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悪魔契約に縛られた異世界生活 第2幕(異世界生活編)  作者: 雨宮 白虎
第2章 トキザミの国(入国編)
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041 案内されて

 守衛所の裏口とでも言うのだろう。

 扉をくぐり抜けて兵士詰所へ案内された。木造2階建てで中央に入り口があり窓が5つ見えた。少なくとも部屋は1階に2室、2階に3室は有るのだろう。奥行きを想像したらもっと広いのかもしれない。

 その詰め所入り口にはメイドさんが庭掃除しており、下宿の管理人の様に思えた。

 リアルメイドさんに迂闊にも「キターーー!!」と舞い上がってしまったが、メイドさんの視線で我に返った。とても木っ端恥ずかしい。

 メイドさんはアインから調書を受け取り一読すると、承りましたと言う風に挨拶を返して、そして私達に手を伸ばした。

「ヴェヌ(さぁ)、クゥネ(一緒に)、ニイリル(行きましょう)」

 分かりやすい話し方をしてくれるので、なんて言っているのか不思議にも解った。

 さて、これから何処か案内してくれるのだろうか。私達は後についていく。



 メイドさんと一緒に歩くのは、なんというか、結構ドキドキするものだな。という感激が心から湧き上がる。

 鼓動が高まるのもそのはず。凜とした歩みは百合の花という言葉がとても良く似合う。頭の上に本を乗せて歩く練習という話しを聞いた事はあるが、彼女の歩みはグラスを乗せても溢れる事は無いだろう。

 心奪われない方がおかしいと思えてくる。

 それに比べて私の歩き方ははぎこちない。傷の痛みとはいえヨロヨロなのだから客観的にイメージすると、凄く情けない絵面になる。

 怪我のせいじゃないな。緊張と浮かれた心が混在しているが原因だろう。という事は分かっている。

 年は多分14歳前後だろうか。若くして気品ある振る舞いをする少女の横で歩くのだ。色々な意味で恥ずかしく、色々な意味でドキドキしてしまう。

 なお、後で知るのだけれども、この世界の人族は15歳が成人だそうだ。

 成人として当然の振る舞いとも取れなくないけれども、つい前の世界を基準に考えてしまう。


 クレハの歩みは牛歩と喩えられてもおかしくない位に遅い。当然だ。そもそもコンパスが違うのだ。歩幅に差があるのは至極当然なのだ。

 そしてメイドさんは振り向きもせず歩調を合わせている。どれ程訓練すればこんな芸当が出来るのだろうか? そう考えずにはいられなかった。


 暫くすると、途中で追い越そうとしている荷馬車の人が親切にも声をかけてくれた。荷台の空きスペースで良ければ乗せてくれると言う。

 私達、特にクレハを気にかけていたメイドさんは

「ダンコン」<訳:ありがとう>

 とお礼を言い乗せてもらうことになった。私達も軽くお辞儀をしながら言葉を真似てお礼を伝える。

「ダンケ・・・ン?」

「だんこん」

 ドイツ語では無かったみたいだ。しかし失礼とは分かっているが違和感というかなんというか、『弾痕』連想をしてしまうと痛いので、慌てて脳内で『大根』をイメージした。

「ネ、ダンキンデ」<訳:どういたしまして>

 荷馬車の馭者(ぎょしゃ)が愛想良く返事をしてくれた。


 まだまだ距離があるのだろう。

 さすがに荷馬車の乗り心地は悪い。木箱に座っているメイドさんがクレハを手招きして膝に乗せてくれている。

 私はというと荷馬車の縁に手を掛け街並みを眺める。電車で外を眺める子供の様に。

 眺めていると幾つか気になる事ができた。住居はレンガに木造、それに藁葺きといった材質が多くみられた。西欧風建築の中に藁葺き屋根があるのは色々と気になったので、機会があったら調べてみるのも良いだろうか?



