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悪魔契約に縛られた異世界生活 第2幕(異世界生活編)  作者: 雨宮 白虎
第2章 トキザミの国(入国編)
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040 終わり?とこれからと

 ==========


 言葉は何一つ分からなかった。城門を守る兵士に身振り手振りで説明を試みたが、全然、意思疎通が出来なかったのだ。

 何も無い草原から子供だけが現れたら、間違いなく怪しまれる。というメフィストの言葉を思い出した。

 拘束されて異端審問という取り調べ。これは魔女裁判に近いとすると過酷な終わりを容易に想像できた。

 仮に命が助かっても奴隷送りになるかも知れない。

 そんなバッドエンドなんてご免だ!

 兵士が守衛室から出てくる前に逃げなくては!

 と、急いでクレハの手を引き元の物陰に隠れた。障害物が無い開けた所だからそのまま逃げても直ぐに見つかってしまう。それならば守衛室の裏の雑木林に身を潜めるのが良いだろう。灯台下暗しだ。


 日が落ちて暗くなった。月明かりのおかげで、かろうじて獣道は分かった。

 今なら歩き出しても大丈夫だろうと歩き出すが、直ぐに疲れが押し寄せ、更に気力が限界となり強い眠気に襲われる。

 幸いにも巨木の(うろ)が見つかったので、そこで仮眠を取る事にしたのだった。


 ==========



 ・・・という記憶が蘇り、ここで終わった。獣に襲われたのだろうか?

 痛みの記憶が無いと言う事は、ひと思いに事切れたのだろう。


「リト。おもいだせた、の?」

「・・・ああ、思い出した。ここは『1回目』だ! クレハは覚えていたのか?」

「わたしも、いま。リトがてをひこうと、したときに、おもいだしたの」

 恐怖に駆られたとはいえ、何で逃げるなんて選択をしてしまったのだろうか。どの様な形にしろ、この国で暮らすしか方法がないというのに。

 ちょっと・・・どころじゃない。そうとうなチキン頭じゃないか。何をパニックになってんだと、自分が情けない。

「『2回目』は思い出せてるかな?」

「ううん、わからないの」

 思い出せなくて良いのか? 悪いのか? 運命とは微妙なモノだな・・・


 アインは扉から現れると、雑嚢(ざつのう)と大きい壺、それと一束の縄を携えていた。

 縄からはあまり良くないイメージが浮かぶ。拘束されるのかと思うと脚が震えてきた。

「リト、こわいの?」

「こ、怖くないさ。ただ、バンディタ(けが)が今になって響くだけさ」

 本当は怖いが、恥ずかしさにやせ我慢をしてしまう。

「ネ、モヴィーグ」<訳:動かないで>

 アインはそう言って、私達の服から泥汚れを払い落としはじめた。舞い上がった土埃にむせてゲホゲホと咳こんでしまう。

「クン、イオン、ダ、パソエンソ(ガマン)」<訳:少し我慢して>

 一通り払い終わると、アインは雑嚢から布と小瓶を取り出した。

 布は茶けてキレイではないものの、洗濯して天日干して間もないのだろう。パリっとした清潔感が感じられた。あと小瓶といってもガラスではなく陶器製だ。当然中身は分からない。

