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飴玉と紅茶と


「あれから、噂の方はどうですか? ラウロさん」

「それが、結局正体はわからないまま、謎に包まれて消えつつあります……。はぁ、冒険者たるもの、真実を突き止めたかったです……」

「ふふふ。好奇心旺盛もいいですけど、今回ばかりは残念でしたね!」

「……エルキアさん、なんか嬉しそうですか?」

「いいえー?」


 昼食後、冒険者で溢れていた店内に、静けさが戻り始める時間。

 エルキアはラウロと雑談を楽しみ、嬉しそうに食器を片付ける。


「エルキアお姉さん、紅茶のお代わり貰えるかい?」

「はい、ただいま。リアちゃん、すっかりソレがお気に入りですねぇ」

「えへへ、まあね」


 角席の隣に座って、紅茶をたしなんでいた、赤目の少女リア。

 リアはエルキアからお代わりを貰うと、シュガーポットに入った飴玉を入念に選んだ。

 カラコロ、カラコロと、中の飴玉がぶつかり合う。


「あの人、最近よく見かけますね。新しい常連さんですか?」

「はい。少し前から通い始めてくれて、もうすっかり仲良しです」

「流石。ここ、親しみやすいですからね」


 和やかに、言葉を交わすエルキアたちを横目に、リアは飴玉を一粒選び取る。


「今日もお前にしようかな」


 自身の瞳と同じ、赤い飴玉。

 光を通し、キラキラと輝く様はルビーのように透き通る。

 ぽちゃんと静かに紅茶に沈め、リアはくるくるとスプーンでかき混ぜる。

 香り立つ湯気に混ざり合って立ち昇るのは、ベリーの香りだった。


「はぁ……何度かいでも癒されるなぁ、この香り」

「前から思ってたんですけど、リアちゃんって紅茶に詳しいんですか?」

「いや、全然?」

「あれ……」


 覗き込んだエルキアが、拍子抜けしたようにガクリと姿勢を崩す。

 リアは気にした様子もなく、「いただきまぁす」とカップを持った。


「ここの紅茶が美味しいから、ぼくはこれを飲むだけ」


 コクリ、コクリ。

 紅茶が喉を通るにつれ、リアの喉が小さく鳴った。

 鼻を通る茶葉の香り、口に広がる飴玉の甘味。すっきりとした飲み心地。

 リアは「ほぅ」っと息を吐き、満足そうにカップを置いた。


「お待たせいたしました。こちら、カルボナーラになります」

「わぁ、待ってたよ! 今日もすごくいい香り。さっそくいただきます!」

「はい、どうぞ」


 紅茶を退け、置かれたパスタに手を合わせたリアを、厨房からやってきた店主が笑顔で見守った。

 ぐるぐるとパスタを巻き付けて、器用にフォークで絡めとる。

 とろりと流れるクリームチーズが、パスタを伝って流れていく。

 リアはあーんと口を開けると、ホクホクに熱いパスタを口内に閉じ込めた。


「んんっ、あっふぃ」


 しかし、美味しい。

 リアは熱さに悶えながらも、口内に広がる滑らかなチーズを楽しんだ。

 パスタの柔らかな歯ごたえ、どっしりとした食べ応え。

 チーズの中に絡み混じった、厚みのある贅沢なお肉。確か二度目に食べた時、店主が『ベーコン』と説明してくれた肉だ。


「んん~、飴玉の方が好きだけど、こっちはこっちでピリッと辛みがあって美味しい~っ。長く旅をしてきたけど、こんなに美味しいパスタは生まれて初めてだよ」

「お褒めいただき光栄です。ところで、リアさん。実は、飴玉に関する商品で、是非食べて貰いたいものがあるんです」

「うん? ぼくに?」


 リアはパスタを食べながら、店主の言葉に首を傾げる。

 店主は「お待ちください」と一礼すると、速足で厨房へ消えた。


「ああいう、お客さんに商品勧める時の店長って、なんか楽しそうですよね」

「ふふ、そうですね。たぶん、嬉しいんだと思いますよ」

「嬉しい? タカツカさん、嬉しいのかい?」


 言葉を交わすラウロたちに、リアが疑問の声を投げた。

 エルキアはリアに微笑んで、


「はい。自分の作るスイーツを、誰かが美味しいって食べてくれる様子が、店長は好きなんだと思いますよ」

「ふぅん……」


 エルキアの言葉を聞きながら、リアの視線が厨房へ向けられる。


「ぼくも、自分の魔法が誰かのためになった時、嬉しいと思うよ」

「なら、きっと同じ感じですね」

「うん。タカツカさんの気持ち、なんとなくわかった気がするよ」

「……あの、リアさん? って、何されてる方なんですか?」


 笑顔を交わす女性たちに、控えめな声でラウロが言う。

 リアはラウロの方を見て、うーんと一つ考える。


「旅をしながら世界を回って、趣味で遺跡なんかの調査をしてるよ」

「遺跡の調査が、人助けに繋がるんですか?」

「うん。昔の失われた魔法っていうのは、案外便利なものが多いんだ。ぼくが調査してるのは、そういった便利な魔法さ」

「へぇ、それはすごい。見たところ、まだ若いのに……。ちなみにどんな魔法が?」

「うーん。最近で言えば、ワープゲートを作る魔法なんかもあるよ」

「わ、ワープ? 転移魔法とは違うものなのか?」

「近いけど違う。ワープゲートは文字通りゲートを作って、遠くの場所と場所を繋ぎ、そこを誰もが好き勝手に行き来できるもののこと。対象者しか転移できない転移魔法とは、規模が違うんだ」

