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悪魔契約に縛られた異世界生活 第2幕(異世界生活編)  作者: 雨宮 白虎
第13章 そして歯車は狂い出す
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191 時刻(トキキザ)む揺り篭に足音が2つ鳴り響く

 ◆◇◆◇ 西門近くの『草の根街』 ◆◇◆◇


「お肉ありがとう。また遊びに来るから」

「お肉、ありがと~」


「たすかる。またこい。まってる」

「俺のも、ありがと。おしえてくれて。まってる」


 リトとクレハの別れの挨拶に、『草の根街』の友人の兄弟が送り出していた。兄の方は言葉が粗雑(そざつ)なのは、学ぶ機会に恵まれなかったからだ。

 『草の根街』というのは、言い替えれば『貧民街(スラム)』である。

 修道院では『国語』等の授業が誰にでも教えているので、兄弟も習えに来れば良かったのだろうに。

 と、思うかも知れないが、しかし、この街の人達は修道院へ通う事には、まぁ色々とばかりがある為に、疎くなってしまうらしい。


 そこで、リトとクレハは読み書きと計算を教えるお礼として、院では殆ど口に出来ない干し肉を数切れ貰っているのだ。


 この兄弟、シンとジンとの出会いは奇縁だった。

 この国では『草の根街』の子供にだけ、他の子供に対してスリをしても黙認されるルールがある。

 細かい条件は省くが、将来は狩人を目指す『草の根街』の子供達は勘を磨く為に、他の子供達は常日頃から危機感を身につける、そういう訓練を兼ねているのだそうだ。

 リトはゲームの様だと軽く思っていたが、ある事件により、真剣に危機感を高める事に決めたのだ。


 ある事件、それはこの国に来て生活に慣れた頃、お世話をしてくれている年長のアリアへ贈り物を選んでいる時の事だった。

 ふらりとぶつかってきて財布の金袋をスリ取られてしまった。

 リトのお小遣いはクレハの機転で事無きを得た。

 しかし、ナーガはお小遣いは持ち去られてしまい、「これじゃ、アリアにお礼できなくなる」と泣き崩れたのだ。涙をこぼしながら泣き叫んだのはこの時しかなかったから、そうとう衝撃な出来事だったのだ


 上手くスリ去ったのが、先程の兄のシンだった。

 しかし、弟のジンはクレハに気付かれて抱き押さえられで逃げ切れなかった。

 スリをしても黙認されるのは、罪と問われない、という意味では無い。捕まった場合に私刑(リンチ)にされても黙認される。という意味も併せ持つ。捕まればタタじゃ済まないから、行う方は真剣になる。

 本来ならボコられて当然なジンの身柄は、リトが「抱きついたクレハに暴力を振るわなかった」事を理由に、財布を取り戻しただけで解放した。


 この事件で、ジンがクレハとリトに懐いて、今の仲となった。


 しかし、残念な事に、これ程の事があっても、シンとジンの兄弟はナーガの事を覚えていない。

 覚えていない、というより、元々居なかった。という認識だ。



「ねえ、リト。今、何を思ってるのか、あててあげよ~か?」


 硬い干し肉の欠片を頬張りながら、クレハがリトに問い掛ける。


「藪からになんだよ。聞く必要なんてないさ。この肉硬い。燻臭というよりタール臭強い。だよ。モグモグしてるんだから見れば直ぐに分かるだろ」


 干し肉は、獣臭を消す為と保存を目的に、強く燻製加工かれていた。肉としての味わいはあるものの、臭いは炭に近かった。


「そう言う事を聞いてるんじゃ無いの~。ナーガの事を考えてたでしょ~。今ごろ、どうしてるだろう~な~って」


「ああ、まあなあ。なんであの兄弟も忘れちゃったんだろうなーって思ってたよ」


「それだけ? わすれちゃった。 それだけ?」


「なんだよ。何を聞いてるのさ。どんな応えの期待してるんだよ」


「ナーガの事、心配なんでしょ。探しに行きたい。 な~んて、考えてないかな~。 なんて思ってるけど、どうなの?」


「そうだよ。ナーガの事は心配だよ。だからといってどうする事もできないんだ。だってそうだろ。この(多分)広い世界で人捜しの旅なんて出来る訳が無い。クレハも一緒になるか……」


「あ~! あれ! ねえリト。あれ見て! パンを配ってるよ。なんのお祭りかな~」


 クレハは、リトの話しに割り込んでから、そのお祭りの賑わいへと走り出した。

 (まあ、あの距離なら大丈夫だろう)

