表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/23

エルキアの奮闘 前編 ~番外編~


 カランカラン、とベルが鳴り、店の扉が開かれる。

 エルキアはすぐに振り返り、扉の方へ笑顔を向けた。


「いらっしゃいませ、グランさん!」

「うむ。またいつものを頼む」

「はい、かしこまりました! お水と一緒に、すぐにお持ちしますね!」


 パタパタと、駆け行くエルキアを見つめながら、グランが席に腰かける。

 正面にはいつも通り、ラウロの姿がそこにある。

 両手には食器が握られて、目の前にあるのはパンケーキ。

 グランはいつもの光景にふっと笑うと、黙って品を待っていた。


「お待たせいたしました! こちらお水と、ゼリー(ソーダ味)になります!」

「うむ。今日も鍛錬と行こう」

「グランさん、ほんっとうにソレ好きですよね~。同じものばかり食べて、飽きてこないんですか?」

「お前にだけは言われたくないぞ、ラウロ」

「そうですよ、ラウロさん。たまにはお野菜とか、栄養のあるものも食べてくださいね」

「う。エルキアさんにまで言われるとは……」


 縮こまったラウロを、エルキアとグランは小さく笑う。

 カランカランとベルが鳴り、他の客が入店した。


「いらっしゃいませ~! あれ、この時間に珍しい、ルーナさんだ」

「こんにちは、エルキアちゃん。今日はお仕事お休みなの。ねえねえ、それよりも聞いた? 新しい噂よ!」

「はいはい、さすがは受付嬢。話のネタが尽きないねぇ」

「もう! 今日の話は凄いんだから、ちゃんと最後まで聞いてよね?」


 キャッキャと声を弾ませながら、エルキアを連れて行くルーナ。

 グランとラウロは様子を見守り、互いに顔を見合わせていた。


「眩しいですね」

「うむ。我々とは無縁だ」


 カランカラン、ベルが鳴り、エルキアがすぐに振り返る。

 しばらくすれば、店内は冒険者たちで埋まりつつあった。


「エルキアさん! パン・ケーキの追加を!」

「お嬢ちゃん、俺にはゼリー五杯の追加だ!」

「はぁいただいま!」


 パタパタと動くエルキアは、ホールと厨房を行き来して、注文の品をせっせと運ぶ。

 もちろん、厨房に顔を覗かせた時は、そこに香る甘い匂いを、肺いっぱいに堪能して。


「店長、パンケーキ追加です!」

「了解。あ、エルキアちゃん、こっちの品、運んでもらっていい? 今日はなんだか忙しいから、疲れたらすぐ言ってね」

「はい!」


 左手の盆にゼリーを乗せ、反対の手に皿を持つ。

 エルキアはスピードを落とさずに、しかし丁寧に仕事をこなした。

 ある程度の品が運び終わり、ようやくエルキアは息を吐く。


「お疲れ様、エルキアちゃん。この時間のお店、すごく忙しいのね」

「あはは、嬉しいことだけどね。今日はなんだかいつもの倍以上です」

「エルキアちゃんも中々だけど、店長も大変でしょう。裏、一人で回してるの?」

「はい。私なんかよりも、店長の方が心配です――あ、ルーナさんすみません、オーダー呼ばれたので行ってきます」

「はぁい」


 ヒラヒラと手を振りながら、角席を満喫するルーナ。

 ラウロはパンケーキをひたすらに頬張り、グランはゼリーを飲むように平らげる。

 空となった杯たちは、エルキアが手早く片付けた。


「ウエイトレスさ~ん、こっち、お会計お願い!」

「はい、ただいま!」

「その次、こっちの席お願~い」

「はい、すぐに!」


 注文の嵐が終わった後は、会計の嵐がやってくる。

 エルキアは即座に声に対応し、しばらく店内を駆け回った。


 ――カランカラン、とベルが鳴り、店の扉が閉められる。


「は、はぁ~、ようやくひと段落ついたぁ」

「お疲れ様、エルキアちゃん」

「今日、すごい賑わってましたね」

「うむ。お嬢ちゃんだけで店をまわすのは、中々骨が折れるだろう」

「あはは、すみません、皆さん。常連さんだけになると、つい気が抜けちゃって……」


 空いた席を片付けながら、一息ついたエルキアは、店内に残る三人に笑みを浮かべた。

 

「まぁ、流石は冒険者志望よね。体力は伊達じゃないって感じ」

「えへへ、そうですか?」


 なんて、照れくさそうにエルキアが言った瞬間だった。

 カチャーンと、音を響かせて、ラウロが持っていたフォークを落とした。


「え、エルキアさん、冒険者志望だったんですか!? あのエルキアさんが!?」

「あれ、お話したことありませんでしたっけ……? 私、元々冒険者になりたくてこの町に来たんですけど、お金がなくて生活もままならないので、お小遣い稼ぎで働いてるんですよ」

