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魔王の転生先は日本(ファンタジー)でした。  作者: くろきしま
01章 魔王様は劣等生
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第7話 魔王様と不思議な妖精

 黒歴史、忘れたい過去、泡沫となって消え去って欲しいのに、時折顔を出しては薔薇の棘のように刺してくる記憶。

 僕は…………ワシは……。


「なんでじゃ……なんでワシは魔法が使えないのじゃ!? 魔力はある!! 精神体も見える!! なのに何故!! ワシの術式が発動せんのじゃ!!」


 公園ではワシと同い年の童が火を出し、風を起こし、水を出して遊んでいた。

 かつて魔王と呼ばれ恐れられたワシは、今やここにいる童どもにも劣る出来損ないでしかない。


 ……世知辛すぎるじゃろ!?


「ねぇーねぇー」


 ほっぺをツンツンする童がおる。

 母上と公園デビューしたときから付き合いのある愛澤さんの愛娘『勇希』じゃ。


「なんじゃ?」


「あのね、あのね」


 愛くるしくモジモジと口ごもる。

 実に童らしい。

 ワシに子供がおれば耐性もあったのじゃろうが、生涯独身だったワシは今この瞬間、勇希にメロメロになりかけていた。


「な、なんじゃ?」


「えっとね、あのね、まーくんは、どうしてへんなしゃべりかたをしてるの?」


 ん? てっきり将来はワシの嫁になるとでも言うと思っていたのじゃが、この童は何を言った?

 どうして、変な喋り方をしてるの? じゃと?


「まーくんは、おじいちゃんみたいだねってみんないってるよ?」


「そ、そう言われてみれば童の口調ではなかったか……いや、しかし」


 300年を生きたワシが今更『僕』などと……無理じゃろ、気持ち悪すぎじゃ。


「わ、ワシは魔王であるから良いのじゃ」


「まおー? まーくんまおーなの?」


 勇希は目を丸くする。

 まだ幼い勇希には、魔王がどういう存在か分かってないのかもしれぬな。


「そうじゃ、ワシはあらゆる魔法に精通した王様なのじゃ。故にワシはワシのままで良いのじゃ」


 堂々と胸を張る。

 だが、それと同時に手のひらが熱を帯び、じくじくと痛み出す。


「キャハハ、まーくんおかしいよ!」


 ……あ、これはダメじゃ。


「何がおかしい。ワシが魔王であることは揺るがない事実なのじゃ」


 だがワシの口は止まらない。

 この先はならぬ!!

 い、嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ!! ワシは見とうない!!


「だって、まーくんまほーつかえないよ?」


 ……あ。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 目を開くとカーテンで仕切られたベッドの上で目を覚ました。