 リトはそう考えて、焦らないまでもやはり気掛かりなのか、早足でクレハの後を追いかけだ。



 ◆◇◆◇ 祭りの近くの丸太に座って ◆◇◆◇


「あたしたちもパンをもらえてよかたね~。この国だと、お祝いはおもちじゃなくって、パンなんだね~。少し甘くておししいね~。でも、なんのおまつりなんだろう?」


「レンガの家を建ててる途中みたいだから……、もしかしたら『棟上げ式』なんじゃないかな」


「『むねあげしき』? 『じちんさい』は知ってるけど、むねげ……ああんもう、言いにくいよ。そのむね何とかってどんな事するの?」


「あれ、知らなかったのかい? あーでも、僕も1度しか見た記憶が無いか。

 どんな意味だったかな……。

 確か家が屋根まで建ち上がったお祝いかな。高い屋根までの建築は1番危険な時期だから、無事に済んだ事を祝うお祭りだったと思う。

 餅とか小銭を包んで屋根から投げて配ったりすると思ったけど、実際はどうなんだろう」


「そっか~。だからパンをくばってるんだね~。うん、分かった。それでナーガは何処までお話ししたかな~?」


「コロコロと話しを変えるなよ。 ……でも良いのかい? 沢山の人が居るのに、聞かれたらマズい事もあるんじゃないか」


「なにいってるのよ~。それは大丈夫。みんなお祭りでもりあがってるから、あたしたちの事なんてきにしてないわよ。きっとね~」


「あいまいだなー。ったく……」


 腰を掛けている丸太は、これから建物の中身に使う材料なのだが、誰も注意をしないと云う事は、本当に誰も気付いていないらしい。

 2人の小さな声は、祭りの喧噪(けんそう)にかき消されてしまうのを、クレハは知っていたのだろう。


 ◆◇◆◇


「えーと、何を言いたかったんだっけ。ああそうそう、ナーガを探す冒険なんて出来ない! って言いたかったんだ」


「どうしてできないの? ぼうけん、たのしそうじゃない」


「だ・か・ら……、僕とクレハだけで冒険なんて、危険すぎて出来ない! って言ってるんだよ。

 特に、クレハは女の子だし、見た目や年齢で色々と狙われ襲われる危険が高いんだ。そんな渦中に連れて行くなんてできないんだよ!」


「そうなんだ、ありがと~。あたしのこと、大切にしてくれて」


「な、なんだよ! いきなり。 そんなに、しおらしくなって……。らしくないなー」


 声色こそ子供調のままだが、大人びた艶のある言い方に、リトは普段のおてんば姿とのギャップに驚いて腕をバタバタを振り回した。


「ああん。そんなにあばれたら目立っちゃうよ。おとなしくしようよ。 もしかして、ギャップ萌えた?」


「も……、萌えてない、よ。 お、驚いた、だけだよ」


 突然、かしこまってお礼を言われたら、嬉しいけど、それ以上に照れて恥ずかしくもあり、くすぐったい気持ちになった。

 喜びで飛び跳ねたくなる子供心が湧き上がるも、顔を真っ赤にしながら耐え忍ぶ。

 (は、恥ずか死ぬ……)

