071 情けは人の為ならず?
今の私達に合う『お手伝い』をシスター・レミアに選んで貰う様にお願いしている。
出来る事なら一度は慣れている誰かと一緒に連れて行って欲しいと思っていて、受付から終了まで一通りを見て学びたいと考えていた。
しかし、アリアと一緒はサプライズ的に避けたいし、ハン・セルとは嫉妬な感情もあるだろうから少しの間は距離を取りたいので無理だと思う。残りは・・・さえずり3人組だか、彼女達は仲間内で世界が出来上がっているのか、他の人と会話しているのは見かけない。それでも仕事はしっかり熟すので、後ろ姿を必死に追いかけるイメージが思い浮かぶ、きっとついて行くのがやっとだろう。
消去法と今までの生活を思い起こせば、私達3人で行動するしのが自然なのかもしれない。
そんな予想があるので、始めてでも大丈夫な『お手伝い』を選んで貰う事にした。経験から、迷ったら下手に条件を付けないで全てお任せが一番良いだろうと思っているからだ。
もちろん不安はあるけど、流石に最初から難しい内容は選ばないだろうという期待はしている。
そういう訳で、最初の『お手伝い』は草むしり。初夏の様な陽気的なので雑草が目立ち始めている頃だ。
行き先は老夫婦が暮す家。詳しい事は依頼主に従えば良いという。
いろいろな仕事を頼んでいる大得意様なので、こちらの事情も理解してくれている家だ。多少の失敗は大丈夫だろう。というのが紹介の理由でもある。
さて、草むしりは地味に体力が必要なので、クレハは留守番として修道院の作業を任し、私とノブナガの2人で出かける事にした。
嬉しくも恥ずかしくも、シスターや孤児のみんなが送り出してくれた。はじめてのお使いのテレビ番組みたいでやっぱり照れくさい。
「ノブナガと僕は、外で頑張ってくるから、クレハはここで待っててね」
と言うや
「やだっ!」
即答だった。
「やだやだやだ。クレハはリトと一緒にいるの。一緒じゃなきゃ駄目なの!」
普段は(見かけでは)おとなしいのに、今日はやけに必死だ。
残された家族と離れたくは無いのだろうと、その時はみんな考えていた。私も同じ考えだったから。
いつまでも一緒にいられるか分からないし、ここでの生活もそう遠くない内に別々で暮す時が来る。
それならば私とクレハも距離を取るのにいいタイミングだと考えていた。
「大丈夫だよ。直ぐに帰ってくるから、いつもみたいにおとなしく待っててよ」
とクレハに伝える。シスター・レミアも座ってクレハを抱きかかえて話してくれた。
「だいじょうぶよ。心配しないで。今日はお姉ちゃん達と一緒に過ごそうか」
「ちがうのちがうのちがうの。クレハはリトと一緒じゃなきゃ駄目なの」
クレハの必死さは伝わるけど、いつまでもわがままは良くないと思っていた。
「シスター・レミア。迷惑かけてごめんなさい。クレハをお願いします」
そう言ってから「さぁ行こう」とノブナガの手を引いて出かける。
クレハが呼ぶ声に罪悪感を感じながらも、お手伝い先へ向かう。
門に差し掛かった辺りで、静かになったからもう諦めただろうと思った矢先に、少女達の悲鳴が聞こえた。
あまりにも尋常じゃない悲鳴の元へ慌てて駆けつける。少し遅れてノブナガも追いついてきた。
辿り着くと、思わず自分の目を疑いたくなる光景が飛び込んできた。
さっきまであれほど騒いでいたクレハが、地面に人形の様に横たわっていたのだ。
その横でシスター・レミアが顔を真っ青にして座り込んでいる。
子供達はどうして良いのか分からず立ちすくんでいた。
私に気が付いたアリアが駆け寄って
「クレハちゃんが、クレハちゃんが、、、急に倒れて、、、」
と震えながら話した。
原因は分からないが、先ずはクレハを何とかしないと。と慌てて、左手の指先を舐めながら駆け寄る。
近寄ると、シスター・レミアは言葉を失いながら蒼白な顔て私を見つめる。
さっきまで元気だったクレハが抱いた胸の中で倒れ込んだのた。そうとうに気が滅入っているのが見て取れた。
シスター・テレサが私に気が付くと
「回復が、回復が効かないの」
と泣きじゃくりながら訴える。
いつも凛とした態度のテレサの顔が涙でぐしゃぐしゃだ。初めて見る表情を不覚にも新鮮に感じてしまった。
直接な原因は分からないが、クレハが卒倒した事だけは解った。
湿らせた左の指先をクレハの口元に添えた。
息が掛かる感触が無い事を確認した途端に、凍りつく様な悪寒に襲われる。
全てから切り離された錯覚を覚える。ただただ鼓動だけが危機を警鐘する様に鳴り響く。
「・・・リト、リト。大丈夫? リトっ」
シスター・テレサに揺すられて気が付いた。どれだけ意識を失っていたのだろうか。とても永く感じられた警鐘は周りのみんなが居る位置から推測すれば数秒程だっただろうか。
私は慌ててクレハを抱きかかえて必死に唱えるように話す。
