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悪魔契約に縛られた異世界生活 第2幕(異世界生活編)  作者: 雨宮 白虎
第13章 そして歯車は狂い出す
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189 軋む歯車と狂い変わった世界観

  ◆◇◆◇ 修道院に入り口にて ◆◇◆◇


 リトとクレハはロッカーに有った手紙や小物を自分達の部屋に運び終えると、出来ればその手紙について色々と考えたい気持ちが強いが、ロッカーが使えるようになった報告をするのが先だと、シスター・レミアを探し始める。



「おかしいな-。普段なら国の子供達相手に国語の『授業』を受け持っているはずなのに……」

「もう~。リトはうっかりさんなんだ~。今日はお休みだよ。忘れてたの? でもしょうがないっか。『授業』に出なくなって、たくさん日がたったもんね~」

「うん。そうなんだよな。『お手伝い』で呼ばれる事が多くて『授業』に参加できなくなっちゃたんだから、それはしかたないさ」

「そうだよね。しかたないから『時間割』しらなくても当然よ当然。忘れたリトは悪くないよ~」


 クレハが、遠回しに嫌みを口にする。その反応を愉しむの言葉は、弟をからかう姉のそれであった。

 とは言っても、流石にリトはそんなやり取りには慣れてきたので相槌を返して聞き流していた。

 (ちょっとつまんないな~)

 と、クレハは思った。

 でも、度が過ぎたら機械みたいな返事しかしなくなってしまい寂しいくなるから、まあいいかな~。と口を閉ざす。



「あ、あれあれ。リトリト。 あれよあれ!」


 引き続きシスター・レミアを探し回っていると、クレハが突然慌てた口調でリトの袖を引き始めた。

 指差す方に振り向けば、買い物の帰りだろう。シスター・テレサとアリアも一緒に、門の入り口から姿を現していた。


「おかえりなさ~い」

「お、おかえりなさい」


「あら、クレハとリト。お迎えに来てくれたの? はいはい、ただいま」

「引っ越しの片付けをしてると思ってたら、どうしたの? レミアを待っていたの」

「なーんだ。リトはシスターレミアを探していたんだ。引っ越しをしたら寂しくなっちゃったの?」


 (アリアは焼き餅しているみたいに口を挟んだ。時々、クレハみたいな『お姉ちゃん』口調になるのはどうなんだよ)

 アリアの馴れ馴れしい、もとい、親近感がある振る舞いに、リトは戸惑ってしまうが孤児の中では長姉なので、手の掛かる弟的な扱いをされても致し方ないのか。と、思うようにしていた。


「あのね~あのね~出て行ったお部屋のおそうじ、してたんだ~」

「そうそう。それでみんなが入ってくるのを見かけたんだ。お荷物が沢山有るね。運ぶの手伝うよ」


「そうなの、偉いねリトとクレハは。それならアリアの荷物を持ってあげなさいな」

「いいえ、わたしは大丈夫よシスター・テレサ。これは、そんなに重くないですし……」

「いいのいいの。リトは男の子。アリアは女の子なんだから、遠慮しなくて良いのよ。そうねぇ、クレハはコレをお願いしようかしら」


 シスター・テレサはアリアが左手で持っている小箱を手にして、クレハの胸元へと運ぶ。


「は~い。これをはこぶんだね~」

「そうよ。ほらほら、リトもぼんやりしていないで。早くアリアから荷物を受け取りなさいよ」

「え、あ……、わたしは大丈夫です。ね、リト。シスターの荷物を持ってあげて。……ね」

「いいじゃないの。折角なんだし。ほらほら、リトもしっかりしてるって姿を見せるチャンスよ」

「い、いいよわたしは。ほら、シスターの方が重そうだから、そっちを手伝ってあげて」

「なんで恥ずかしがってるの? アリアのはみんなの為に買い付けた物なんだから遠慮しないの」


 シスター・テレサのテキパキとした指揮に、アリアとリトは何となくくすぐったい気持ちで、落ち着かないのか、互いにを泳がせていた。


「気にしないでいいからね。わたし達のは自分用の荷物だから自分で持つのは当然なのよ。ほらほら、リトもぼんやりしてないで、アリアに手を伸ばして、ほーら。……もう2人共、顔を真っ赤にしてどうしちゃったのー」