 そう思いながら、体に力を込めて、じっと耐え続けた。

 クレハはそんなリトをに「ぷっ」っと含み笑いをしてから、部屋でするような大人びた口調で話しを続け始めた。


「リトってね、厨二病だし、ドヤってるし、格好良く見せようと無理して失敗するし、女の子の事分からないし、気が弱いくせに強がるし、本当! キモいよね。

 それなのに、わたしの事、とっても大切にしてくれるのが、とても嬉しいんだ。

 ありがとう。

 でもね、わたしはもう大丈夫だからから。これからはリトの好きにしていいからね」


「………」


 散々に「キモい」罵られてイラッとしても、こうも感謝の気持ちをストレートに言われたら、怒るに怒れず、喜ぶには棘がありすぎて、リトは言葉に詰まってしまった。

 予想通りの反応だと、クレハはもう一度「うふふ」と含み笑いをして話しを続ける。


「旅をしましょう。この世界、異世界に来てからずっと考えていたんだよね。沢山の冒険譚の様な夢を見ていたんだよね。知ってるんから。そうでしょ、リト」


「……、しょ……しょくざい……」


「食材? なにか食べたくなったの。照れ隠しなのかな。恥ずかしいと話題を変えたがるよね。分かってるよ。それじゃ何がたべたいの?」


 リトは恥ずかしさのあまり口元がおぼつかず、やっと口にできた言葉はうわずんでしまった。

 クレハは「言い過ぎたかな」と、リトに気遣い、話しを合わせようと言葉を返した。

 しかし、リトはそんなクレハの返事を聞かなかった事にして、もう一度、同じ事を口にする。


贖罪(しょくざい)なんだ、この世界では……。

 僕が……、私がクレハの人生を奪ってしまった、その贖罪(しょくざい)の為に願ったんだ。

 だからクレハの想いを優先したいんだ。だから危険な事はしたくないんだよ」


「そんなに大切に想ってくれるんだね、ありがとう。

 それから、わたしは大丈夫。この生活に充分満足したよ。だからこれからはリトの番」


「それなら、このまま、クレハが楽しく暮らせたらそれで充分だ。だからこのままで良いじゃないか」


「わたしね、旅がしたいと思うんだ。

 リトと一緒に旅をして、

 どこか静かに暮らせる場所を見つけたら一緒に暮らすの。

 何時も一緒にいなくちゃ駄目なんだもん。

 『死』さえ、わたし達2人を分かつ事が出来ないなら、

 「おしどり夫婦」って呼ばれるのも悪くないわね」


 クレハが遠くを眺めながら夢を語った。


「別に、静かに暮らすなら、この国に居続けても良いんじゃ無いか?」


「なに言ってるの! この国のわたし達は『兄妹』なのよ。

 成人して、

 結婚するの年になっても一緒とか、

 『シスコン』『ブラコン』を(こじ)らせたみたいで変に思われるわ。

 いいえ、受け入れられたとしても、『夫婦の営み』はどうするの?! 

 凄く複雑な気分になる事は間違いないわ! そうでしょ!? どうなの?!」


「どうなの? って、確かにその通りだけど、本当に良いのかい? 危険で苦労が絶えない旅路になるかも知れないんだぞ」


「リトに望みがあるなら、心残りがあるなら、わたしは何処までもリトについて行くわ。 リトがこの世界に誘ってくれたようにしてくれれば良いのよ」


「ははは……。確かに『シスコン』『ブラコン』と背中を突かれるよりは夫婦と勘違いされた方がマシかもな。そうだな、旅をしよう」


「ええ、喜んで」


「だけど、修道院のみんな、特にシスター・テレサに何て言ったら良いかな?」


「……あっきれた~。そのくらいリトがかんがえてよ~。さそっているのは、リトなんだよ~」


 クレハは「そこまで考えてなかったわ」と誤魔化す為に、子供口調に戻して言い返した。



 ◆◇◆◇ 修道院 ◆◇◆◇



「駄目!! 駄目に決まってるでしょ。旅をしたいって、何を言ってるのよ2人共!!」


 シスター・テレサから激しいくダメ出しをされてしまった。


「悪い事なら、ごめんなさい。

 でも僕達は、一度、生まれた故郷を探したいんだ……です。

 家族に、もしかしたら家族同様に暮らした商人の誰かに会えるかもしれないから。

 たしか、『試し』で認められたら旅路を許してもらえるって聞いたから」


「ええ、その通りよ。成人した保護者が居ない以上、『試し』で認められないとこの国から出ては駄目よ。

 でもね、その『試し』は12歳になってからよ。リトとクレハにはまだ早いわ!」


「あのね~。ねんれいをね、はやめること、できないかな? ひめさまが、ゆるしてくれたら、うけられないかな~?」


 リトが「旅をする理由」を考えてくれたのだから、今度はクレハが願い出る番だと、オドオドしながら、シスター・テレサに問い掛けた。


「クレハもクレハよ! よく考えて! 

 12歳からと決められたルールを姫様の威厳で変えると云う事は、

 逆に言えば、姫様が「リトとクレハには受けさせない」と決めつける事も出来るのよ!

 幾つかのルールは決して変えてはいけない事があるのよ。『試し』もね、古くから有る決まり事の1つなのなの。

 分かった!」


 姫様の気分で変える事ができる規則ならば、裏目に出る事もありえる、もっともな話しだ。

 リトとクレハがガッカリしたのを見て、強く言いすぎてしまった。とシスター・テレサは思った。

 なぐさめる気持ちを込めて、話しを続ける。


「そうね……。クレハが12歳になったら『試し』を受けさせて貰えるように姫様にお願いしてあげるわ。これならいいかしら」


「「あ、ありがとう。よろしくおねがいします」」


 リトとクレハは意気が合ったようにお礼の言葉を返した。


「元気になったみたいで安心したわ。ちゃんと姫様にお願いする事を約束するわ。

 そうそう。たしか2人共、生活に必要な魔法は使えるわよね」


「はい。『火を付ける』『火を消す』『風をなびかす』はできます」


「それなら問題ないわね。わたしからはもう教える事は無いわ。だからもう『師匠(マスター)』と呼ばなくていいからね。これからは自分自身で力を付けていってね」


「え?! どうしてですが? もっと沢山教わりたい事があるのに」


「残念だけど、決意した今から『試し』は始まったのよ。クレハは今……」


「あい。8さいです~」


「そうそう、あと4つ年後までに自分自身で研鑽(けんさん)するの。頑張ってね。その代わり、約束はしっかり守ってあげるわ。大切な事だから2度言ったわよ」



 ◆◇◆◇ そして…… ◆◇◆◇



 リトとクレハは『試し』がどんな試験であっても認められるように、自分の力で修行に努めた。

 もちろん。今までお世話になった人達へお礼の代わりにと、精一杯『お手伝い』に勤めながら。


 その姿は、まるで時計の箱の中で砕け落ちた転がる歯車の様だった。



 そして……時が流れ……



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