムの、草の根街の人達に紹介してくれたから、魔法のコソ練ができているんじゃないかしら!」
「ああそうか。彼ら兄弟の助けがなければ、私達は『火気危険物』扱いに成ってる所か!!」
「そうよ。だから、気持ちで良いじゃ無い。『贈る』っていう気持ちだけで充分だと思うわ」
翌朝、ナーガに彼ら兄弟へ余裕のある分の下賜パンを贈る相談をしたら、快く受け入れてくれた。
魔法のコソ練のお礼だと伝えたから、返事は早かった。
問題は数だ。
今、6つパンがある。1人に2つづつだ。
3人からの贈り物なら3つ贈るのが簡単だが、奇数だと兄弟で取り合いの喧嘩にならないだろうか? 余計な心配をしてしまう。
私とクレハの分で2つ贈るのでも良いが、ナーガは自分はお礼が出来ないじゃないかと反対した。
お礼をしたい。という優しい気持ちは大切に扱ってあげたい。
「ナーガって、優しいね。それなら、ナーガが1つ。僕とクレハは小さいから半分こでお腹いっぱいだよ。これなら4つ贈れるね。どうかな」
「あたしは、さんせー。はんぶんで、おなかいっぱい、だよ。リトがいいなら、あたしもいいよ」
クレハは、この案以外は認めない。と、やんわりではあるが念押しをした。
「わ、分かった。2人が良いなら、そうしよう。それで、何時行くんだい」
「いま~! いまいくの~!」
「え?今いくのかい」
「そうだよ。パンが固くならない内に贈ってあげようよ。修道院も今日はみんなでお休みの日だから、用はないはずだよ」
「それもそうか。そうだね、それじゃ急ごうか」
優しい性格なのか、義理とは言え弟妹に気を遣ってくれているのかは分からないけど、素直に言う事を聞いてくれて良かったと思う。
食べたい盛りのお年頃だろうから、無理強いになっていなければ良いけど。
言い出しておいて、無駄に心配してしまうのは、私の性分だ。
心配する位なら、誘わなければ良いのに。と考えてしまうが、それ以上にお礼がしたいという気持ちが強いのだ。
そう、強いのだと思おう。お礼がしたいと思わなければ、施しをしてやろう。なんて上から目線になってしまいそうだ。
「ねぇ。り~と? なにを、かんがえてるの? かお、へんだよ。ふくわらいの、れんしゅう、してるの?」
ナーガの手前、何時もの余所行き口調で、クレハが表情の変化をなじった。
「何を? そうだね、自分の腹黒さについて、かな」
「そうなんだ~。リトって、腹芸が、とくいなのね。 かくしげい、したら、たのしそうね~」
やんわりと、嫌みが帰ってきた。
なんだろう? 少し機嫌が悪い様に思えた。
「なんで、怒ってるの」
と言うや否や、耳を引っ張られた。
「イダダダダッ!」
(なんで照れてんのよ。普通にお礼の気持ちです。でいいじゃない。
恥ずかしがってるのが分かって、気持ち悪いのよ。もっと堂々としなさいよ。
私達は今子供なんだから、変な打算なんて考えなくて良いの!
素直で居られるのが子供の特権なんだから!)
クレハは耳元囁いてとがめた。
手土産で印象を良くして、恩を売ろうとか打算する性根の悪は、なかなか治らないらしい。嫌な性格だと気落ちしてしまう。
どうやって話しを切り出そうかとか相談しながらとはいえ、コソ練で通い慣れたのもあり、中休み頃に辿り着いた。意外と早く着いたのは、街が静かだったのも有るのかも知れない。
「おや、ナーガ達じゃ無いか。みんな休んでいる日なのに魔法の訓練に来たのか。熱心なのも良いが、魔法は危険なんだぞ。程々にしておけよ」
草の根街の入り口前で、大きな空の籠を抱えた兵士とすれ違った。
子供だけで花火をして遊ぶのを注意された感じは気に入らないが、それよりも、どうして草の根街から兵士が出てきたのかが気になった。
「兵士さん。兵士さんはどうして、あそこに居たの」
と指差して問い掛けた。
「なんだ、そんな事か。ビリーに頼まれてな、パンを配ってきた所さ。リトは何しに来たんだい。魔法の練習ならアッチの広い所だろ」
「ビリー? ああ、モンク・ビリージェルのお使いなんだね。僕達は友達に挨拶に来たんだよ」
「そうか、友達か。そうなのか。まぁ子供同士、仲良くするのは大切だよな。そうだな、街が街だから油断はするなよ。持ち物はしっかり抱えてろよ」
兵士は、歯の奥に詰まった物言いをしたが、それもそのはず。
以前にナーガがスリ取られた事を思い起こせば、ここは悪く言えば盗人の巣だ。実感しているので、ここに来る時は最小限の荷物しか持ち歩かない様にしていた。
しかし今日は別だ。
兵士はパンを入れた大きめの包みを見て、気に掛けてくれたのだろう。
「ありがとう。気をつけるよ」
「ありがと~。ばいば~い」
「それじゃ、今日はナーガがやってみようか」
火の玉を放り投げて、空でパンと散らす合図。僕達が魔法のコソ練習に来たよって合図だ。
以前に、驚かしてしまって、そうとう怒られた事があったので、合図をする約束を交わしたのだ。
ここで魔法の練習をする迷惑さは、
例えるならば、
『駅のホームで傘を振ってゴルフのパターの練習をする』
位に、迷惑な行為だと言う事だ。
何時もは私の役目だったけど、新年の区切りもあるし、折角だからとナーガにやらせたら、大きな火の玉を打ち上げてしまった。
そうとう驚いたのだろう。慌てて駆け寄ってくる人影が2人。
失敗・・・だったな。
これから、こっぴどく怒られるんだろうな。と後悔した。