 アインは大きな壺の水を布に湿らせて、私達の傷を清拭して綺麗にしてくれた。

「あっい! つ!」

 痛めた手首を撫でられた時に思わず叫んでしまった。ズキズキと痛くないども、触られると流石に響く。

 アインは険しい表情で私の腕を摩るというか触診して、表情が緩んだ。

 それから、器用に短剣で布を切り分けると、その1枚に小瓶の、苦そうな臭いが漂いそうな茶緑の液体を湿らせてから腕に当てて、残りの布を包帯代わりに巻き付けた。

 縄と板木を片付けている所をみると、骨折を心配してくれただろう。不要になって良かったと安心した。そんな気がする。

「アリァジ。キュー、エクジソタス、ドロォロ(いたい)?」<訳:他に。痛い所は?>

 痛い? そう聞かれた気がしたので、もう大丈夫と首を振った。

「ダンケ」

 心配して治療をしてくれたのだ。ここはお礼を言わなくては。と思いついたのがドイツ語だった。ちょっとまてって焦ってが、

「アイ、エスティス、ボーナ」<訳:安心した>

 アインは笑顔で返事をしてくれた。どうやら通じたらしい。

 異世界語を聞いて咄嗟に「アイキャントイングリッシュ」って間違った英語を言って逃げだそうとして気分だったのだと反省した。

 ゆっくりとなら、少ない言葉でも会話が出来る。

 ちょっとではあるが、会話が出来る事がこんなに素晴らしい事とは思わなかった。

 魔物に転生してしまった物語の主人公を思い出した。みんな苦労したんだなぁとしみじみと実感する。

「マルヴァーメティグ、エクステリェ。セェヴ・ミン(ついてきなさい)」<訳:外は冷えるから付いて来なさい>

 そう言いながら手招きで守衛室へ案内してくれた。



 守衛室の中には扉が4つあった。1つは入ってきた扉。1つはのぞき穴があるから勾留の部屋だろうか? 1つは中から折りたたみの机と椅子をもってきたので物入れだと分かる。しかし残り1つは・・・分からない。

 そして今、事情徴収・・・と、そこまで仰々しいくはないか。とにかく、私達は身上について問い掛けられている。


 初めの内は受け答えが出来なかったが、話し合っているとだんだん言葉を思い出してくる。不思議な感じだ。聞く度に「この単語知ってる」という感じに記憶が蘇る。そして、知っている単語を並べながら片言に会話ができるようになったみたいだ。どこで言葉を知ったのだろうか?

 そういえばメフィストから『おとぎ話』を聞かされた時は、聞き覚えの無い言葉だったが、それと同時に日本語訳も頭の中で聞こえていた。そう、左右の耳で別々に2カ国語放送を聞いているのに近かったのだ。きっとこれが会話できる切っ掛けとしての『チュートリアル』だったのだろう。今になって実感できた。

 状況は兎も角、コミュニケーションが取れるというのは、本当に素晴らしい。


 そして片言な会話ではあったが、私達の身上は『メフィストからの教えられた状況』を伝えた。

 するとアインは涙ぐんでしまった。親達との離別は、どうやらお涙ちょうだいな話だった様だ。少々罪悪感が(よぎ)った。


 目を赤く腫らしながらアインは筆を執り調書を識るし始める。

 羽根ペンに茶色くザラついた用紙がそこにあった。羽根は鶏だろうか? そして用紙は茶色くてザラザラして、インクが滲む。何というか子供の頃に使っていた藁半紙を連想させた。そういえば藁半紙ってまだ使われているのだろうか?

 さて、アインが記した調書にはメフィストが事前に準備した経緯の他に、

 『野獣から襲われ惨たらしい残状を目の当たりにしたショックから、話す事ができなくなった。』

 と、付け加えられた。心的外傷(トラウマ)から失声症(しっせいしょう)になったのだと勘違いしてくれたようだ。言葉が不自由な今の状況では嬉しい誤算だった。

 私はこの調書の内容を『メフィスト設定』と(たと)える事にする。



 調書が書き終わると、残り1つの分からない扉を開けて、中へ案内してくれた。

 扉の向こう側には街並みがあった。そう城内へ無事に入れる事ができたのだ。勾留されなくって良かったと安堵した途端に

「ヴっ! くさ・・い・・・」

 咄嗟に鼻を摘まんでしまった。

 なんだこの臭いは! と思いながら、悔しくも懐かしさを感じる。そうだ、これは家畜小屋や肥だめの臭いなのだ。街並みだというのに日本の里山というか田園風景が懐古的に脳裏に浮かんだ。




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