「し、知らなかった……」


 なぜかショックを受けたように、ラウロは意気消沈してフォークを握りなおした。


「お嬢ちゃんの普段の様子からは、冒険者として戦う姿など想像もできんな」

「えぇ、そうですか? でも私、後衛志望なので……」

「後衛! 後衛ですか! なるほど、それはエルキアさんらしいですね!」

「うぅむ。単純なやつめ」


 復活し、パンケーキを頬張るラウロに、呆れたようなグランが言う。


「そういえば、実家に手紙出さなくちゃなぁ……」

「ご実家とは、いつも手紙のやり取りなの?」

「うん。お家で育ててる木イチゴをよく送ってもらってて、昨日も丁度届いたの。だから、そのお礼」

「へぇ、いいわね。私は生まれも育ちもこの辺りですんじゃうから、手紙のやり取りとか少し憧れちゃう」


 再びキャッキャとはしゃぎだす二人に、グランとラウロは静観を貫く。


「いいですね、女性同士の会話って」

「うむ。我々には入れん」


 ごちそうさまでした、と、ラウロが両手を合わせて息を吐く。

 グランも残っていたゼリーは平らげ、満足したように手を止めた。

 すると、


「あ、店長、こんにちは!」

「こんにちは、ラウロさん」


 いつものようにホールへと店主が現れ、ラウロにニコリと笑みを向ける。

 エルキアは店主を振り返り、「お疲れ様です」と言いかけて、ぎょっとした。


「て、店長! かお、顔色!」

「え? 顔色?」

「青いです! 真っ青です! だだだ大丈夫ですか!?」


 フラリフラリと歩く店主に、エルキアが慌てて駆け寄った。

 グランとラウロは言葉に釣られ、店主の顔をじっと見る。


「確かに、言われてみれば」

「流石、普段からよく見ている」

「そ、そんなですか? 別に、そんなことは――……」


 言いかけて、店主の身体がぐらりと傾く。

 続き、バタン! と大きな音を立て、店主が床に倒れ込んだ。


「て、てんちょおぉおお!?」


 ――。

 ――――。


 エルキアの悲鳴が響き渡ってから、数十分後。

 店主の身体はグランとラウロにより運ばれ、店の椅子へと横たわる。


「過労だな」

「過労ですね」

「間違いなく過労ね」

「……過労ですね」


 寝息を立てる店主を囲いながら、四人そろって頷いた。

 エルキアは顔を覆い、


「だから言ったんですよぉ! 二人なんて無理ですから、誰か一人雇いましょうってぇ!」


 と叫んだ。


「確かにここ最近の異世界スイーツは、今日を含めなかなか繁盛してますからねぇ……」

「うむ。二人だけで店をまわす様子には、俺たちも不安を拭えなかった」

「うぅ、うぅうう。皆さんからも言ってください。店長ってば、ウエイトレスを雇うのは構わないけれど、厨房は自分自身で作りたいって譲らないんです」

「店長、そう言うところ頑固なんですね……」


 泣き真似をするエルキアに、頬をかくラウロが困ったように苦笑した。

 グランは腕を組み、「仕方あるまい」と息を吐く。


「ことが起きてしまった以上、今は対策をとるべきだ。まずは店を閉め、そのあとに今後のことを考えよう」

「そ、それもそうですね。私、お店閉めてきます!」

「手伝うわ、エルキアちゃん」


 泣き真似をやめ、サッと動き出すエルキアに、ルーナが続いてついていく。

 グランとラウロは店主を見つめ、困ったように腕を組んだ。


「とりあえず、店長にはしっかり休んでもらって、栄養があるものを食べて貰わないと」

「うむ。この分だと、明日も休んだ方がいいだろうな」

「エルキアさん、説得できますかねぇ」


 うーん。と、宙を見上げるグランとラウロは、揃いにそろって首を捻る。

 カランカランと扉が開き、看板を出してきたルーナとエルキアが店内に戻った。

 店主の元に歩み寄るエルキアの表情は、不安の色を含んでいた。


「店長、起きますよね?」

「うむ。そこは安心してかまわん。先ほど、念のために万能薬を飲ませておいた。体力が全面的に回復するわけではないが、多少マシにはなるだろう」

「よかった……」


 笑みをこぼすエルキア。

 ラウロはエルキアにニコリと微笑んで、


「ひとまず、今は店長の回復を待ちましょう。俺たちも傍で見てますし、お店の片付けもしちゃいましょう」

「ラウロさん……。はい、ありがとうございます」

「私も、料理とかはできないけど、洗い物は得意よ」

「ルーナさんまで、ありがとうございます」

「うむ。いつも世話になっている。これくらいは軽い恩返しだ」

「うぅうっ。皆さん、暖かいです」


 泣き真似ではなく、今度こそ目に涙をためたエルキアは、顔を覆ってうずくまる。

 ルーナが優しく背をさすり、ラウロとグランは穏やかな表情でエルキアを見守った。


「さ。みんなで片付けしちゃいましょ。店長が起きたら、栄養があるものも食べさせないと!」

「栄養……」

「そ。早く回復して貰わなきゃ、私たちも甘い物が食べられないしね」

「栄養……甘い物。回復……」

「――エルキアちゃん?」


 エルキアが小さく呟いて、地面に視線を落とし固まる。

 グランとラウロは顔を見合わせ、エルキアの様子をうかがった。


「――そうです」

「え?」

「店長には、栄養をとってもらわなきゃ……」

「え、エルキアさん?」


 戸惑うようなラウロの問いは、エルキアの耳に届いていないのか。

 エルキアはうんうんと何度も頷いて、最終的にキラキラとした瞳でラウロたちを見上げた。


「私、店長に栄養をあげるため、お料理というものをしてみます!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