「どうしちゃったの~。アリアも、リトも、お顔が真っ赤だよ~」


 告白している様なシチュエーションに、その雰囲気が好物なシスター・レミアが好奇な視線で眺め観賞し始めた。

 そんな恋バナ雰囲気にクレハも調子に乗って真似をする。


「クレハ! そ、それから……シスター・レミアも、そんなに好奇心いっぱいな視線を送らないでよ。恥ずかしよ」


「あら、恥ずかしいの? それなら早く格好いい所を見せなくっちゃね。わたしじゃなくてアリアにね」

「そうだよ~。「アリア~、僕にまかせろ~!」って言うんだよ。ほら~」


「そんな事言われたら、余計に恥ずかしいわ」

「そんな事言われると、余計に恥ずかしいよ」


 アリアとリトは声が重なってしまった事にが、更に互いを気になりだして、いっそう顔が赤らんだ。



「レミア。もう満足したでしょ。まだお使いの途中なのよ。続きの井戸端会議は配達が終わってからにしてよね。ほら、アリアも」


 シスター・テレサは焦れったくなったのだろう。アリアから荷物を奪うように手にしてリトに押しつけた。

「ほら、リトが持つ荷物よ」

「は、はい。ありがとうございます」


 リトは押しつけられた荷物を反射的に抱きしめた。



「折角、これから面白くなりそうだったのに……」

「ほんとだよね~、シスター・レミア~」


「2人共、いい加減にしなさいよ。それからクレハ、お兄ちゃんをからかっちゃ駄目でしょ」


「は~い。ごめんなさ~い。アリア、ごめんね~」


 クレハはそう言って謝ったが、全く反省している様子ではなく、どちらかと言えば、おもちゃを取り上げられたガッカリ感がただよっていた。



 ◆◇◆◇



「ねえシスター・レミア。部屋の壊れたロッカ……物入れの事なんだけど、お掃除したら直ったよ」

「へー。ちゃんと使えるようになったのね。リトは何でも出来て器用だわ。すごいね」

「……ううん。そんな大変な事じゃなかったから、全然すごくないよ。木の破片が挟まっただけだったから、頑張って取り除いただけだよ僕は」

「それでも、直した事には変わらないわ。やっぱりすごいのね。……なーに? そんなに照れなくて良いじわよ。アリアもそう思うでしょ。リトが器用で良かったわね」


 本当はリトがロッカーの鍵を引っ越しの荷物に紛らせて無くしていたのだが、「迷惑をかけてしまって怒られたら嫌だな」という逃げから、誤魔化して報告をした訳だった。

 そんな気まずい気持ちでいたのに「器用だね」と褒められて、恥ずかしいやら嬉しいやらの苦笑いが、照れている様なニヤけ顔に見えたらしい。


「そうね、わたしもリトは器用ですごいと思うわ。それよりも早く荷物を届けましょうよ。シスター・テレサはこの後忙しいみたいですし」


 (またシスター・レミアが恋バナを話しかけてきたわ。困ったわね)

 そう思ったアリアは、表情を気にしながらシスター・テレサの事を理由にして、素っ気なく答えた。

 まあリトについて肯定的に答えたのは、思う所があったからだろう。


「もう、つまんないの。 あ、そうだわ。あの手紙はリトとクレハ宛で間違いなかったかしら?」


「あの手紙? あああれだね。うん、そうだよ。僕達宛で間違いなかったよ」

「そうそう。ナーガお兄ちゃんからだったよ~」


「お兄ちゃんていうと、リトとクレハがこの国来る前に生き別れたお兄さんが2人の事を見つけたって事なのね。良かったわ。これで家族と会えるじゃないの! おめでとう」

「まあまあ、まだ会えるかどうか難しいわよ。レミアから聞いた話しだと、その手紙には送り主が無かったのでしょう。返事はどうやって返すのよ」

「これから兎も角、生き別れた家族から連絡があったんだよね。リトとクレハ、良かったね。だけど……、家族と会えたら、も、もしかしたら……ううん、きっと2人共元の街に戻れるんだよね。本当に……よかったね」