「へぇ、確かにそれは便利だ」


 さすが冒険者といったところか。瞳を輝かせて話に食いつくラウロは興奮したように頬を紅潮させた。

 エルキアは関心の声を漏らし、純粋に興味の視線を向けている。


「できたらぜひ教えてくれ!」

「気が向いたら、だね。まだ一回しか実験したことないけど、おしい結果は出てるんだよね」

「そ、そうなのか!? 一体、どんな風になるんだ!?」

「あはは、それはナイショ」


 リアはパスタを頬張りつつ、ラウロの会話を受け流す。

 気づけば、店内の香りが増していた。


「お待たせいたしました。こちら、ステンドグラスクッキーこと、クッキー飴です」

「わぁ……っ」


 ゆるりと置かれた皿の上、並んでいたのは焼き菓子のクッキー。

 こんがりと焼けた表面と、香しい糖の匂いとバターの香りがマッチして、視覚と嗅覚の両方を刺激した。

 しかも、それだけではない。

 リアは一枚手に取って、店内を照らす明かりへと掲げた。


「すごい……ガラス――ううん、本当に宝石みたい」


 こんがりと焼けたクッキーの、その内側。

 中央部分となる場所がハート型に型抜きされ、なにやら光を反射している。

 淡い黄色からオレンジへのグラデーション。光を浴びる度にキラキラと輝くその原因に、リアは見覚えがある。


「クッキーの中に、飴があるんだ」


 自分でも、混乱しそうな言葉だった。

 リアはクッキーを口元にやり、ペロリと宝石部分を味見する。

 ……甘い。

 間違いなく飴による甘味だった。

 店主はこくりと頷いて、食べるよう視線で促してくる。

 リアは少し間を開けて、ザクッ。そして、パキッ。

 瞬間、


(あ――この飴、酸っぱい)


 ザクザクとしたクッキーの生地から、糖の甘味が滲んでくる。

 対し、咀嚼するたびにパリパリと割れる飴からは、果実のような酸味が溢れた。

 甘味、酸味、甘味、酸味。

 交互に味を楽しむように、ザクザク、パリパリ。ザクザク、パリパリ。

 心地よい音が鳴り響いて、リアは紅茶を手に取った。


(少しパサついたクッキーと、中にある飴。紅茶との相性が、悪いわけがない)


 ドクドクと、期待で心臓が早まる中、リアは紅茶を口にした。


(――っ)


 クッキーの糖が紅茶をさらに甘くし、元々溶かしてあったベリーの香りが広がって、どんどん新しい味がやってくる。

 喉を通るスッキリとした味わいが、全てをさらっていくようだ。


「ふはぁ……幸せぇ」

「よかった。リアさんなら気に入るかなと、新しく作ってみたんです」

「すごくいい、すごくいいよ、タカツカさん! クッキー飴なんて言うから硬いのかと思ったけれど、案外そんなことないんだね。パリパリ食べれて、クッキーとの相性も抜群! ぼく、このお菓子があるなら毎日でも通うよ!」


 興奮したようなリアの勢いに、店主は笑みを浮かべて、ラウロとエルキアの視線がリアに向かってやってくる。

 リアは視線にハッと振り向くと、クッキーの乗ったお皿を差し出した。


「お兄さんたちも食べる?」

「え、いいのか?」

「わ、私は仕事中なので」


 前のめりになるラウロと、のけ反るエルキアがそれぞれ反応を示した。

 すると、店主はおもむろに咳ばらいをし、


「さて、洗い物でも済ませてこようかな。あともうしばらく、十分くらいは厨房にいるかな……。その間、ホールの様子は見れないけど。それでは皆さん、ごゆっくり」


 ニコリと笑みを浮かべながら、いつもに比べだいぶ速足で店主が厨房に消えていく。

 エルキアはラウロたちと顔を見合わせ、ふっと顔を綻ばせる。


「では、あくまでこっそり、一枚だけいただきます」

「はぁい、どうぞぉ」


 にししと笑ったリアの皿から、ラウロとエルキアが一枚ずつ手に取る。

 ラウロのクッキーは星型に、エルキアのクッキーは花型に型抜きされていた。

 光を反射する飴の輝きが、動きに合わせてキラキラと揺れる。


「んン――! これは確かに、なんだか新しい食感だ!」

「んん~~っ、お砂糖の甘~い生地と、フルーツの香りがたまらないですぅ。しかもこの飴、噛むたびにパリパリと音がして、食べてて面白いですっ」

「ふふ、でしょでしょ? 飴玉ごとに変わる味が、混ざり合ってもっと豊富な味になるでしょ?」


 はしゃぐような三人の声が、店内に心地よく広がった。

 カランカランと扉が開き、エルキアが咄嗟に振り返る。


「いらっしゃいませ――あ、オットーさん!」

「おぉ。久しぶりだな」


 パタンと扉が閉められて、姿を現したのはドワーフの男、オットーだった。


「いきなりですまねぇ。今ぁ、店主さんはいるかい」

「はい、厨房の方にいますが……。どうかなさいましたか?」

「ああ――。ちょいとばかし、大事な話があってな」


 コテン、と首を傾げるエルキアと、ラウロの視線がぶつかった。

 リアは黙って紅茶を飲み、オットーの様子を見つめている。


「ジヨルドが、また動き出した」

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