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悪魔契約に縛られた異世界生活 第2幕(異世界生活編)  作者: 雨宮 白虎
第2章 トキザミの国(入国編)
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038 その前に予習と練習を

 柵を越えて真っ直ぐに城門へ歩き始めた。


 クレハは、もう補助が無くても歩くのは大丈夫になったと思うのだけど、まだ腕にしがみついていた。躓いたら強くしがみつくから助けてよ。という理由だろうか?

 それよりも時折、猫が頭を擦るみたいな甘い仕草するので、とても照れ恥ずかしくて、そして背中がなんかくすぐったい。

 そのくすぐったさから逃れようと、ほぼ無意識に腕を振り払おうとしてしまった。

「リトは、うで、くまれるの、きらい、なの? ・・・」

 寂しげな物言に罪悪感が湧き上がる。失態したと思うが今となっては手遅れだ。ここは素直に謝ろう。

「手を繋ぐのは良いけど、猫真似は勘弁してくれないかな。くすぐったくって困るんだよ」

「へ~。くすぐったいの。どんなかんじ?」

 興味を持たれてしまったのか、あえて擦り寄ってきた。

 背中が痺れた様にくすぐったくなってきて、反射的に腕を引き抜こうとしたが駄目だった。

 今度はわざとやっているので想定の反応だったのだろう。手首の関節を極める様にしがみついている。

「ねぇ、どんなかんじかな~」

 屈託の無い笑顔でからかっていた。いったい誰に似たんだか・・・。

 初めて会った時は市松人形みたいだったのに、見事な変わり映えだと思う。いやいや変わったんじゃなくって、体が思う通りになったから、それに合わせて表現が豊かになった。というのが正しいのだろう。

「ねぇリト。へんじしてよ」

「・・・え、あ、ごめん」

「また考え込んでた。リトのわるいくせ、だよ」

「ごめんな。気をつけるよ」

「ほんとに?」

 そう言われながら腕を少し引っ張られた。 


 ズキン!!


「あっ、つ!」


 突然、激痛が奔った!

 激痛が腕から全身へと雷竜が荒れ狂ったかの様に通り抜け、声にならない悲鳴をもらしてしまった。

 クレハは慌てて手を離す。

「ご、ごめんね。いたかった、よね。ごめんね」

 ここで直ぐに「大丈夫」と答えても余計に心配させて仕舞うだろう。そう考えて、先ずは激痛が起きた手首を恐る恐る撫でてみた。

 痛みはある。が、幸いにも少し腫れている程度で、深い鈍痛は無かった。骨折はしていない様だ。軽い捻挫なのだろうと思う。

「ねぇ、だいじょうぶ、なの?」

 申し訳なさいっぱいに心配してきた。「怒ってる?」という不安そうな声だった。

「大丈夫だよ。打ち所が悪かったのかな? 少し痛いけど、そっとしておけば、直ぐに治るよ」

 頭を撫でてあげながら、そう答えた。「全く問題ない」と答えると余計に心配すると思ったので、痛い所を正直に答えた。

「わかった。いたいところに、さわらないように、きをつける」

「それじゃ、先に進もうか」

「うん・・・」

 クレハは遠慮して、手を繋がずにいた。



 歩きながら考える。

 だいたい、道化者がぶん投げたのが一番悪い! 「服を汚しては設定に説得がありません」と言うなら、言葉通りに服を汚すだけで良かったんじゃ無いか。投げる必要あったかって考えたら腹が立ってきた。

 痛みを感じる度に道化者のニヤけた顔が思い浮かんで余計に腹が立つ。

「リト・・・おこってる?」

 機嫌を伺う様に声を掛けられた。嫌われた。という不安を抱えた声。結構引きずっている感じだ。

「怖い顔をしてたらごめんな。道化者に対して怒りが湧き上がっていたんだ。だいたい何で投げ飛ばされなければならないんだよ」

 つい愚痴が混じる。

「うん。わたしもとつぜんで、びっくりした。ひどいよね」

「そういえば、一所懸命に駆けつけてくれたね。嬉しかったよ。ありがとう」

 えへへ~。という感じで表情が緩んでいくのが分かった。不安が払拭された様で良かった。

 しかし、あのニヤけ面が脳裏を過るのが凄く嫌だ。その都度にイラッと感情が揺れて、それをなだめているので、感情的というか精神的に疲れてきた。何か良い方法は無いだろうか。