 シスター・レミアなりに手紙を訳し、それを真に受けたシスター・テレサ。そしてアリアはこれから直ぐにリトとの別れが来る。そう思うと胸が熱くなって頬に一条の雫がしたたり落ちた。


「おいおいおい! まってくれ、まってくれ! わた……僕としては嬉しい報告に思えたけど、みんなごめんなさい。良くも悪くも期待を裏切ってしまって、ごめんなさい」

「ことばがすくなくて、かんちがいさせちゃって、つまらない期待をおもわせちゃって、ほんとうに、ごめんなさい」


 リトとクレハは荷物を持てる範囲で、深々と頭を垂れた。


「あのさ、この手紙の送り主は、僕達の義兄で、孤児やシスター達と一緒に苦楽……大変な事も楽しかった事も、それとマスター・テレサにしごかれて大変だった、一緒に暮らし過ごしてきた家族なんだ」

「そうそう、だよ~。本当の家族、ちがうの~。だからまだまだ帰れる所はわかんな~いの。ね、アリア。そういう訳だからもっと、ずっとお世話になると思うのね。だから、これからも宜しくお願いします。みんな」



「ねえリト? ちょっと聞いて良いかしら? ナーガって誰の事を言っているの」


「な!? シスター・レミア、なにを言うのさ? ナーガだよナーガ。 あ、そうか。これは僕が名付けた名前だったから忘れちゃったのかな。 ほら、僕達がこの国にお世話になったのと同じくらいに来た少年だよ。ノブナガって本名の男の子だよ」


「リトごめんね。リトとクレハがナーガと呼ぶ、ノブナガって男の子の事だけど、わたしも知らないわよ。

 たしかにね、流行病が治まっても孤児の子供達の入れ替わりは多いから、みんなを覚えていないけど……。

 でもね、その病の前の、リトと同じなら頃なら良く覚えてるわよ。クレハと2人しか孤児院に案内されてなかったわよ」


「や、やだなーもう。シスター・レミアもアリアも、僕達をからかって何が面白のさ」

「そ~だよ。何してあそんでるのよ~。おどろかそうってしても、あたし、あわてないんだからね~」

「そうそう。分かるウソを言っても駄目だよ。

 それにほら! 僕のおでこの左にキズ跡があるでしょ。

 ナーガは右にキズ跡があるんだよ。

 魔法の練習をしてケガをして迷惑をかけちゃったじゃないか」


「リトの方こそ大丈夫?

 もしかして、そのケガで頭を強く打ちすぎたの?

 だって私もナーガって知らないもの。

 リトがまた大怪我をしない様にって、リトとクレハの2人の為に魔法の師匠を申し出たのよ。

 これはトキザミ様と相談して決めた事よ。間違いは無いわ!」


 リトとクレハは一所懸命にナーガの事を伝えたが、3人共、そんな男の子なんて知らない! の一点張りだった。

 申し合わせたとか、からかおうとか、そういった企みが無いのは、戸惑ったり、含み笑いをしたりとか、そんな仕草が無かった事から、本気で言っているのが分かった。

 どう言えば伝わるのか困惑してしまい言葉が詰まる。



 厨房に到着して、リトとクレハは運んだ荷物をアリアに戻すと。

 「2人共、手伝ってくれてありがとう」

 と、アリアのお礼に返事するように軽い会釈をして、リトとクレハは新しい部屋へと帰っていた。



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