第8話 魔王様はレベルが上がった。
教室に戻ると、あり得ないほど空気が冷え切っていた。
「比良坂、大丈夫なのか?」
と古典の北見先生は心配そうに声をかけてくれた。
「えぇ……はい、お陰様で。心配おかけしました」
僕のその声に、周りの皆が「えぇ? 嘘だろ!? あれだけバックリ手を切って!?」と驚いていた。
「そ、そうなのか? 比良坂、手を見せてみろ」
「どうぞ」
「……特に重傷を負ったようには見えないな」
北見先生の声で興味を示したのか、皆が僕の手を見にくる。
「あ、あれぇ? バックリ開いて血がブシャーーーってなってたような……」
誰かが言った一言に、皆はうんうんと頷いた。
おい、具体的な表現はやめてください。
「魔法が派手でそう見えただけじゃない? 実際にはこんなもんだったよ。でも魔法って結構怖いよね、僕は使えないからその辺の認識が弱かったかな。もうこりごりだよ」
どうですか、暗にもうこの手のゴタゴタに巻き込むなよって言ってやったよ!!
イエス、僕はノーと言える日本人。
「いや、比良坂はよくやったぜ」
「私も魔法はもっと慎重に扱わないとって思ったよ」
「Aランクの小島相手に一撃入れるんだから、お前って奴は大したもんだ」
あれれ? これは僕の株が上がってますか?
これ期に過ごしやすくなれば良いかな?
そんな事を考えていたら話の流れが妙な方向へ流れていった。
「むしろ小島やばくね?」
「あぁ分かる分かる。Aランクなのに単純な攻撃ばっかりだったね」
「なめぷし過ぎて一発くらった件www」
「むしろ最後の魔法、比良坂君が避けてたら別の誰かが怪我してたんじゃね?」
あ、あれれ?
「それあるわぁ。精神眼まだ持ってないやつ結構いるっしょ」
「俺、精神眼持ってっけど比良坂君の動き凄かったぞ。小島の魔法は風属性でそれなりに速いのに身体強化のみで避けてたからな。ぶっちゃけ俺には無理だわ」
「比良坂君が言ってたように大した威力なかったんじゃねぇの?」
「だとしてもだよ。あれだけ派手に血流すような攻撃を普通するか?」
流石にこれ以上はいけない。
「ね、ねぇ。お互いに反省が多い分、得るものも多かった。僕はそう思いたいんだけど」
みんなの目が僕に集中する。
「比良坂君……良い人すぎかよ」
「俺だったらブチ切れてるわ」
「向上心の塊かよ……って魔法使えないからか……なんかごめんな」
「真代くんマジ天使」
な、なんだこの人たち……手のひらグルングルン回ってるんだけど。
小何とか君も僕の事すっごい睨んでるし……。
い、居た堪れないのは僕も一緒なんだからね!!
もはや授業どころではなくなってしまい、困り果てた僕を助けたのは校内放送での呼び出しだった。
『高等部担当の山中先生、一年D組の小島直人君、比良坂真代君。至急、理事長室まで来てください。繰り返します――』
全員がスピーカーに目を向けた。
…………さらに話が大きくなったのかもしれない。