「・・・そういえば、メフィストって、どんなすがただったかなぁ?」

 口に指を当てて思い出そうとしていた。

「あんなに嫌っていたのに、なんで思い出そうとしてるの?」

 と不思議に思った。あの空間では生理的に嫌って雰囲気だったのだ。

「あのね、いらいらしたら、かおをおもいだして、えいってするのいいかな。っておもったの」

 そういって何も無い所にグーを打ち込んだ。

 それは良案だと思った。思わず手を叩く。

 男の時でも女の時でもまともに取り合ってくれない輩の事なんて思い出したくも無い・・・と考えていたが、改めて思い出そうとすると、あれ? メフィストの姿ってどうだっただろうか?

 漆黒な長髪、星を散りばめた黒紫のドレス。闇色の鋭い瞳、それから・・・アンダーリムのメガネが可愛らしくて、教鞭は艶美に邪な雰囲気を漂わせていた。

 って、なに考えているんだよって首を振った。

 あ! でも、これは良いかも。ゆるキャラみたいにデフォルメして等身下げて・・・っと。

 それっぽくSDメフィストの姿を想像したら、何となく気分が楽になったかも。

 うん。何かあったらこの姿を思い出せば良いな。それから思い出しの時は『メフィスト』と呼ぼうか。道化者なんて名付けたのは苛立ちの反映だから、精神的に引きずっていたのかもしれないな。

「クレハ、ありがとう。助かったよ」

「・・・わたし、なにかした?」

「ああ。とても大切な事を教えてくれたさ」

 何の事だかよく解らないって感じに首を傾げていたが、その表情は微笑んでいた。



 ようやく城門に辿り着いた。一先ず守衛小屋の陰に隠れて、今までのおさらいをする事にした。

「メフィスト設定だと、裕福な商人の子息子女という事だから、偉そうな感じ?」

「えらそうなかんじ? ・・・だめよ。『たすけをもとめる』のだから、けんきょにしないと」

「謙虚? そうだね、助けを求めるなら、凍えた仔犬か仔猫って雰囲気を出せばいいな。そんな雰囲気はたしかテレビCMで見た事がある」

 そう言いながらCMを思い出す。

「リト。しぐさはそうだけど、しゃべりかた。こどもっぽくないよ」

「そう? 子供の話し方をしているつもりだけど」

「こどもは「わたし」っていわないよ。「ぼく」がいいと、おもうよ」

「そうだっけ。「僕」かぁ。僕、ぼく、僕とぼくと、ぼくぼく・・・それに良家なら言葉使いも丁寧という感じでって・・・」


「はぢめまして。僕はリトといいます。これからよろしくおねがいします」

 棒読みだけど、トーンを少し上げて発声してみた。なんか凄い違和感が・・・

「ん~。まぁまぁね」

「なんだよ、変な言い方して。それでクレハはどうする? ・・・じゃなくってっと」

「それじゃ、クレハはどうういう感じにするの。しゃべるの大変そうだよ」

 ぷふって笑われた。

「おいをい笑うな・・・笑わないでよ。大変なんだから!」

「ごめんね~。わるぎはないわよ~。わたしは・・・」

 すこし考え込んだ。

「・・・あたしは、はなすのまだみたい。だから、こわくて、こえがでなくなった。・・・じゃだめかな?」

「え~と、襲われた打衝(ショック)で、かたことな声しか出せなくなった。という感じ?」

「そうそう。はなすのはもうすこしまっててね。それよりだめだよ。はなしかたもどっちゃったね。ちゃんとちゅういしないと」

 子供の頃は、まぁいろいろと周囲の視線が厳しかったので『おとなしい子供』を強要されてきたから、子供らしい仕草というのがいまいちよく分からない。

 とりあえず、このお仕着せの服に似たアニメのキャラをイメージして練習する事にした。


 

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