「……ここは、病院? ワシは……一体」


「鷲?」


 いきなり声が掛かる。

 目を向けると勇希がベッド側の椅子に腰をかけて、こっちを見ていた。


「鷲にでも襲われる夢でも見たの? アンタ泣いてるわよ」


 頬を触れると確かに僕は涙を溢していた。


「たぶん、もう覚えてないや」


「そう、もしかしたら決闘の対戦相手が風属性だったからなのかもね、鷲って風のシンボルだもの」


「ここは……保健室? 勇希が運んでくれたの?」


「違うわ、金剛君よ。後でちゃんとお礼言っておきなさい」


「うん、そうする」


 そういって僕はベッドから降りた。

 勇希が「もう大丈夫なの?」という心配の声を「平気平気」と軽く受け流しながら、カテーンを開いた。


「え? なんでイチャイチャしないの?」


 女性の顔が近くにあった。


「何してるんですか? そして何を言っているんですか『巻口 七海』先生!!」


 勇希が顔を赤くして怒鳴る。

 七海先生はニャフフと猫のような笑い声を漏らした。


「16歳高校生、若い男女が薄暗いベッドで二人きり、何も起こらぬはずがなく。あわよくば盗撮して売ろうかと」


 思った以上にクズでした。


「保険医やめて本職に戻ったらどうです?」


「嫌よ! 今更私にデスクワークに戻れって言うの!?」


「致命的に向いてませんよ」


「ブーブー!! じゃあ仕方ないから保険医らしい事をするわよ!」


 七海先生は僕の右手の傷口に被せてあったガーゼを取る。


「あらら、バックリいってるわねぇ」


「そうですか? まぁその内治りますって」


「そんなわけないでしょ!!」


 僕の傷口を覗き見た勇希が青い顔をして怒る。


「ほ、ほほほ骨見えてんじゃない!! どどどどうしよう。病院に行かないと!!」


「まぁまぁ、愛澤さん落ち着いて。出血は止まってるし傷口も綺麗だからすぐ治るわよ」


「へ!? そ、そうなんですか?」


「そうそう。あ、もう次の授業が始まるわね。愛澤さんはもうクラスに戻りなさい。彼とはクラスが違うから言い訳も出来ないわよ」


「え? あ、はい」


 七海先生は勇希を保健室から追い出す。

 出る直前に「勇希、ありがとう」と声をかけておいた。


 保健室に二人きりになり、七海先生は僕を責めるような目線を向ける。


「で、何でこんな無茶をしたの?」


「えっと……成り行きで?」


「成り行きで流血沙汰になるって何!? ここはいつから世紀末になったの?」


 僕は事のあらましを七海先生に伝えた。

 あれよあれよという間に話が大きくなっていき、口を挟む余地がなかった。


「マシロちゃんって馬鹿なの?」


「バカって酷くないですか!?」


「嫌なら嫌って声を出さなくっちゃダメじゃない!! ……ちょっとぉ、マシロちゃんつよつよだからって天狗になってない?」


「つよつよじゃないから怪我をしてるんですが……」


 七海先生はため息をつくと、保健室の遮光カーテンを閉めた。


「もう、早くその怪我治して教室に戻りなさい。私はこの件を報告するから」


 七海先生はリモコンに手を伸ばし録画ボタンを押した。

 この保健室には魔法を観測できるカメラが設置されている。

 これも七海先生の仕事の内だ。


 ……もっとも、合法かどうかは知らないけど。


 僕は「はい」と返事をしてポケットの中とキーホルダーを取り出した。


「おいで『アリス』」


 そう呼びかけるとキーホルダーに付いている魔石から光が溢れる。

 溢れる光は手のひらに乗っかる程度の小さな女の子に姿を変えた。


 頬を膨らませながら仁王立ちしている。


(バス◯ーマシンかな?)


 小さな手で僕の左頬をペチペチと殴る。


『何で!! 私を呼ばないの!? 鳴らしたのにチリンチリンって!!』


 うん、聞こえてた。


「いや、あれは男と男の決闘だし。妖精のアリスの力は借りれないよ」


『元々マシロの力なのよ!! 遠慮する必要なんてないの!!』


 アリスはとある経緯で生まれた妖精だ。

 精霊とコミュニケーションが未だ取れない僕にとって、アリスの存在は非常に大きい。

 だからこそ、僕はあそこでは力を借りる気が起きなかった。


「心配させないように気をつけるよ。アリス、よろしくお願い」


 人差し指の第二関節でアリスの膨らんだ頬をツンツンする。


『別に、私は翻訳するだけだもの』


 アリスは僕の肩にとまり、僕はアリスに治療用に魔力を渡す。

 魔力には僕の指紋なようなもの魔刻紋マナプリントが刻まれていて、通常は人から人へは譲渡出来ない。

 輸血のように拒絶反応が出てしまうから。


 でもアリスのような妖精や、他の皆が契約している精霊などは、魔刻紋マナプリントが人間でいう食事に該当するのでそれに当たらない。

 僕たちは本質的に魔法を扱っていないという事だ。

 これは魔王時代の僕の見解なので、この世界ではもしかしたら違うかもしれないけど……。


 和かな表情を浮かべるアリスを見ていると、間違っていないのかもしれない。


『はやくするのよ』


「キュアライズ」


 僕の言葉と同時に、アリスは淡い翡翠色に発光する。

 僕の右手がアリスの光に包まれ、光が治る頃には傷は綺麗さっぱりなくなっていた。


「相変わらず凄い力ね、マシロちゃんの魔法」


「僕のじゃないです。アリスの力ですよ」


『私は翻訳しただけよ』


「……はぁ」


 僕とアリスはこの禅問答のようなやりとりを結構やっている。

 そしてどちらも意見を譲ったことはない。


 当然だが、精霊眼を持たない七海先生にはアリスの姿が見えない。

 僕がため息をついたのを疲れたからだと誤解して、しばらくベッドで休むよう勧められたが、授業を遅れたくなかったので早々に僕は保健室を後にした。

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