「だいじょうぶ。だいじょうぶ。だいじょうぶだから。もうだいじょうぶだから」
思い出した。ここが2回目の岐路だ。間違えた、失敗した、と後悔が襲う。
シスター・テレサが「大丈夫な訳ないでしょう!」と訴えていたと思うが、私には後悔から抜け出すのが必死で聞こえなかった。
少ししてクレハが目を覚ました。
今まで眠ってました。という様に立ち上がると、そのまま私の頬に右ストレートが突き刺さり、その勢いで私の膝に倒れ込み泣き崩れる。
クレハは気付いていた。そしてこの失態をどうやって乗り切るか必死で行動している。
「クレハごめん」
今の私には謝る事しか出来ない。
これからお手伝いの仕事なのだが、依頼をキャンセルするのは、信用の問題が起こる。
大得意様だ。事情を説明すれば許してくれるだろう。
しかしこの依頼は修道院が受けたものであって、私が受けたものではない。現実社会でも企業なら代理人で対処するのが普通だろうと考える。
社畜精神に浸食されたままの私には、組織の信用は重要だと考えてしまうらしい。
その為に受けた依頼を断るのは修道院の信用の問題になりかねない。
代わりが欲しい所だが、頼める人が居ない。ずっとノブナガばかり気にかけていたのが悔やまれる。
「シスター・テレサとレミア。迷惑掛けてごめんなさい。クレハも僕達と一緒に連れて行くよ」
クレハが泣き止み、というか場を誤魔化すために嘘泣きしていたのを止めたのを確認してから、私はクレハと一緒に立ち上がりシスター達にこう伝えた。
「駄目よ。クレハちゃんは倒れたばかりなのよ。外に行かせられないでしょ!」
シスター・レミアは必死に止めさせようとうする。
「今回は依頼先に説明してキャンセルさせて頂くわ。外に行かせられないでしょ!」
シスター・テレサも必死に止めさせようとうする。
「心配してくれてありがとう。でももうだいじょうぶ。僕達も行かないと修道院に迷惑かけちゃうから」
社畜だなと思いながらも、私は説得しようとする。
「無理はしないで。かえって迷惑をかけてしまうわ」
確かにその通りなのだが、私達は大丈夫だからと言おうとすると、
「僕達がリトの代わりにお手伝いをするよ」
突然の声に驚いて振り向いた。例の2人組である。
「クレハちゃんが心配だから、リトは一緒についてあげててよ。お手伝いは僕達が手伝うから」
意外だった。
彼等は信永に対してあまり良い感情は持っていないだろうから、一緒には居たくないというのは、以前の行動から予想はしていた。
そして、なにより今日は手伝いに来る兵士達と、遊びという稽古が出来るという希望もあったあろう。
そういう風に考えていたので、私はまったくあてにしていなかった。
「どうして」
と呟くと、協力したいから。困った時はみんなでがんばろう。と答えてくれた。
正直なところは、例の稽古道具がとても嬉しかったそうで、お礼がしたかったのだという。
ノブナガに対する評価も上がっているようで良かった。
欲しい物が貰えて嬉しとか現金なものだと思いつつも、その正直で素直さは私にとって眩しく思えた。
嘘だらけの言動がとても汚く感じてしまう。とても後ろめたい。
ともかく約束の時間になっているので、2人の好意に甘えさせて頂こう。
ノブナガには、お手伝い先での挨拶やマナー、ルール等を彼等から教わってきて欲しいと伝え、2人には深々と感謝を述べる。
部屋に戻りクレハを寝かしつけた。
クレハを挟んでシスター・レミアと私が座っている。
「ごめんなさ。私がついて居ながらクレハちゃんが大変な事になって・・・」
シスター・レミアが謝りはじめていたので、急いで私が謝る。
「僕こそごめんない。クレハの事を理解してやれなかったから、みんなに迷惑をかけてしまいました。ごめんなさい」
シスター・レミアはこの後に何を言っても、慰めても、ひたすら謝るのだろうと察した様で、
「この後は仕事とかは何もしなくて大丈夫だから、クレハちゃんの傍に居てあげてね」
そういって部屋から出て行った。
早々に察してくれて助かった。
慰められたら余計な事を口にしてしまうかもしれない。
うっかり話してしまわないように、ただただ謝る事しか考えていなかったから本当に助かった。
考えてみれば、クレハとの事は何も知らない。
「次にリトとクレハの関係ですが、魂が『離れた』といっても表面的で芯は混ざり合っままなのです。その影響が肉体に現れてしまっています。
何が出来て何が駄目なのかをもう一度確認して下さい。この世界は『前の世界』と違って魂の影響が反映され易いのです。だから魔法を使えるのですが」
メフィストの言葉を思い出す。『何が出来て何が駄目なのか』これを知らないと又同じ失敗をしてしまう。言葉を覚える事を優先してしまったため後回しになってしまったが、急いで私達の事を確認しなくては。