 暫くして、目的地が異なる分かれ道で荷馬車と別れを告げた。

「ダンコン。ジス、レヴィート」<訳:ありがとう。さようなら>

 メイドさんがお礼の挨拶をして、私達も真似て伝える。

「ダンコン」

「だんこん」

「ネ、ダンキンデ。ファルトゥ、ボーネ」<訳:お元気で>

 馭者(ぎょしゃ)は手を振って見送ってくれた。早口だったのでなんと言っていたたのか判らないのがもどかしい。


 そしてまた、歩く事になる。


※注:ダンコン(ありがとう)の綴りはDankon



 さて、案内された所は普通の洋風なレンガ造りの一軒家。

 庭がとても広くて、土地の周りには背は低いけど垣根とも思える樹で仕切られており、建物は母屋と離れが廊下で繋がっている造り。広い庭を活かして、多分ハーブだろう。他には果樹が植えられている。

 敷地に入るとハーブ園から、メイド姿らしい黒い衣装の少女が顔を出した。

 メイドさんが

「姫様。姫様。お客様をご案内致しました」

 と言ったのだろうと思う。

 姫様と呼ばれた少女は私の方を向いて、あらあら、といった仕草をした後に母屋へ小走り去っていった。

 母屋には干した果実とドライフラワー、いや、花は無いからハーブを乾燥しているのだろう。凄く生活感があった。

 装飾代わりに掘った模様があるレンガ造りの離れの方が立派に思えてしまう。


 メイドさんが離れの広い玄関ホールに案内して椅子を用意してくれた。

「ボンボゥル(どうぞ)、アテンディティエ(こちらでお待ちください)」

 判りやすく発声してくれるので凄くありがたい。

 椅子に座る私達と、横で芍薬の如く凛とした立ち姿のメイドさん。

 静まりかえった空間は少々苦しいので、声を掛けようと思うものの、言葉が分からないので仕方なくじっと待つ。


 どの位待っただろうか。沈黙が苦しくて長く感じたのかもしれないし、本当は短かったのかもしれない。

 そんな居心地の悪さも チリーンと鈴の音が響いて解放された気分になった。メイドさんが部屋への扉を開いて案内してくれたのだ。

 部屋に一歩入って見渡すと、本来は謁見の間と云うのだろうが、12畳程の応接室と呼ぶ方がしっくりする部屋模様だった。部屋の奥には扉が有る。きっと母屋へ通じているのだろう。

 中央に有るテーブルの奥には、先程ハーブ園にいた少女が座っていた。 

 もう一歩踏み込むと戸が閉められ、それを確認すると少女が椅子の横に立ち可愛らしく丁寧に挨拶をする。 立ち上がってくれたので大体の姿が目視できた。座ったままだとテーブルが邪魔でバストアップしか分からないから。


 年齢10歳程だろうか。腰上まである軽くウェーブ掛かったプラチナブロンドの髪。

 透き通るような白い肌に、瞳は元々細いのか、つむっている感じ。

 ティアラの代わりに薔薇を形った虹色に輝くシルクに、オーガンジーで薔薇の縁をリボン風に飾られた髪飾り。

 先程の黒い服は菜園作業で汚れるのを承知でメイド服を召していたのだろう。今は純白のドレスをまとっている。

 立て襟で、肩は少々ふんわりとボリュームがあった。まるで鹿鳴館をイメージできそうなワンピース。

 肩にはショールというのだろうか、レースが編み込まれたスカーフをセーラーカラーのようにしては羽織っている。

 スカーフの結び先には銀の円盤の様な物があった。装飾品としてはバランスが悪いと思いつつ見ていたら、円盤を釣る輪っかの中にネジ巻きの様な装飾があった。何となく懐中時計のようにも思える。

 ワンピースをアンダーとして、その上に2層の前開きのスカート。中間層の裾には刺繍があり、表層は厚めのオーガンジーで柔らかさを演出している。スカート全体がやんわりと膨らんでいるのは、ペチコートを履いているのだろう。

 っと、そうだとすると4層スカートになるのかな。裾野は足首が見えるほど。

 靴、というよりはブーツと言ったほうだ良いのだろうか。甘ロリを思わせる白さに虹色に光り輝く物が散りばめられた。



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